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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
終章

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88/97

88.先輩を通じて、彼のことを知ります。

本日2話更新。

自分と同年代くらいの女子が着慣れない軍服を着て、ウサギみたいにぷるぷると震えている。

どう考えても場違いな雰囲気に首をキョロキョロさせ、終始顔を青くしながらこちらの説明を聞く姿は、既視感を覚えるくらいに見慣れた光景だ。


「ひぃぃぃっ! わ、私、死にたくないですぅぅぅ」

「死にたく無けりゃ、死ぬ気で任務をこなせばいい話だ。簡単だろ?」

「うぅ、私、こんなはずじゃなかったのに……うぅ……」


大抵の奴は『こんなはずじゃなかった』と必ず一度は口にする――()()()を選んだ自分の責任を嘆くのだ。

ここにいる彼女も、ノールさんに嗜められるも、さっきからずっと後悔を口にしていて、聞いてるこっちが嫌になってくる。


(俺と違って選択の余地があっただけマシだろうが)


「ほら立って。向こうで私と手合わせしよ。私が色々ここのルール教えてあげるからさ!」

「ひぃぃぃ、手合わせなんて、私できないですぅ……」


自分の苛立ちを察したヨランダさんが、新人の手を引き外へ連れ出してくれた。

助かった、このままここでぐずぐずされていたら、せっかくの新人を危うく燃やしてしまうところだった。


「あれはたぶん、一月も持たないだろうな……」

「……」


ノールさんが苦笑交じりに言うが、全く同意見だった。

上から言われたことは絶対で、どんなに使えない奴でも受け入れざるを得ない。けれども、あの子はどう考えても第0部隊(うち)に向いてない。

きっと今日の夜にでも脱走し、罰則を受けることになるんだろう。脱走は三回まで。四回目以降、姿を見た奴はいない。


(俺の知ったことじゃないが)


「――ここ数年、抜けるばっかで誰も定着しないな」


ボソっと呟いた言葉に、ノールさんがおや、という表情でこっちを見る。


「おい、首の制御具は?」

「最近、付けずに安定してるから、付けてない」

「……そっか。よかったな。油断すんなよ? すぐカッとなって吹っ飛ばすんだから」

「努力してる」


自分で言うのもなんだが、本当に努力していると思う。

何かにつけてイライラしっぱなしだったけど、彼女に会ってからというもの、首輪なしでもかなり自分を抑えられるようになっていた。


(「徐々に慣らしていきましょう」って言われたんだ、その通りにしてやるさ)


「もしかして、任期が明けるのを見越して準備し始めてるとか? 俺より後に来たくせに、そうはさせないぞ」

「――そんな日が来ることなんて無いのを知ってるくせに、よく言う」

「はは、そうだな。誰より業が深いアンタが、降りられるはずがないもんな、うちの隊を」


挑発するように言うが、ギリと唇を噛むだけに留める。


「お、ほんとに努力してるじゃねぇか。せっかく刑期を伸ばしてやろうとしてやったのに」

「…………ぉまぇ……ぁとで、コロス……」


焼け石に水だとしても、刑期がこれ以上伸びるのは本意ではない。

ひたすらに彼女の顔を思い浮かべ、湧き上がる破壊衝動を抑えるのに全力を注いだ。





「約二か月の派遣、お疲れ様! 一応先方からフィリアスの活躍は聞いている。どうだった? 北東支部は?」

「あ……えと、」


出勤早々、キリク班長に向こうでの様子を聞かれ、一瞬言葉に詰まる。


「はい、どこまで貢献できたかはわかりませんが、自分なりに全力で対応させてもらいました」


無難な反応に、キリク班長もうんうんと頷きを見せる。

その後、いつ言おうか迷っていた昨日の朝に起きた出来事を、このタイミングで伝えることにした。


「その……キリク班長は、私が配属されていた臨時班の方たちの話を、お聞きになりましたか? 昨日の朝のことなんですが……」

「ん? ああ、処分されたんだってな」

「……え?」


あまりにもアッサリしたキリク班長の物言いに、反射的に問い返す。


()()()()()()はこの軍では日常茶飯事だ。……もうフィリアスは臨時班じゃない、キリク班の一員として復帰したんだ。何も気にすることはないぞ!」


明るい表情ではきはきと私を励ますキリク班長に、猛烈な不信感が生じる。


「あの、処分って、」

「今日から早速、第一部隊として魔獣討伐の任務が入ってきた。得意の結界を思う存分発揮してくれ。


――……いいな? この件は終わりだ」


顔は朗らかなのに、目が笑っていない。

有無を言わさない彼の物言いに、私も「承知しました」と言わざるを得なかった。




「なんか、フィリアスちゃんったらこっちに帰って来てから元気ないわねぇ……。向こうで何かあった?」


任務開始までの空き時間、バースィマ先輩が近くまでやって来て私の顔を覗き込んできた。気分が晴れないことを言い当てられてしまい、慌てて何もない風を装う。


「元気ないように見えました? まだ移動の疲れが残ってるのかもしれません。

あ、そうだ、北東支部はご飯が美味しかったんですよ! 本部よりも、野菜が甘くて、食堂のレパートリーもこっちと全然違ってて、すごく新鮮でした」

「そうなの? 私があそこに行ったときは……二十年くらい前かしら? なーんもない田舎で、ご飯もそんなにって感じだったけど、随分変わったのね?」


二十年前……私が産まれたくらいの年なんだけど、一体この人はいくつなんだろうか。


「バースィマ先輩って、ここへ来てからずっと第一部隊に所属してるんですか?」

「ん? 私? いいえ、違うわ。私は四年くらい前に、第一部隊にやってきて、この第三班に配置になったのよ。実はビリーの次にここの歴は浅いの」

「え、そうだったんですね。ちなみに、その前はどちらに?」

「あら、それ、聞いちゃう?」


ふふっと笑いながら勿体ぶるので、余計に気になってしまう。


「もしかして、医療部隊とかですか? バースィマ先輩の治癒魔法は本当に凄いと思うので」

「残念、はずれ」

「うーん、じゃあ、第三部隊でイベントのお姉さんとか?」

「それも違うわぁ」


全然想像がつかない。

でも、今は第一部隊でゴリゴリにやっているということは、前も第一部隊に似た部隊にいた可能性が高い。


「たぶん、当たらないと思うわ。……かなり、特殊な場所にいたから」

「特殊な場所……あ」


それを聞いて、ピンとくる。

そして、彼女の方も私が気付いたことを悟ったらしい。


「詳しくは言えないんだけどね。第一部隊よりも、もっと()()()ところだった。全ての任務が、生きるか死ぬかの無茶振りの嵐で……同僚も随分といなくなったわ」


遠い目で語るバースィマ先輩に、確信してしまった。


「あの……これは私の独り言です。だから、返事も期待してません」


そう前置きをした上で、答えを問う。


「その……前の部隊というのは、どこの所属でもない――『第0』のことでしょうか」


私の直接的な問いに、バースィマ先輩は目を細めた。


「ふふ、まだ新人なのによく知ってるのね? せっかくだから、私も独り言を言っちゃおうかしら? これ、今まで話したことないのだけど」

「――独り言なら、耳に入っても、仕方がないですよね」

「ええ、仕方がないわよね。でも、この独り言を聞いた子が、ショックを受けないか心配だわ~……」

「たぶん、その子は割と図太いので大丈夫ですよ」


暗に聞かせて下さいと伝えると、バースィマ先輩は隣に腰を降ろし「じゃあ、ちょっとだけ」と、話を始めてくれた。


「――当時私が結婚した相手って、とんでもなく暴力をふるう人だったのよ」

「!?」


唐突に彼女の口から彼女の夫の話が出てきた。予想外のスタートに、戸惑いの言葉が口をついて出そうになった。

けれど、これは彼女の独り言なので相槌や質問をすることもできず、そのまま黙って耳を傾けることにした。


「付き合ってたときは気が付かなかった。だからこそ、変わった彼に心が追いつかなかった。

……知ってた? 治癒魔法ってね。実は毒にもなるのよ? 過剰な治療は、本人が持っている免疫を低下させ、虚弱体質を生み出すようになる」


バースィマ先輩はふふ、と懐かしむようにして笑う。

そして――


「私は、彼を――殺めた」


「!」


「自首したわ。いくら暴力を振るわれていたとはいえ、一線を越えてしまった。子供もいたのにね……耐えることが、出来なかったの」


まさかの暴露に、独り言とはいえ思わず彼女の方を振り向いてしまう。バースィマ先輩は、どこか悲しみをたたえた表情をして俯いていた。


「普通ならそこで即刑務所行きなんだけど……。そのとき、軍の人から、『スカウト』を受けたのよ」


(スカウト?)


「私は刑期十年が言い渡されていたのだけど、刑務所で十年過ごすか、軍の犬になって刑期を短くするか――二つに一つの選択を言い渡された。

私も若かったから、もちろん後者を選んだわ。短い若い時期を、あの糞みたいな夫に台無しにされたくないって」


バースィマ先輩は俯いていた顔を上げ、空を見上げるようにして言った。


「ただ、その選択は間違いだったと――すぐに思い知ることになったのだけど」


その何とも言えない表情に、堪らずごくりと唾を呑み込んだ。

……このフワフワした先輩の重い過去に、動揺を隠せない。


「連れて行かれた先は、犯罪者たちの吹き溜まり。上からの指示を黙々とこなし、軍に飼殺されてるだけの、生きてるか死んでるかわからないような連中が集まる場所だった」


それから彼女は自分の両手を見て、首を振る。


「人に言えないようなことも沢山したけど……そのときの私、戸籍がなかったから、何しても許されたのよね。だって、"いない人"だったから。

結局……解放されたのは、十年どころじゃない、随分と経ってからよ。ふふ、刑務所で大人しく服役してたほうが、よほど良かったと後で後悔したわ」


泣き出しそうな顔で小さく微笑む彼女に、私では計り知れないくらいの壮絶な何かが、彼女の中に蓄積されているのを感じた。


「……これは私の独り言ですが。バースィマ先輩は孫がいらっしゃると言ってたし、今は戸籍もあるんですよね……?」


我慢できず、口を挟んでしまった。バースィマ先輩は私の独り言に、すぐさま反応する。


「あるには、あるわ」


「でも……子供は私が生きてることを知らないし、孫も、直接会ったことは無いのよ。フフ、たまに、匿名で贈り物をしてあげてるの、契約獣を使って……。今の私の名前、昔のものと全く別物になってるしね?」


「……」


「任期を終えたら、静かに暮らそうと思ってたけど、軍の生活にすっかり慣れてしまったのよね~……。本当、慣れって怖いわぁ。結局、そのままここに籍を置くことになった。

――"第一部隊所属・バースィマ隊員"として」


そこで彼女の話は途切れた。

それから見透かすようにして私に問いかける。


「私が言うのもなんだけど……あそこの連中と関わってはダメ。

彼らは亡霊。

罪を犯して、過去の罪を清算しようとしている最中なの。あそこから解放されてやっと――亡霊から、人間に戻るのよ。

もし、フィリアスちゃんがあそこの誰かに囚われてしまっているのなら、悪いことは言わない、手を引いたほうがいい」


そして、胸元で組んでいた手を首へ持っていき、こきっと鳴らす。


「じゃないと――、

あなた、消されるわよ?」


彼女の真っ黒な瞳が、こちらを真っ直ぐに見据えた。

心配している様子なのに、消す、消されるに関してだけ、仕方がないことのように言ってのけるそのアンバランスさは、酷く奇妙なものに映ってしまう。


「私……それでもいいんです」


視線を逸らさず、彼女に答えるようにしてポツリ、ポツリと一つずつ本音を漏らしていく。

口に出してみると、尚さら、すとんと胸に落ちる。


「あの人の手にかかるなら、それで良いのかもしれない」


「むしろ……そうしてほしいのかもしれません」


そうしたら、もう追いかけなくて済む。


また会えるなら、それでいい。


狂おしいまでに――私は彼を求めているのだから。



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