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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第十章 彼の執着編

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83.今度こそ、会いに行きます。私から。

「え、と……エッディ隊長、ですか?」


私の問いに、オサンさんはコクリと頷きを返した。


「はい、そうです」


オサンさんに言われ納得しかけたけど、私はまだ確信が持てずにいた。


「いえ、たぶん……彼じゃないと思います。名前も違うし、眼鏡なんてかけてなかったし、髪の色も……。

それに、私の探している人はフェニックスと契約をしていませんでした」


そんな疑い深い私にオサンさんは首を横に振る。


「いいえ、私はうちの隊長こそがあなたの探し求めている人だと確信しました。

だって、名前はいくらでも偽名を使えるし、髪色も染めることは可能です。契約獣だって、あなたが知らないうちに契約を結んでいた可能性もあるでしょう?」


「それは……はい」


「まず、うちの隊長は赤い瞳です。体型はガリガリで筋肉質というにはほど遠いですが、顔立ちは非常に整っています。

そして魔力を漏らしてはあたりを灼熱……ボヤ騒ぎを度々起こしています。

制御具で色々押さえつけている間は大人しいですが、外したら苛烈な一面が顔を出します。

何より……あなたから貰ったという栞を、彼は持っています」


(栞――ずっと持っててくれたんだ)


ここまでの話を聞くと、確かに隊長さんはダリオさんと似通っている。


だけど、次にオサンさんが続けた言葉で、またしても迷いが生じてしまった。


「今回、この北東支部に栞を持ってくるのを忘れたと気付いたとき、隊長は大泣きしていたくらいです」


思わず顔が引きつった。


「お……大泣き、ですか?」


(ダリオさんがそれくらいのことで、泣くはずがない……)


きっと大袈裟に言ってるだけ、と思いきや……。


「はい、それはもうポロポロと。私が代わりの栞を渡したら、それを『ねも』と呼んでようやく泣き止んだくらいです」


「……」


「彼は入隊式で、よ……失礼。あなたを見たとも言ってました。かわいくなっていて、目が離せなかったと」


「……」


「あと、妄そ……失礼。夢であなたに会えたときは、その日はすごく機嫌がよくなって思い出し笑いすらしていました」


オサンさんの話を聞くうちに、私を忘れてなかったという嬉しさを通りこして、明後日の方向へ進んでしまってる彼に引い……いや、戸惑いを隠せない。


「ちなみに、隊長はあなたの姿をこっそり見ようと急に思い立ち、その日最終となる夜行列車を使ってまでシアトレの街まで向かったくらいです。

あなたの居場所を契約獣に探らせたり――」


次々と出てくる予想外の言動と行動の数々に、とうとう机に頭をゴチンとぶつけた。


(やっぱり別人な気がしてきた……)


ここまで聞くと、彼はめちゃくちゃに私を意識しているのは間違いない。

それこそ、今まで離れていたのはなんだったのかというくらいに。

――しかしそれと同時に、五年のうちに拗らせた何かを、ひしひしと感じた。


「あ、ありがとうございます。やっぱり、隊長さんは、私が探してる人な気がします。なんかよく分からない方向に進んでるみたいだけど……」


「お役に立てたなら何よりです」


隊員さんがダリオさんだとして、私は今すぐにでも彼に会わないといけない。

ここで別れたら、彼はまた姿をくらませてしまう気がしたから。


「あの、それでなんですが、隊長さんは今どこに?」


キョロキョロと周りを見渡す。

ここは今回の討伐に際し、第0部隊が滞在していた居室らしいのだが、オサンさんの他には誰もいない。


「ああ、隊長なら、朝から近くの山へ緑化活動に向かわれています」

「りょ、緑化活動?」


予想だにしない言葉に、繰り返すようにして問いかける。


「はい。隊長はよく任務でやり過ぎたり、もしくは任務で関係ないところを燃やしては、上から罰則で奉仕活動を言い渡されてるんですよ。

今回は先日の討伐エリア一帯を焼け野原にしてしまったことで、お叱りを受けてしまったようです」

「……」


学園時代、彼が演習室を盛大に溶かして、先生から罰として元に戻すのを言い渡されていたのを瞬時に思い出した。

――なんていう既視感。


「ちなみに、この間は討伐からここへ帰ってきて、『忘れられた』とずっと泣いてました。そこから魔力暴走を起こしてボヤ騒ぎになって、状態再生で元に戻していました」

「……」


またも頭を抱える。

もう彼で間違いないのに、情緒面の要所要所が昔の『先輩』とかけ離れているので、どこかで認めたくない自分がいる。


(忘れられたって、私が彼に気づかなかったことだよね? ずっと泣いてたって、どういうこと!?)


「今日は一日奉仕活動で、ここには戻ってくるかわかりません。なので、会いに行かれるほうが確実だと思いますよ」

「……ありがとうございます。今日は私、一日休みを頂いてるので、早速向かってみようと思います」


こちらを見て微笑むオサンさんに頭を下げ、静かに椅子から立ち上がる。


(会ったら、最初になんて言おう)


今のところ、思ったより心の中は落ち着いている。

興奮より、戸惑いの方が大きいからかもしれない。


それでも――自分の内側がじわりじわりと熱を持っていく。

さてどうしようかと考えながら、第0部隊の居室を急ぎ後にした。





(さすがに飽きた……)


朝から一人黙々と地拵えをしていたが、きりのない作業に手を止めて休憩する。


ここら一帯を吹き飛ばしたのは自分だが、隊員たちもそれなりにやらかしている。

だというのに、他の任務があるからと、みんな早々に本部へ帰ってしまった。……俺一人を置いて。


大体、この規模の緑化活動を一人でなんて、ただの嫌がらせだろう。

いや、正確には罰則なのだが。

三日間の奉仕活動は本来なら連帯責任で隊員全員で取り組むべきだろうに、そんな常識うちの隊には通用しない。


(――一眠りするか)


昨夜は全然眠れなかった。

討伐が終わってからまだ数日しか経ってないが、ずっと彼女に忘れられたことを引きずっていた。


五年も経てば、人は変わる。

それは自分だけじゃなく、周りの人や環境もだ。

どういう経緯で彼女がオッサンを長年探していたのかは不明だが、俺じゃなくてオッサンを求めていたのは事実だ。


「……」


思い出すとまた、涙が滲んで目の前の景色が歪んできた。眼鏡を外して涙を拭う。そしてそのまま木陰まで行って腰を落とすと、膝を抱えて身体を小さく丸めた。


思いのほか疲れていたようで、目を閉じるとすぐに眠気が襲ってくる。

しばらくは寝てても構わないだろう。

最後に欠伸を一つすると、そのまますぐに意識を手放した。





先日ぶりに討伐の舞台となった場所に辿り着いた。

休みの日なのに軍服にローブを身に着け、私は一体何してるんだろうと思う。


ただ、目当ての人物に会いたい一心で、魔獣よけのお守りをぶら下げながら一人でこんな場所までやって来てしまった。


灰がずっと積み重なり、黒く炭化した木々が辺りを囲んでいる。

ただ、先日と違って、もちろん地面は熱くない。それに、一部は土が見えている部分もあって、人の手が入った形跡があった。


(でも、誰もいない――)


確かここで緑化活動をしてると聞いたけど……


辺りをキョロキョロと見渡す。


「あ」


すると、炭化した木に紛れて気づかなかったが、真っ黒なローブを頭から被った人影が見えた。


「いた――」


ゆっくり駆け寄ると、彼は膝を曲げた状態で横になっていた。そこからすぅ、と寝息のようなものが聞こえてきたので、起こさないよう慎重に近づいていく。


緊張が続いたまま息を止め、恐る恐るフードで隠れた顔を覗き込む。


その寝顔は……



(ダリオさん――)



フードから覗いているのは、まさに、記憶の中の彼が大人になった顔だった。


端正な顔立ちも、無防備な寝顔も、何も変わらない。

ただ――その髪はまつ毛に至るまで真っ白で、ローブの袖から覗いた腕は、痛々しいほどに細い。


しかも。


(あのときより、増えてない?)


痩せた腕に何重にもなって付いている腕輪は、制御具。

よく見ると、指輪も全部制御具だ。


軍でも力を抑えつけられてるなんて、きっと不自由をしているに違いない。


彼を眺めるのを止めて、隣へそっと腰を下ろす。

普通、こんな野山で寝るなんて警戒心がないにもほどがあると思うのだけど、おそらく――結界を張ってるのだろう。


状況だけなら、五年前にいつも一緒にいた森の中と同じ。

でも、あのときと違って、私は一緒に眠る気にはなれなかった。


(だって、寝て起きたら、いなくなっちゃってるかもしれない)


まったく油断できない。

むしろ彼が起きてからどうしようか策を練らなければ。


いや、そうときは困ったときのクロだ。

逃げようとしたら、迷わず彼をぶつけよう。


でもまずは――二人きりで話をしたい。


「……」


ほんの少し、寝ている彼の身体に自分の身体をくっつけてみる。

じわりと伝わる温もりは、確かに五年前に感じたものと同じだった。




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