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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
終章

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89/97

89.平和な日常と不穏な日常は考えようによっては紙一重です。

淡々と日々が過ぎていく。


訓練や任務をこなし、時に怪我をすることもあれば、挫けそうになって塞ぐこともある。そうかと思えば、休みの日に出掛けてリフレッシュし、また翌日からの日々を繰り返していく。


シャノンさんのプロポーズは、はっきりと断った。

ダリオさんに会ったことは伝えてはいない。

けれど、察しのいい彼はすぐにわかったようで、「うん、わかった」と寂しそうに納得してくれた。


それからも過ぎていくなんてことない日常。

それが、今の私の毎日。


「最近、フェニックス見ないな……」


夜、独身寮の窓辺に立ち、空を見上げてポツリと零す。


〈その代わりに、星がよく見える〉


情緒のある返しをするクロに、ふふっと微笑みが漏れた。


「そうだね。今日は月もないから、綺麗に輝いて見えるね」


――だからこそ、暗い夜空に灯る炎が見たくなってしまう。

でも、そのことを口にするのは止めておいた。

代わりにクロの頭を撫でてベッドへ向かう。


「そろそろ寝ようかな。今日ももちろん、一緒にお願いね」


〈無論だ〉


最近はすっかり一人で寝られなくなってしまっていた。

寂しい、というのもあるのだけど――


(ダリオさん以外に、寝首をかかれるわけにはいかない)


第0部隊の他の隊員に、消されたくなどない。

安全面を見越して、どれだけ魔力を消費しようが、クロと一緒に寝るのが日常になっていた。


「おやすみ、クロ」


〈おやすみ――ネモフィラ〉


最近は夢も見ない。

それくらいに、深い眠りに入っているのかもしれない。





「わ、私、ここは天職かもしれません……」

「かもなぁ。俺、正直アンタがここまで残るとは思ってなかったよー、スピネル」

「ヒルデンさんに褒められるなんて、怖いですぅ」


相変わらずプルプル震えながらも、彼女の顔は喜色満面である。

数か月前に放り込まれた彼女は、みるみるうちに頭角を現していった。


「意外と度胸あるんだよなー、さすが大量殺人犯。 食事に毒盛ったんだっけ?」

「はい、もりっと盛らせてもらいましたぁ。そ、それから、しつこく息がある人達は、止めを刺して回りましたぁ……」

「うへーこっわ! 終身刑だったってのも頷けるわ」

「顔がイッちゃってるとこが尚更ヤバいよねぇ」

「ああ……恐ろしい……早く娘たちのためにお金を稼いで、まともな場所に帰りたい……」


詰所にて、和気あいあいとした雰囲気で彼女――スピネルの過去の罪に触れていく。

これが異常な光景と思わなくなったのは、いつの頃だったか。


「でも、隊長に比べたら、私なんて、まだまだですぅ……」


急に話がこちらに向き、身を固くする。


「確か、ガラナとの終戦時に、大量の捕虜を皆殺しにしたんですよね?」


「それから、終戦後にイリス平原にガラナの生き残りの潜伏兵が出たとき、施設にいた味方もろとも燃やし尽くしたとか……。

うう、痺れますぅ……」


うっとりした目を向けられて、途端に目の前が赤くなる。


(なんの事情も知らないくせに――)


だけど、ぐっと手を握り締め、その辺をガンッと蹴って感情を逃がした。


「おお、ほんっと隊長ってば成長したなぁ。前までだったら、スピネル、おまえ今の瞬間に炭にされてたぞ、きっと」

「ひぃぃっ、恐ろしいですぅ!」


ぶるぶると身を捩るスピネルだが、全然怖がっているようには見えない。

彼女にとっては、このキチガイの吹き溜まりは、本当にパラダイスであるに違いない。


「あ、そういえば隊長」


ヨランダさんがこちらを振り向いて言った。


「なんだ」

「スピネルがずっと手こずってる任務が一件あって、私も手伝ってみたんだけど……ちょぉっと厳しそうなの。

隊長、代わりにやってくんない?」

「ばっ……、おまえ、この件は黙っとけってあれほど言っただろ!」


珍しくノールさんが慌てた様子でヨランダさんを止めに入る。

黙っとけって……一体何だ?


「だって、全然うまくいかないんだもの! 隊長様がじきじきにやるしかないでしょ?」


ヨランダさんの言い方に眉を顰める。彼女が手こずる任務なんてよほどのものだ。

けれどそんな任務……スピネルに振った覚えはあったか?


考え込む自分を見て、ノールさんが観念したようにして言った。


「……俺が隊長には内緒だって、指示してた任務があんだよ。知ったらアンタ、絶対に握りつぶすだろうから……」

「内容は?」


問いかけに対し、ノールさんに代わってスピネルがぷるぷる震えつつ、困ったような顔で答えた。


「第一部隊、キリク班の『ネモフィラ・フィリアス』の処分ですぅ」


まさかの名に、思わず目を見開く。


「でも、彼女、ぜんっぜん隙がなくって……

わ、わたし、ヨランダさんに助けを借りたんですが……」


「隊長、あの前に北東支部でサポート班に混ざってた女の子覚えてる? あの子だよ、ずっとオジサマを探してたって子! あの後、サポート班全員に処分命令が出てたんだけど、あの子だけしぶとく生き残ってるんだよねぇ~」


「寝ているときはフェンリルがいて近付けなくて……。日中も常に防御結界張っててガチガチで、魔力が少なくなってくる夕方を狙ったんですが、防御の腕輪が頑丈で、跳ね返されちゃいましたぁ……。

毒を盛ろうにも、フェンリルの鼻が効くのでできなくてぇ……」


「……」


(――処分対象、だと?)


サポート班に命令が下っていたことすら、寝耳に水だった。

ノールさんを睨みつけると、彼はやってしまったと額に手を当てていた。


「俺は、オッサンから事情を聞いてたんだよ。彼女が探してたのって、アンタだったんだろ? 

……それじゃあ隊長があまりにもかわいそうだから、秘密裏に片付けようとしてたんだよ……」


不要な気遣いに、余計に胸にどす黒いものが吹き荒れる。


「……いま、彼女は?」


けれど、怒鳴りそうになる声をなんとか押し殺して静かに尋ねた。


「しぶとく生き残ってるよ。ただ、上からはせっつかれてるけどな」


ダンッ!


「きゃっ!」


これ以上は耐え切れず、全力で机に拳を叩きつけた。

叩いた部分が煙を出して焦げているが、知ったことではない。


(限界だ――もう、いますぐにでも、"借り"を返してもらいにいかないと)


「あ、おい! どこ行くんだ!」

「――元凶に会いに行ってくる。戻りは、未定だ」


どうしようもない怒りで目の前が歪むが、彼女が無事だという事実だけで、気持ちを収めようと試みる。

魔力制御の制御具は全て付けているはずなのに、行き場を失った魔力が全身から漏れ出る。


(過去を――清算するときが来た)


フードを目深に被り、荒い足取りで詰め所を飛び出した。


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