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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第十章 彼の執着編

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86/97

86.本当に一体あなたに何があったんですか。

本日2話更新。

本日早朝より、絶賛緑化活動の勤労奉仕中――


抉れてしまった地面を元に戻し、地面を均す作業を黙々と行っていく。

私はここで開墾作業しに来たんだっけ、と勘違いしそうになりながら、シャベルを片手にひたすら土と格闘した。


別にこの地道な作業が嫌な訳ではない。

農園育ちの私からすると、むしろ手慣れているから、普段の訓練なんかの数百倍は楽だ。


問題はそこじゃなくて――


「? 何か?」

「ん……みてて、ぁきなぃ、なって」

「……」


時折、視線を感じては手を止める。

気にしないようにしてても、じっと見られ続けては集中が出来ない。


「ダリオさんも手を動かしてください」

「ん……」


今日は、首の制御具を外している。

クロに介して貰った説明によると、制御具は首輪が精神制御を行うもの、それ以外が魔力制御や魔力の流れを整えるものだということがわかった。


昨日の経験から、魔力制御の制御具を外すのは時期尚早と思い知ったので、まずは首輪だけを外して慣らしていくことを試みているのだけど……。


その結果――


「きゅぅけぃ、しょ」

「ちょっと、まだ三十分も経ってませんよ」

「だぃじょぶ」


手を取られ、彼が胡座をかいた部分へと着地する。

そしてそのまま後ろから抱き込まれてしまい、頭にキスの嵐が降ってくる。


――あの、一応罰則の勤労奉仕中なんですが。


彼は私と離れていた五年を埋めようと、これでもかと愛情表現を向けてくる。

別に嫌なわけではないし、むしろ、そこまで私のことを求めてくれるのは嬉しい。

嬉しいのだけど……


(こんなに積極的な人だったっけ?)


確かに、付き合い出してからスキンシップは増えていたけど、ここまで露骨なことはしてこなかったように思う。


(前はもっと理性が働いていたような……それも制御具の影響? 押さえつけられすぎて変にねじ曲がっちゃった?)


「わ」


首筋に顔を埋められ、耳に微かな吐息がかかる。びくっと身体が跳ね、顔に熱が集まってくる。

――この状況を軍の誰かに見られでもしたら、さらなる罰則が待っていそうだ。


「お、お昼休憩にしましょ! ちょっと早いけど……早く終わらせて、早く帰りましょう!」


勢いよく立ち上がり、彼の腕の拘束から抜け出す。

端に寄せていた荷物を持ってきて、支給されたお弁当ボックスと水筒を鞄から取り出した。


「今日のメインは何かな~」


北東支部のごはんは、何気に美味しかったりする。農業地帯でもあり野菜が甘く、本部では出ないようなレパートリーがメニューに連なるので、今日の分も朝から楽しみにしていたのだ。


「おお! スパイス唐揚げだ……! 付け合わせも彩り豊かですね。パンはふわふわ仕様だし、今日は最強の組み合わせ……!」


私が目を輝かせながら膝にお弁当を広げていると、ダリオさんは私の様子を眺めているだけで、荷物に手をつけようとしない。


「あれ、ダリオさんお弁当忘れちゃった?」


それは一大事だと思って問いかけるも、彼は首を横に振った。


「ぉれは、ぃぃ」

「え、お腹空いてないんですか?」


学園に通っていた頃、彼も日替わりの唐揚げを楽しみにしていたはず。

この五年で食の好みが変わったんだろうか。


私の視線から逃れるように、彼はローブの内ポケットからピルケースを取り出し、中に入っている錠剤をいくつか口に含んだ。

そして衝撃の言葉を告げる。


「ごちそうさま」


「!?」


水筒の水を飲み、一息ついている。

朝から移動を含め、相当な体力を使っているはずなのに、錠剤で食事を終了させるなんて……

ごはんを毎食楽しみにしてる私にとっては前代未聞。すかさず冗談だよね?と確認を入れる。


「え、本気ですか?」

「? ぅん」


何言ってんだ、と視線が訴えてきて、本当に今ので昼食が終了したのだと悟る。

そこで、ある一つの疑惑が頭に浮かんだ。


(もしかして……)


「あの……三食全部こんな感じ……?」


お願い、嘘だと言ってと心の中で願うも、


「ぅん」


期待は空しく霧散した。


「……」


(ありえない)


フツフツと湧き上がってきたのは――憤り。


「ダリオさんがこんなに痩せちゃったの、全部その食生活のせいじゃないっ!!!」

「……」

「私の半分あげるから、ちゃんと食べてくださいっ! そんなの、ごはんじゃない!」


ずいっと私のお弁当ボックスをダリオさんの前に差し出すと、彼は困ったようにして首を振った。


「ぃぃ」

「良くない! ちゃんと食べなきゃ、午後もちませんよ?」


私がなおも食い下がろうとすると、彼はふぅっとため息をついて、「クロ、ょんで」と言った。

なんでここでクロ? と思ったけど、表情から察するに、どうやら話したいことがあるらしい。


『クロ、来て』


言われた通りにクロを呼ぶと、ダリオさんはクロを撫でながら、頭の中で何かを伝えているようだった。


<――なるほど>


話が終わり、クロが呟く。


「? クロ。ダリオさんはなんて?」


<今は何を食べても味がしないのだそうだ。口の中が気持ち悪くなるだけだから、食事はできないと言っている>


「……!」


ダリオさんの方を見ると、少し寂し気な表情で頷いた。


「だから、きに、しないで」

「……ごめんなさい」


まさか……そんな事情があったとは。

知らなかったとはいえ、無神経なことを言ってしまった。

それと同時に、どうしようもない気持ちが胸全体に広がっていく。


(普通にご飯が食べられないなんて、本人が一番つらいことだよね……)


しょげたまま俯いていると、お弁当を持っていた手に彼の手がそっと添えられた。


「かして」

「え……」


突然、お弁当ボックスを奪われ、反射的に顔を上げる。

目に入ってきた彼の顔は、どこか嬉しそうで――


「たべ、させて、あげる」

「!!!!!!?」


(いま、なんて?)


発した言葉が予想外過ぎて、一瞬頭の理解が追い付かない。


「はぃ」


フォークに突き刺した唐揚げを口の前に持ってこられ、反射的に口を開いた。

さすがに全部を口に入れるには大きいので、一口だけ齧りつく。

口に入った唐揚げは、香りのよいスパイスが利いていて、想像していた通り美味しい。美味しいのだけど……


「どぅ?」

「美味しいです……」

「ょかった。みず、いる?」

「あ、はい。え、いや、自分で飲めます! 飲めるから!」


水まで飲ませようとするダリオさんに、ぶんぶんと首を振る。


(クロ、助けて!)


困ったときのクロだけど、モフモフ様は身体を伏せて、どこか生ぬるい目でこちらを眺めている。

こういうときに限って、彼は空気を読むのが腹立たしい。


「っぎ、こっち」


次は付け合わせの野菜を刺して、口まで持ってくるダリオさん。


(え、これ私が完食するまで続けるの?)


――その予感通り、彼は絶対に私にお弁当ボックスを渡してくれず、全部彼の手ずから食べさせてもらう羽目になったのだった。





午後、羞恥心を振り払うべく精力的に頑張ったおかげで、ひとまず穴は埋まった。


深い部分は魔法を捏ねくり回して何とかしたので、魔力も相当に使った。まさに疲労困憊、満身創痍だ。


降り積もっていた灰は土に紛れたので、いい肥料になるだろう。

あとは植林でもするのかと思ったけど、苗木がない。

ひとまずはこのままで、他の地域の復興が終わってから、手を付けていくらしい。おそらく、北東支部のどこかの部隊が。


「私は明日から今度こそシアトレの街の支援に行くんですが、ダリオさんは?」

「ひみつ」

「え、なんで」

「ひみつ」


なぜか頑なに次の勤務内容を教えようとしてくれない。


「……言えないならいいんですけど。次はいつ会えますか?」


第一部隊は本部に拠点を構えているけど、第0部隊はどこが拠点なのかを知らなかった。会いに行くことができる距離だと嬉しい。


「――みてぃ」

「え……?」

「ぁぇて、ょかった」


その物言いに、引っかかりを覚える。

まるで――また会えなくなるような言い方だ。


「ダリオさん?」 

「さぃご、だきしめて、ぃぃ?」

「最後って、今日の終わりにってことですよね? 本当の意味の最後じゃないですよね?」


焦る私に、彼は答えを返さない。

曖昧に微笑んで、私へ向けて手を伸ばす。


「……少しだけでいい。このままで」


彼はそう言って、私の身体を緩く――それから強く抱き寄せた。

いつもの小さな声量だったけど、何もつっかえることなく告げられ、驚きで目を見開く。


(この言葉、前にも聞いた――)


唐突に、昔の記憶が胸の中を掠めた。


私がこのセリフを聞くのはこれで二回目。

そして、壊れかけた彼を見るのも――これが二回目。


前回と違うのは、私も彼を二度と離したくないと思ってしまったこと。

求められることに、私がどれほどの喜びを感じているか、この人は知ってくれているのだろうか。


――絶対に、次は逃さない。逃がしてなんかやらないんだから。


辺りに魔力が漂い始める。土の中に残っていただろう、種が次々と芽吹いていく。

五年前、彼との距離感に悩んだとき、魔力を暴走させたことを思い出す。あのときは先輩と後輩の正しい距離感というものに大いに悩んでいた。


(でも――今度は違う)


彼を離したくない一心で、私の中の魔力が暴れ出していく。

芽吹いた葉は次第に花となって次々と咲き乱れ、どこからか伸びてきた蔦が彼の身体を絡め取ろうとする。


そして――。


「おやすみ、ネモ」


毎晩、伝書鳥でやり取りしていたときのようなセリフを聞いた途端――


一瞬で意識を持っていかれてしまった。



次に目が覚めたとき。


私は一人、野花の花畑の中でポツンと佇んでいた。


まるで、ダリオさんと会っていたときが夢だったかのように。



十章終わり。次から最終章となります。


ここまで読んでくださりありがとうございます。よろしければリアクション、評価、コメントいただけると今後の更新の励みになります!

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