第14話「街門の攻防」
遺跡を飛び出したノアとミリアは、来た道を全力で引き返していた。
木々の隙間を縫うように走る。
枝が肩を打ち、草が足元に絡む。
それでも止まれない。
「はぁっ……はぁっ……!」
息を切らしながらも、同じ速度でミリアがついてくる。
「本当に魔獣が……!?」
「間違いない!」
頭の奥へ響いた、アーク・ギガントの警告。
あの声が告げるとき、それはすでに現実になっているという確信があった。
森を抜け、視界が開ける。
そして二人は、息を呑んだ。
フェルグラードの正門前。
平原を埋め尽くすほどの魔獣の群れ。
狼、猪、蜥蜴――種類も様々な魔獣たちが、まるで何かに追われるように門へ殺到していた。
冒険者たちが言っていた異変。
魔獣たちは、やはり何かから逃げていたのだ。
門上では、据え付けられた蒸気弩が唸り、鉄杭を魔獣の群れへ撃ち込んでいる。
フェルグラードの工房で作られた防衛兵器だ。
その外周では、ギルドの冒険者たちが駆けつけ、剣を振るっていた。
だが数が多すぎる。
「なに、あの数……!」
ミリアの声が震える。
ノアは目を凝らした。
そして気づく。
魔獣たちの後方。
森の影から現れる、赤黒い鋼の獣たち。
脚部に機械的な関節を持ち、眼光だけが紅く灯る異形。
無慈悲に襲いかかる鋼鉄の獣。
暴走機獣。
「あいつらから逃げているんだ……!」
魔獣たちは逃げている。
暴走機獣たちに追われて。
そしてその流れが、街へ向かって押し寄せている。
さらに。
暴走機獣の紅い視線が、一斉にこちらへ向いた。
「……っ!」
背筋が凍る。
見られた。
いや、「認識」された。
次の瞬間。
魔獣の群れを飛び越え、複数の暴走機獣が一直線にノアへ突撃する。
狙いがノアであることは明確だった。
「ノア!」
ミリアが叫ぶ。
ノアは剣を抜き、前へ出る。
「ミリアは下がって!」
最初の一体を斬り払う。
二体目をかわす。
三体目の突進を受け流す。
だが、数が多い。
しかも魔獣より速く、硬く、その体躯は大きい。
生身で戦うのは、どう考えても危険だった。
「くっ……!」
アーク・ギガントに乗ることができれば――
そう思った瞬間、気づく。
間に合わない。
暴走機獣は自分に狙いをつけた。
自分が背を向けて離れれば、その進路はまた街へ向くかもしれない。
冒険者たちでは、この鋼の獣たちを抑えられない。
ここは、動けない。
その時だった。
頭の奥へ、機械音声が響く。
――緊急護衛権限を起動。
――最優先保護対象を確認。戦域へ介入。
森が裂け、蒼い巨影が宙に舞う。
巨木を踏み台に高く跳躍したアーク・ギガントが、ノアと暴走機獣の間に自らを叩きつけるかのように着地した。
凄まじい衝撃。
土煙が舞い上がり、その巨体が盾のように立ちはだかる。
ミリアが息を呑む。
「……来てくれた」
ノアの胸が熱くなる。
アーク・ギガントは静かに片腕を構えた。
左腕の盾を構え、その胸が蒼白く発光する。
――周辺敵性反応、多数。
――ノア、搭乗を要請します。
ただの機械音声。
けれど、不思議とそこには確かな意思を感じた。
「ミリアは街門へ!」
「わ、わかった! 気をつけてね!」
ミリアはノアに促され、門へ向かって走る。
その様子を見届け、ノアがアーク・ギガントへ駆け出す。
胸部装甲が展開し、開かれた操縦席へと滑り込む。
光が満ち、意識が接続される。
視界が一気に広がった。
全周囲投影。
敵影表示。
出力表示。
同調率安定。
そして、自分の手が鋼の手になる感覚。
「行くぞ、アーク・ギガント!」
ノアが拳を握ると同時に、蒼き巨人も拳を握る。
踏み込む。
大地が揺れ、土煙が舞う。
一撃。
迫る暴走機獣をまとめて吹き飛ばし、返す腕で別方向の群れを薙ぎ払う。
圧倒的な力で暴走機獣たちを蹴散らすその力は、まさに巨人が下す鉄槌だった。
たとえ束になろうと、アーク・ギガントの敵ではない。
ミリアは街門へ辿り着き、防衛兵に手を引かれ、どうにか門上へと駆け上がった。
門上から歓声が上がる。
「蒼い巨人だ!」
「援軍か!?」
「いけるぞ!」
だが。
その瞬間。
残る暴走機獣たちが、一斉に立ち止まった。
紅い瞳が明滅する。
そして。
天へ向けて、赤い光の柱が放たれた。
一直線に空へ昇る禍々しい狼煙。
次いでアーク・ギガントの声が響く。
――高位統治機兵への救援信号を確認。
――上位個体、接近予測。
ノアの背筋に冷たいものが走る。
「上位個体……?」
――接敵まで三秒。
――脅威度、極大。
その返答は短い。
だが十分だった。
空の彼方。
雲を裂いて、巨大な黒い影が現れる。
その巨体が大地を砕き、鋭い双眸が紅く煌る。
重厚な装甲。
両肩に並ぶ巨大砲門。
歩く要塞のような巨躯。
そして、中央で脈打つ紅い炉心。
ミリアが門上から叫ぶ。
「なに、あれ……!」
ノアも息を呑む。
今までの敵とは違う。
あれは、“戦争の兵器”だ。
アーク・ギガントが淡々と告げる。
――重装砲撃型統治機兵、確認。
――個体識別名:グラン・バルド。
分厚い茶褐色の装甲を纏った巨兵が、ゆっくりとこちらへ砲門を向ける。
門も、街も、人も。
まとめて消し飛ばすつもりだ。
ノアは拳を握る。
「ここは通さない」
蒼き巨人が構える。
その背後には、フェルグラードの街門。
守るべき人々。
背負うものがある。
ならば、退けない。
空気が張り詰める。
次の瞬間、砲門が紅く輝いた。
煙る鉄と歯車の街を舞台に、巨人の死闘が始まろうとしていた。
――第15話へつづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




