第13話「戦火の記憶」
森を抜けた先に、それはあった。
木々の合間から覗く、灰白色の巨大な構造物。
半ば地中へ埋もれ、蔦に覆われ、ところどころ崩れてはいる。
だが――その佇まいだけで分かる。
自然にできたものではない。
人の手で造られたもの。
しかも、今の時代の技術では到底届かない領域にある何か。
「……あれが、遺跡」
ミリアがぽつりと呟く。
ノアは無言で見上げていた。
胸の奥がざわつく。
近づくほど、その感覚は強くなる。
懐かしいような。
けれど、決して穏やかではない感覚。
開きたくない記憶の扉を、無理やりこじ開けられるような――そんな感覚だった。
遺跡の入り口は、巨大な扉によって閉ざされていた。
表面には幾何学的な紋様が走り、その中央には見覚えのある意匠が刻まれている。
翼を広げた星冠。
見た瞬間、ノアの胸の奥で何かが疼いた。
王家の紋章。
なぜか、ノアにはすぐにそれが理解できた。
「これ……」
ミリアが目を丸くする。
「ああ」
ノアは静かに頷いた。
間違いない。
これは自分と関係のある場所だ。
ふと、ドヴァンから受け取った金属札のことを思い出す。
ノアはそれを取り出し、扉の中央へそっと近づけた。
カチ、と小さな音。
次の瞬間。
紋様全体に淡い蒼白の光が走る。
低い振動音。
長らくその開き方を忘れていたかのように重く、巨大な扉がゆっくりと左右へ開いた。
「開いた……!」
ミリアが目を輝かせる。
「親方の言った通り、本当に鍵だったんだ……」
二人は開いた扉から中へと進む。
そこに広がっていたのは――時を止め、すべてが静止した世界だった。
薄暗い通路。
壁面に埋め込まれた光板が、かすかに青白く点灯している。
朽ち果ててなお、完全には死んでいない文明の灯。
床も壁も天井も、継ぎ目のない滑らかな素材でできていた。
触れれば冷たい。
しかし石ではない。
鉄とも違う。
見たことのない材質。
「……すごい」
ミリアが思わず声を漏らす。
「なんだか、別の世界みたい」
ノアも同じだった。
初めて見るはずなのに、身体のどこかが知っている。
この質感。
この匂い。
この静けさ。
そして――
この場所に微かに残る、哀しみの気配。
奥へと進む。
崩れた通路を越え、停止した機械の残骸を横目に歩く。
やがて、広い円形の部屋へ辿り着いた。
中央には、円柱状の装置。
周囲には半透明の光板が何枚も浮かび、今なお微弱な光を放っている。
ノアが近づいた、その瞬間だった。
ピッ――
乾いた電子音。
止まっていたはずの光板が一斉に点灯する。
空気が震え、部屋全体へ光が走った。
思わずミリアが身を引く。
「わぁっ!?」
そして、機械音声が響く。
――王統認証を確認。
――記録保管庫、限定起動。
――閲覧権限:王位継承者級。
ノアが息を呑む。
王位継承者。
また、その言葉か。
――最終履歴より、記録映像を再生。
――投影を開始。
次の瞬間、部屋の中央に巨大な立体映像が浮かび上がった。
空に浮かぶ無数の光。
地上を埋め尽くす鋼の群れ。
そして――炎。
都市が燃えていた。
地上を進軍する機兵。
人々の悲鳴。
崩れ落ちる建造物。
それは災害ではなかった。
明確な破壊の意志を持って進む、慈悲なき粛清の嵐。
統率された侵攻。
「これ……なに……?」
ミリアの声が震える。
ノアは答えられなかった。
映像の中で、武器を持った人々と、白や蒼の機兵たちが必死に抗っている。
だが、数が違う。
空も地も、紅き機兵の群れに埋め尽くされていく。
中央には、機兵たちが群がる巨大な白亜の塔が見える。
その塔を見た瞬間、ノアの頭に激痛が走る。
「っ……!」
膝をつく。
脳裏へ、断片が流れ込む。
――――
燃える王都。
鳴り響く警報。
泣き叫ぶ声。
剣を握る父の背中。
そして、深く響く声。
『逃げろ、ノア』
『いつか――人の時代を取り戻せ』
――――
「……父上……」
思わず漏れた言葉に、自分自身が驚く。
ミリアが駆け寄る。
「ノア! 大丈夫!?」
「……少し、思い出した」
荒い息のまま、ノアは映像を見上げる。
これは遠い昔の出来事ではない。
自分の記憶だ。
自分は、この戦火のただ中にいた。
そして父――レオニス・アステリオンもまた、その中心にいた。
王として。人類の希望として。
映像はさらに続く。
そこに映る敵は、ただ暴れているわけではなかった。
補給線を断ち、避難路を塞ぎ、防衛拠点を順に制圧する。
あまりにも合理的で、冷徹で、正確。
まるで盤上の駒を動かすような戦い。
「……これは、暴走なんかじゃない」
ミリアが顔を上げる。
「え……?」
ノアは映像を見据えたまま言う。
「意志がある。戦略がある。目的がある」
拳を握る。
「これは――戦争だ」
重い沈黙が落ちた。
やがて映像が途切れる。
部屋に再び静寂が戻る。
「どうして、あんな争いが起きたのかな……?」
答えはまだ分からない。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
自分が追うべき真実は、この先にある。
ノアはゆっくり立ち上がった。
その瞳には、強い光が宿っていた。
「……王都を探そう」
ミリアが見上げる。
「王都って、昔の王国の?」
ノアは頷く。
「そこに、すべての答えがある気がする」
そのときだった。
頭の奥へ、アーク・ギガントの声が響く。
――敵性反応多数、フェルグラード近郊に出現。
――市街地方面へ移動中。
ノアの表情が変わる。
「……街が危ない!」
ミリアも息を呑む。
「まさか……!」
ノアは踵を返す。
「戻ろう!」
遺跡の静寂を破り、二人は駆け出した。
今見た映像を振り返る暇もない。
過去を知るより先に、守るべき今がある。
フェルグラードへ。
新たな戦火が、迫っていた。
――第14話へつづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




