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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第十章 彼の執着編

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85/97

85.頼りになる契約獣。でも口は災いの元だったりする。

――そもそも、だ。


首につけている制御具は、魔力制御用などではない。

理性を抑え込むといった、受刑者向けの精神制御具だ。


今まで必死に抑え込んでいた感情を、突然解放されたらどうなるか。……そんなの、火を見るより明らかだろう。


(欲しい。止まらない――)


何度も角度を変えて、柔らかな唇を啄んでいく。

当然、それだけじゃ満足できなくなり、口の中へと入り込む。

彼女は身を捩らせて必死で逃げようとするが、リミッターの外れた自分がそんなこと許すはずもない。

ガッチリと抱き留めて抵抗できないようにする。


自分は何度も止めたし、必死で抵抗した。

それを破ったのは彼女だ。

だからこれは、不可抗力でいいはず。


段々と力が抜けてくたりとなってきた彼女の首筋に吸い寄せられるようにして唇でなぞっていく。

理性なんてものは首輪とともに無くなった。

ただひたすらに目の前の獲物で頭がいっぱいで、他に何も考えられない。

――このまま彼女の全てを頂いて自分のものにしてしまおう。

そう思って服に手を伸ばそうとした、そのとき。


「ガルルルルルルッ――」


獣の低い唸り声が、耳に響いた。


カッと目を見開き、瞬時に物理結界を全身に纏う。

それとほぼ同時にガチンッと腕に噛みつかれたが、咄嗟の判断のおかげで牙が貫通するようなことは無かった。


腕を振り払って、反撃の姿勢に出る。

彼女はというと、成体となった大きな黒い狼の後ろに隠されていた。


『おい、邪魔すんなよ――クロ』


久しぶりに彼の名前を呼んだ気がする。

幻獣とだったら、言葉に詰まることなく自分の言いたいことが伝わるから楽だ。


〈ダリオ――。主を害する奴は、おまえであろうと容赦はしない〉


クロはグルルルルと唸り声を上げ、こちらに向かって全力で威嚇する。

久しぶりの再会とは思えない歓迎っぷりに、逆に気分が高揚してくる。


『はっ、それはこっちのセリフだ。俺の邪魔をする奴は、おまえだろうと容赦はしねぇ……』


魔力を制限するピアスと指輪は全て取り去っている。

魔力の流れをコントロールする腕輪もだ。

上位種の全力にぶつかるには、最高のコンディションだった。


(コイツと力比べなんて初めてだ)


堪らず、口の端が上がった。


――このときの自分は、欲求が別の方向へと、完全に切り替わっていた。

だからこそ、気が付かなかった。

なんの敵意もなく、首輪を持った彼女が、いつの間にか背後に回っていたことなんて。


「そこまでっ!!!」


「あ」と気付いたときには遅く、カチリ、と首元で音が鳴る。


その瞬間。

思考がふわっと曖昧になり、全ての戦意が削がれていく。


(あれ――俺、なんで戦おうとしてたんだっけ?)


目の前のクロが、普通の犬サイズに戻った。

それから、ぼうっとしている自分を見上げ問いかける。


〈おい、大丈夫か〉


「ん……だぃじょぶ」


久しぶりの再会だ。

しゃがみ込んで頭を撫でてやる。


軍へ来てから久しく感じることの無かったモフモフに、たまらず頬が緩む。


首輪をしていると、理性は抑え込むことが出来るけど、反動で感情がダダ漏れになる。けれども、付けてる間はそれを気にするなんてことはしないし、防ぐことも出来ない。


「フフ……かわぃぃ……」


〈おい、主よ。コイツは本当にダリオであってるか〉


「う、うん。そのはずなんだけど、うん。気持ちはわかるよ……」


二人が何かを喋っているが、自分の耳には入ってこない。

ただひたすら、もう止めてくれと言われるまで、モフモフの身体をずっと「かわぃぃ」と撫で回し続けていた。





「そもそも制御具を外した私が悪いんですが……。反省してください」

「……ごめん」


正座をして、向かい合う。私の隣にはクロ。いざというときの番犬代わりだ。クロは鼻をすんすんと嗅ぐと、顔をこてんと傾けてダリオさんに問いかけた。


<それより、おまえのその成りはなんだ。何があった>


ダリオさんは口を開かず、クロに視線だけを向ける。

おそらく彼は、頭の中でクロに話しかけているのだろう。そしてその声は私には聞こえない。


<制御具の副作用だと?>


「え、そうなの!?」


クロの返答で会話内容を予測する。

やっぱり制御具のせいで色々支障を来しているのではないか。


(外して正解だった! ……結果、不穏な感じになっちゃったけど)


その後も、クロに仲介してもらって彼の事情を知っていく。


制御具は、軍で"やらかす"たびに罰則で増えていったこと。

その内に五感や言語に異変が現れ始めたけど、今の状態でストップして長いこと。

だからといって外したら、色々と抑えが効かなくなるので、結局依存してしまってることなど……


「え、そもそも罰則を受けるようなことをするからダメなんじゃ……」


率直な感想を口にすると、彼は目に見えてシュンとした。

……なんだか私の方がいじわるを言ったみたいで、行った傍から罪悪感が込み上げる。


「じゃあ、徐々に外して、コントロールできるようにしていきましょう。現にいま、首輪以外の制御具を外しても魔力は漏れてませんよね?」


さっきの制御具を外した直後と違って、彼の周りからは何も感じない。


「それは……ぃま、ぉちっける、かんきょ、ぃる、から」


今度はクロを介さずに、自分の口で言ってくれた。

つっかえながらでも、やはり声を聞けるのは嬉しい。


たまらず彼の両手をとって、安心させるようにして言う。


「じゃあ、落ち着ける時間をこれからたくさん作っていきましょう。ダリオさん、特務部隊だし忙しいとは思うけど……私も協力する。ね?」


「ねも……」


彼は今や第0部隊の隊長。

どんなことをしているのか、私はまったく知らないけれど、忙しいのは確かだ。

それに、特務部隊と呼ばれているくらいなので、仕事内容は穏やかではないはず。


「もしどうしても仕事の都合上無理なら、いっそのこと退役しましょう! 実家のフィリアス家の農園、いまノリに乗ってるらしくて、ずっと人員募集してるんで、二人でのんびり働くのも悪くないですよ!」


さりげなく将来を共に的な感じで言ってしまったけれど、どうだろう。

私的には自分で言ってて悪くないな、と思ってしまった。彼がこれ以上身体を壊すよりかはマシ。

まあ、ほんのちょーーーっとダリオさんも、そして私も、農園との相性は良くなさそうだけど……やってできないことはないはず。


提案を聞いたダリオさんはというと。

一瞬面食らったような顔をして、それから満面の笑みを浮かべた。

握られた手に力がこもる。


「……ぅん」


返事は短いけど、前向きな気持ちになってくれているようでこちらも自然と頬が緩んだ。


――と、ここに来て纏まりかけたのに。

イイ感じの空気をぶち壊しに来るのが、私の黒いモフモフ様だ。


〈ん? 主よ、シャノンはどうする〉


「んん"っ!?」

「しゃのん……?」


突然ぶちこまれた内容に、喉を詰まらせた。


(げぇっ、この流れでシャノンさんの名前、出す!?)


口を引きつらせながら、なんとかクロに黙っていてもらおうと頭をフル回転させる。


「ごめん、クロ。それ、いまじゃな……」


けれど、悪気もなく止まらないのがクロだったりする。


〈シャノンは、主に番となる約束を一年後に取り付けている。この場合、ダリオはどうなる? 雇用関係? 同僚? ひも? 間男? 二人の邪魔にならないのか?〉


「待って待って待って、よくそんな単語知ってるねぇ!?」


飛んでもない言葉のオンパレードに、思わず彼の口を両手で挟んでガチッと押さえつける。


(なんでクロの中では私とシャノンさんが結婚することが確定してるの!? こんなことダリオさんが聞いたらどう思うか……)


見ないようにしていた彼の方を恐る恐る振り向くと――


――ぶわっと、顔面に蒸気がかかった。


「うわ、え、熱っ! ダ……ダリオさん……?」


見ると、彼の周りからとんでもない熱気が噴き出ている。

その顔からは全ての表情が抜け落ちていて、禍々しいまでの魔力が辺り一帯を包み込みつつあった。


(ぎゃー! そういえば、私が制御具取っちゃたから! 余計なことしたーーーっ!)


さっきまで外して正解だったと思ってたのに、すっかり考えは逆転している。けど、暴走しかけの彼に制御具を嵌めたくても、熱くて近付けない。


「つがぃ……マじか……」

「マジじゃないです! 誤解です! お願い、落ち着いて!」


全力で否定するが、クロはなおも食いつく。


〈主も、可能性はあるかもと、満更でもなさ気だったではないか〉


「お願いだから黙ってぇぇ」


――このとき、何が引き金になったかは分からない。


ただ、ダリオさんの中の何かが爆発したらしい。

焼け野原だったここら一帯は、緑化活動も虚しく、今度は大穴が開いてしまった。


明日からシアトレの街の復興支援に行くはずだったのに、私までこの場所の緑化活動ならぬ埋め立て作業の手伝いを言い渡されたのは、決して自業自得なだけではないと思う。



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