第一章サイドストーリー1「偶然の一致」
アルナ村を旅立った最初の夜。
森を抜けた先の小さな草原で、ノアとミリアは焚き火を囲んでいた。
ぱちぱちと薪の爆ぜる音。
鍋の中では簡単な野菜のスープがことことと煮えている。
少し離れた場所ではアーク・ギガントが膝をつき、見張りのように佇んでいた。
空には満天の星。
風は爽やかで、どこかアルナ村の夜を思い出させる。
「ねぇ、ノアってさ」
夕食の最中、ふとミリアが口を開いた。
「ん?」
「本当の名前もノアっていうんでしょ?」
ミリアの言葉に、ノアは少しだけ物思いに耽った。
――ノア・アステリオン。
戦いの中で統治機兵がそう呼び、アーク・ギガントも自分をそう認識していた。
断片的に戻った記憶の中でも、その名は確かに自分のものだった。
燃える王都。
崩れゆく塔。
そして最後に聞いた父の声。
――『ノア。逃げろ』
確かに父も、自分をそう呼んでいた。
「うん……そうらしい」
ノアがゆっくり頷く。
すると、しばし沈黙していたミリアがぽそっと呟いた。
「適当につけたのに、合ってたんだ」
「今適当って言った?」
聞き捨てならない発言だった。
だがミリアは気にした様子もなく続ける。
「“ノア”っていうのはさ、アルナ村の古い言葉で“安らぎの星”って意味なんだよ」
「え、そうなんだ」
初耳だった。
ちゃんと由来があったらしい。
そういえば、ミリアが最初に自分へ名前を呼んだとき。
彼女は空を見上げて、星を眺めていた気がする。
「違ったかもしれないけど」
「不確実な情報やめてね?」
危うくアルナ村の文化として記憶に刻み込むところだった。
当面まだ帰れる予定はないけれど。
しばらくして、ミリアがスープを飲みながらぽつりと呟く。
「私にもなんか出生の秘密とかないのかな」
「なにそれ」
うーん、と首を傾げながらミリアが続ける。
「実はノアの王国のお姫様だったー、とかさ」
「……そりゃ、僕に記憶が無いから全くないとは言えないけどさ」
ノアがパンをかじりながら答える。
「でも、ミリアは生まれも育ちもアルナ村でしょ?」
「そうだよ」
即答だった。
そういえば、ミリアの家族構成や生い立ちを、あまり深く聞いたことがなかったな――とノアはぼんやり考える。
ふと沈黙が落ちる。
だが今度の沈黙は、どこか妙だった。
何か企んでいる気配。
ミリアが突然、居住まいを正して、妙に澄ました声を作る。
「……『私ね、ずっと前からあなたのことを知っていたような気がするの』」
じっとこちらを見つめる。
その真剣な顔があまりにも似合っていなくて、ノアは思わず吹き出した。
「ぷっ……ミリアにはそういうの似合わないな」
「あっ! あーっ! 今そういうのあんまり言っちゃいけないんだぞ!」
びしっと指を差して憤慨する。
ノアは腹を抱えて笑った。
「ご、ごめんって……でも、似合わない……っ」
「ふんだ。おぼえてろよ」
ふてくされた声で毛布にもぐるミリアを見て、ノアは小さく笑う。
かつて呼ばれた名「ノア・アステリオン」。
そして今、ミリアが呼ぶ「ノア」という名。
同じ「ノア」という名前。
けれど彼女が呼ぶその名は、ノアには少し違って聞こえた。
過去ではなく、今を思い出す名前。
アルナ村で過ごした日々。
暖かな人たち。
そして――隣で寝息を立て始めた少女。
君が名前をくれて、本当によかった。
夜空には、安らぎの星が静かに輝いていた。
*
しばらくの後。
寝入ったかと思ったミリアが、またぽつりと呟いた。
「……でもこうやってちょっと匂わせておけばさ、後でなんか追加されたりするかもしれないじゃない?」
ノアは即答した。
「もう寝なさい」
「はーい」
――本編第二章へつづく
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




