第11話「遺跡への道標」
「お前さんが探しているものは、ここにはない」
そうはっきりと告げられ、ノアは視線を落とした。
期待していなかったと言えば嘘になる。
フェルグラードなら、何か分かるかもしれないと思ったのだ。
自分のこと。
滅びた王国のこと。
そして、父のこと。
けれど、返ってきた答えは、はっきりとした拒絶だった。
「……そうですか」
この場でこれ以上の問答は無意味だろう。
そう思い、ノアがゆっくりと答える。
ミリアが横から少し心配そうに見た。
「ノア……?」
「大丈夫」
ノアは小さく息を吐く。
そのとき、リークスがそっと手を挙げた。
「あの、親方」
「なんだ」
「近くの遺跡なら、何か手がかりがあるかもしれませんよね」
ドヴァンの眉がぴくりと動いた。
「……お前な」
「だってこの人たち、ちゃんと探してるんですよね? だったら……」
「あそこは遊び場じゃない」
「わかってます。でも、街の人はもうほとんど近づかないし」
ノアが顔を上げる。
「遺跡?」
尋ねられたリークスは嬉しそうに頷いた。
「ここから北東に半日くらい行ったところに、小さな古代遺跡があるんです。昔は部品を取りに行く人もいたけど、最近は誰も近づかなくなってて」
「どうして?」
ミリアが尋ねる。
リークスは少し声を潜めた。
「変な音がするんです。中から。あと、魔獣も出るって」
「それ、危ないやつじゃない?」
「危ないですね。あと夜な夜なぼんやりと光ったりするそうです」
「うわ、さらっと怖い情報が増えた!」
リークスは慌てて首を振る。
「いや、あくまで噂ですよ。でも、古い端末なんかが残ってるって噂もあるんです。親方は絶対行くなって言うけど」
「当然だ」
ドヴァンが低く言う。
「壊れているから残っているだけとは限らん。危ないから誰も触れずに残っている場合もある」
ノアはその言葉を静かに受け止めた。
「それでも、行ってみます」
ミリアがちらりとノアを見る。
「行くんだ」
「うん。何か分かるかもしれない」
「まあ、そう言うと思った」
ミリアは肩をすくめた。
「じゃあ私も行く」
「危ないよ」
「今さら?」
「……それもそうか」
ドヴァンは二人をしばらく見つめていた。
やがて、作業台の引き出しを開け、古びた小さな金属片を取り出した。
「持っていけ」
ドヴァンが金属片を差し出す。
「これは?」
「遺跡の外扉に使えるかもしれん鍵だ。使えなければただの金属片だがな」
「ありがとうございます」
ノアが礼を言い、それを受け取る。
ドヴァンはフンと鼻を鳴らして言った。
「礼を言うのは戻ってからにしろ」
どこかで聞いたような言い方だった。
ノアは少しだけ笑った。
ミリアもにやりとする。
「親方って、ガラムお爺ちゃんにちょっと似てるね」
ドヴァンの顔が険しくなった。
「誰だそれは」
「私のお爺ちゃん。頑固で口悪くて、でもいい人。もしかしたら気が合うかも?」
「似とらんし、気も合わん」
「会ってもいないのに!?」
ミリアの言葉にリークスが吹き出しそうになり、ドヴァンに睨まれて慌てて工具を磨くふりをした。
*
工房を出るころには、昼を少し過ぎていた。
フェルグラードの街は相変わらず騒がしい。
炉の音。
人の声。
鉄の匂い。
ノアは振り返り、ドヴァンの工房を見た。
「知らない、か」
「でも、何もなかったわけじゃないでしょ」
ミリアが言う。
「遺跡の話も聞けたし、鍵みたいなものももらったし」
「鍵か……」
手にした金属片をぼんやりと眺める。
どう眺めても、見た目はただの板だ。
その様子を見てミリアが呟く。
「もし使えなかったらポイしちゃえばいいよ」
「いや、ポイしないでね? それで怒られるのはたぶん僕なんだから」
そのとき、背後から声がした。
「おーい!」
リークスが工房の扉から顔を出していた。
「道、間違えないでくださいね! 北東です! 川沿いに行けば途中まで楽です!」
「ありがとう!」
ミリアが手を振る。
ノアも軽く頭を下げた。
その奥で、ドヴァンが腕を組んで立っている。
無愛想な顔のまま、最後に一言だけ投げた。
「気をつけろよ、若いの」
ノアが足を止める。
ドヴァンは炉の火を背に、低く言った。
「古いもんにはな、“残ってる理由”がある」
その言葉だけが、妙に重く響いた。
ノアは頷く。
「覚えておきます」
ミリアも少し真面目な顔で頷いた。
「じゃ、行こっか」
「うん」
二人はフェルグラードの門へ向かって歩き出した。
街の外れでは、アーク・ギガントが静かに待っている。
蒼い巨人は動かない。
だが、ノアが近づくと、その瞳にかすかな光が戻った。
――待機態勢、継続中。
――最優先護衛対象の生存を確認。
「心配かけた?」
――異常ありません。ノア。
「それはよかった」
ミリアが見上げて笑う。
「じゃあ、次は遺跡探検だね」
「探検じゃなくて、調査ね」
「一緒一緒!」
「違うと思うけどな……」
フェルグラードの煙突から立ち上る煙が、夕方の空へ伸びていた。
鉄と歯車の街。
そこに答えはなかった。けれど、答えに続く道は見つかった。
ノアとミリアは、アーク・ギガントを伴い、北東の遺跡へ向かって歩き出した。
――第12話へつづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




