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第12話「冒険者たちの力」

フェルグラードを出て、北東へ。


リークスに教えられた通り、しばらくは川沿いの道を進んだ。

街の喧騒は徐々に遠ざかり、代わりに耳へ届くのは水の流れる音と風が木々を揺らす音だけになる。


空は高く、雲は薄い。

穏やかな旅路――のはずだった。


「ねぇノア」


前を歩くミリアが、くるりと振り返る。


「もし私が強かったらさ」

「うん?」

「魔獣が出ても、ばーん!って倒して、ノアは後ろで見てるだけでよくなるよね」

「その“ばーん!”がよくわからない」

「こう……ばーんって」


両手を広げるミリア。

おそらく勢いだけで言っている。


「なんとなくすごそうなのは分かった」

「でしょ?」


なぜか得意げだ。


「でも、ミリアが強くなったら、僕の出番がなくなるかも」

「いいじゃん。楽できるよ?」

「それはちょっと嫌かも」

「え、戦いたいの?」

「いや……」


ノアは少し考える。


「守りたい、のかもしれない」


ミリアが一瞬だけ目を丸くする。

けれど次の瞬間には、にやりと笑った。


「へぇー?」

「なにその顔」

「べっつにー?」


明らかに面白がっている顔だった。


「いや変な意味じゃないからね?」

「言い訳すると余計に怪しいやつだ」

「違うって」


そんな軽口を交わしながら進む。


少し離れた森の奥では、アーク・ギガントが静かに並走していた。

さすがに街道をそのまま歩かせるわけにはいかず、目立たないよう森側を追従させている。

ときおり木々の合間から、巨人の装甲がちらりと見えた。


「ちゃんとついてきてるね」

「うん」


ノアが視線を向ける。


――追従行動継続中。

――周辺脅威反応、軽微。


頭の奥へ、淡々とした機械音声が響く。

最近、少しずつ分かってきた。

これは耳で聞いているというより、意識へ直接届いている感覚に近い。


「便利だな……」

「何が?」

「アーク・ギガントからの通信」

「私にも聞こえたらいいのに」


ノアにだけ声が聞こえることが、少しだけ不満なようだ。

そういえば、そもそもなぜ自分の意識にだけ声が届くのだろうか。

ノアがそんなことをぼんやり思った。


――ノア。こちら側は木々が多く、速やかな護衛行動が難しい恐れがあります。

――周辺の状況に警戒してください。


アーク・ギガントからの警告が届く。

その言葉に呼応するかのように、森の空気が変わった。


ざわり、と木々が揺れる。

鳥たちが一斉に飛び立った。

ノアの足が止まる。


「ミリア、止まって」


声の調子が変わったことに、ミリアもすぐ気づく。


「……来る?」


ノアは無言で頷いた。

気配は複数。

油断なく周囲に目を向けるノアとミリア。


次の瞬間。


茂みを突き破って灰色の影が飛び出した。

狼型の魔獣。


一体ではない。

二体、三体――いや、もっと。


「多くない!?」


ミリアが短剣を抜く。

ノアも腰の剣へ手をかけた。


「ミリア、下がって!」


最初の一体が飛びかかる。

その牙が届くより速く、ノアが踏み込んだ。


一閃。


自分でも驚くほど、身体が自然に動く。一体目。

喉元へ切り込んだ一撃で魔獣が倒れ伏すより早く、返す刃で二体目の脚を払う。


体勢を崩したところへ膝蹴り。

鈍い衝突音とともに、地面へ叩き伏せる。二体目。


三体目が横から牙を剥く。

身をひねってかわす。

肘打ち。


頭部へ強烈な一撃が入り、魔獣は地面へ叩きつけられて動かなくなった。

その一瞬の出来事に、ミリアが目を見開いた。


「うそ……ノア、強くない!?」

「僕も今知った!」


戦闘態勢を取り続けながら、ノアが叫ぶ。


本当にそうだった。

考えるより先に身体が動く。

踏み込み、狙い、立ち回り。その全てを、身体が知っている。


頭で理解する前に、身体が答えを知っている。

自分の中に刻まれた、生きるための技術。


だが。

続けざまに四体目、五体目が左右から迫る。

さらに後方にも気配。


多い。

さすがに捌ききれない。


避けきれない――

その瞬間だった。


「そこの二人、伏せろ!」


凛と響く女性の声が木々の間を駆け抜けると同時に、風を裂く甲高い音。


ヒュンッ、と一直線に飛来した矢が魔獣へ突き刺さる。

勢いを失った魔獣がその場に倒れる。


続けざまに二射、三射。

正確無比の射撃が、残る魔獣を次々と撃ち抜いた。


「――無事か!?」


森の奥から飛び出してきたのは、長剣を手にした戦士だった。

続けざまに飛び出してくるのは、長槍を担いだ大男。

そして後方には弓を構えた女戦士。


三人ともにその動きには一切の無駄がなかった。

明らかに、戦い慣れている。


「そこの少年、合わせろ!」


剣士の男が叫ぶ。


「お願いします!」


ノアも即座に応じる。

前衛が受け止め、槍が突き、後方から矢が仕留める。

見事な連携だった。


ほどなくして、魔獣の群れは全滅した。

静寂が戻る。


「ありがとうございます、助かりました」


ノアが頭を下げる。

先頭に立っていた剣士が、感心したように笑った。


「いや、こちらも驚いた。少年、かなりやるな」

「自分でもびっくりしてます」

「はは、謙遜することはないさ」


剣士は剣についた汚れを払い鞘に戻すと、向き直った。


「俺たちは、ギルドの冒険者だ」


ギルド。

各地に点在する都市には、街道の護衛や魔獣退治を専門に請け負う冒険者たちの組合があるのだと、以前ミリアから聞いたことがある。


剣士はぱっぱと服の汚れをはたきながら続ける。


「この辺りに出た魔獣退治の依頼を受けていてな。追いかけてたら、君たちがいたというわけだ」


先ほどまでの鋭い目つきが一転、屈託のない明るい表情になっていた。

こちらが本来の性格なのだろうとノアは思った。


「俺はレイナー、こっちの槍使いがボルグ、弓使いがセリカだ」

「僕たちは旅の者です。僕はノア、こっちはミリア」


ちらりとミリアの方を見ると、短剣をしまいこちらに寄ってくるところだった。


「ありがとうございました。私たちだけだったら、ちょっと危なかったかも」

「ちょっと?」

「なんか勝てそうな雰囲気はあったかなって」

「なかなかのピンチだったと思うんだけど……」


後ろにいた槍使いの大男――ボルグが腕組みをして唸る。


「だが妙だ」


低い声。

空気が変わる。


「妙?」


ノアが聞き返す。

ボルグは森の奥を睨んでいた。


「ここ最近、どうも魔獣の数が多すぎる」


セリカも頷く。


「しかも行動がおかしい。縄張りも関係なく移動してる」


レイナーが続けた。


「まるで――何かから逃げるみたいにな」


ノアの胸がざわつく。

嫌な予感。

暴走機獣。

あの紅い目をした巨人――統治機兵の禍々しい姿が脳裏を過ぎる。


思い当たるものが、ある。


「……逃げる先は?」

「決まって人里だ」


レイナーの顔が曇る。


「フェルグラードの近くにも、最近かなり集まり始めてる」


ミリアが不安そうに呟く。


「親方たち、大丈夫かな……」

「街には防衛隊がいるからな。すぐにやられるということはないだろうが……」


セリカが矢筒の中身を検めながら答え、神妙に言った。


「……このままでは、時間の問題かもしれん」


短い沈黙。

やがてレイナーが空気を変えるように笑った。


「まあ、今は考えても仕方ない。君たちは?」

「近くの遺跡へ」

「遺跡か」


セリカが眉をひそめる。


「あそこも最近、変な気配がする。気をつけるといい」

「はい」


ノアは頷いた。

冒険者たちは去っていく。

最後にレイナーが振り返った。


「少年」

「はい?」

「その強さ、大事にしろよ」


ノアは少しだけ困ったように笑う。


「まだ、よく分からなくて」

「分からなくてもいいさ。いざって時に誰かのために振るえるのなら、それは力だ」


その言葉を残して、一団は森の奥へ消えていった。


しばらく沈黙。

やがてミリアがぽつりと言う。


「ノア」

「うん?」

「さっきの、少しだけかっこよかったよ」


ノアが少しだけ驚く。


「……そうかな」

「うん、なんかこう……シュバッて行ってバシュッてやってばーん!って」

「いや語彙どうしたの」

「私じゃなくて、ノアがばーんってする方だったね!」

「だからその“ばーん”がよくわからないんだよな……」


二人は顔を見合わせる。

そして、少し笑った。

だが笑顔の裏で、ノアは考えていた。


魔獣は何かから逃げている。

その“何か”は、きっと自分と無関係ではない。


森の奥から、静かにアーク・ギガントが姿を現す。

蒼い瞳が周囲を走査する。


――無事でなによりです。ノア。

――即時に駆けつけられず、申し訳ありません。


「いや、離れて森を行くようにお願いしたのはこっちなんだし、気にしないでよ」

「もうちょっと近くを歩いてもらおっか。またいつ襲われるかわかんないし」


ノアが頷くと、アーク・ギガントが森の奥から二人の近くへ歩み寄ってくる。

ここから先は、すぐそばを歩いても人目につく心配は少ないだろう。


「行こう」


ミリアが頷く。


「うん」


遺跡の先にあるもの。

そして、この世界で再び動き始めているもの。

それを確かめるため、二人と一機はさらに森の奥へ進んでいく。



――第13話へつづく

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

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