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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第九章 再会編

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75.救いのヒーローはやっぱりあの人です。(1)

「そもそも、なんで討伐に失敗してるんだ? 北東支部の討伐部隊に加え、今回本部からかなりの数の隊員を補充して隊を組んでたっていうのに。

しかも奴らの弱点も把握した上での編成だったんだろ? 負傷者多数ってなんだよ……」


遠くの空を見ながら隊員の一人がぼやく。幸い、鳥獣はまだここまで到達していない。


「他の魔獣にも運悪く遭遇したとかかな」

「ドラゴン級のものでしょうか?」

「ありえなくはないな。

そもそもコカトリスの大量発生の原因は、ここより西で起きた災害で、彼らが住処を無くし東へ渡ってきたからだと言われている。

西の災害で、コカトリスだけが東側に移住してきたとは考えにくいからな……他にも予想外の大物が出たのかもしれない」


全ては憶測でしかないが、討伐がうまくいかなかったのは事実だ。

私たちは任された拠点を守るのみ。

だけど――


「……待て、何か音がしないか?」

「音?」


みんなで耳を澄ますと、ゴゴゴ……という地響きが鳴った。


「な、なんだ? 揺れてないか?」

「お前ら、結界の展開を! 風属性はあとだ! 地属性特化で急いで街を覆えっっ!!!」


グリモア先輩の焦った声に、全員が慌てて呪文を詠唱し、街全体を薄っすらとした結界が覆う。


(なに、あれ……)


高見台から見えたのは、おびただしい数のワーム型の魔物。

例えるならミミズの巨大版で、とにかく見た目が気持ち悪い。

地中に潜り団体で移動すると、地震被害や地盤沈下が発生する、害虫扱いの魔物だ。


ワームたちは結界に阻まれたせいで街の中には入って来れないが、なんとかしてこちらに来ようと結界の上を這いまわっている。時たま見える彼らの腹は、とんでもなく――グロい。


「うげぇっ、私、あれ苦手です……。授業で習って、絶対本物には会いたくないって思ってたのに……」

「おまえ、緊張感ねぇな……」


結界を展開する先輩隊員に、呆れたように言われてしまった。

でも、苦手なものは苦手なのだ。こればっかりは仕方がない。


彼らは虫のでっかい版なので、炎属性の魔法で一瞬で死滅する。

結界で守るより、一気に叩く方がいいだろう。

それこそ、地中に潜って逃げられる前に。


「あの、グリモア先輩」

「なんだ?」

「結界で持久戦の前に、私の契約獣で燃やしてきちゃっていいですか?」

「! そうか、君は契約獣もちか! もちろんだ!」

「了解です」


許可を得たので、クロを呼び出す。


『クロ、おいで。暴れられるよ』


<なんと。朗報か>


でんっと現れた黒いモフモフに、先輩隊員たちが目を向いている。


「ふぇ、フェンリル!?」

「今年の新人に上位種持ちが入ったって言ってたけど、フィリアスだったのか!」


すごい、この黒くてかわいいモフモフを見て、フェンリルだと認識できるなんて。


『成体になれる? それで、この結界の外のワームたちを一つ残らずやっつけて欲しいんだ。ほんと、むり』


<承知した。一匹だけ、遊ぶようにとっておいてもいいだろうか>


『……私の見えないところでだったらいいよ。そのときは成体を解いてね。私の魔力も持たないだろうから』


<もちろんだ。では、行ってくる>


クロは「オオン!」と一鳴きすると、成体姿に姿を変えた。

一気に大きな姿になったことで、私の魔力がガツンと奪われたのを感じた。


(はやく跡形もなくやっつけて! ほんと、生理的に受け付けないの~!)


クロの様子を見たいが、そうなると必然的にあの気持ち悪いワームたちが目に入る。

クロ、頑張れ! と心の中で応援しながら、目線は全然別の上空を見ることにした。


「おお、次々とブレスで焼き殺していくぞ!」

「頑張れ、フェンリル! いいぞ! 一気に半分近くやっつけたぞ!」


先輩たちの実況によって、どうなってるかを把握する。

一瞬だけクロのほうを見ると、喜びながら嚙みちぎっている様子を見てしまい、ぎゃっとまた視線を空へ戻した。


そのうち、地鳴りも炎の煙も収まっていき、辺りが静かになったところで、クロが成体姿を解いて「わんっ」とこっちへ駆けてきた。


<終わった。なかなか楽しめた>


「それは良かったね……。私は外を見れないよ……」


結界の外には、大量のワームの残骸が積み上がっていた。黒い炭のような塊から、クロに遊ばれて無残な姿になったものまで、さまざま。

あれは早々に片付けないと、間違いなく、臭う。

ただ、土壌にとってはいい肥料にはなるので、適当な畑に埋めてやるのが一番だろう。


「よし、みんな。一度結界を解いていいぞ!」


グリモア先輩の声で、隊員二人が結界を解いた。


「フェンリル殿、助かったよ。恩に着る」


グリモア先輩が代表してクロにお礼を言った。


<かまわない。楽しませてもらった>


そう言うと、クロはすぐに還ってしまった。

きっと、私の魔力切れを心配したんだろう。……モフれなくて、少しガッカリする。


「フィリアス、ありがとう。どうやって結界外の彼らを仕留めるか、正直わからなかったから本当に助かった」

「いえ、頑張ったのはクロなんで。でも、鳥獣が来ると聞いていたのに、なんでワーム型の襲撃が来たんでしょうか」

「もしかしたら、生態系が一時的に乱れてるのかもしれない。鳥獣の主食の一つはワーム型魔獣だから、彼らも生き残るために逃げてきたんだろう」

「なるほど」


魔物たちも生存競争に必死だ。

そこに人が住んでいようがいまいが、彼らにとっては関係ないことなのだろう。


「……おい、まだ何か来るぞ」


安心したのも束の間、結界を貼っていた先輩隊員の一人が北側の空を指して言った。


青空の向こうに黒い点が点在し、空が異様に暗くなっている。

「あれ、鳥獣……?」

私が呟くのと同時に、突如として大きな風が吹き荒れ、全員が高見台の壁に身を伏せた。


「風の結界を貼れ! 急げ、吹き飛ばされるぞ!」


グリモア先輩の叫びに、一気に結界を展開する。

すると、吹き荒れていた風が遮断され、いったん事なきを得た。


「次から次へと……なんなんだ……」


黒い点はだんだんと大きな点に変わり、その姿が露わになってくる。


(あれは――コカトリスの群れだ。やっぱりこっちまで南下してきちゃったんだ……)


ここまで来るということは、北で食い止めることができなかったことを意味する。

そして――その理由は。


「数が多すぎる……ッ!」


空を覆いつくす数のコカトリスが、キイキイと耳障りな音を立てて飛来してくる。

結界の外はもはや嵐。飛び出た瞬間、遥か彼方に吹き飛ばされるだろう。


コカトリスの群れは街の姿を捉えると、次々と結界を破ろうと嘴で攻撃をしかけてきた。


「物理結界の重ね掛けをしろ!」


グリモア先輩の号令に、風属性の結界の上に新たな結界を重ね掛けする。


(きついな……)


二重で魔法を展開しているため、魔力の消費も二倍だ。

本当ならここで一部緩めた結界から、班長であるグリモア先輩が炎属性の魔法で一気に叩く予定だったのだけど、今のこの状態では不可能だ。緩めた瞬間、一気に街の中に入って来るだろう。


それに、今またクロを頼ると、私の結界は多少緩む。一か八か呼び出すのが得策か……


そう思ったとき。


「まずい、たわんできた――」


先輩の絶望した声が聞こえた。

強度は問題ないはずなのに――圧倒的な数の暴力によって結界が壊されようとしている。もし、結界を破って侵入されたら……彼らの毒ブレスでこちらが全滅する可能性が高い。


(これは、本気で不味いかも)


背中に汗が滲んできた。

いままで考えたこともなかった死が……じわりと、けれども確実に迫ってきている。


「もう一回、クロを呼び出してみます」

「待て、そのせいで結界が壊れたら余計にまずいことになる。魔力は持ちそうなのか?」

「正直……わかりません」

「――支部に救援要請を出そう。それまで結界の展開に全力を尽くす」


防御に一点集中。

それがグリモア先輩の出した結論だった。


先輩はすぐに支部宛てに伝書鳥を飛ばし、自身も結界を展開する。

当初の計画で彼は攻撃担当だったので、結界の展開には参加していなかった。

強度が補強され、たわんでいた部分がピンっと修復される。


「おお、さすがです!」

「喜ぶのは早い。今はいいけど、救援がくるまで持つか……」


コカトリスの群れの攻撃は一向に止まない。

彼らは必至で何かを求めるかのように、街への侵入を試みようとしている。


「持久戦ですね……全然諦めてくれない」

「ああ、こんなに必死になって街を襲おうとするなんて、一体何が目的なんだ?」


(もし、餌を探してるのだとしたら、ワーム型魔獣を倒すんじゃなかった……彼らは格好の餌。私の判断ミスだ)


ギリと唇を噛み、猛烈に後悔する。


すると、目の前の先輩が「見ろよ……」となぜか上を見上げる。

また悪い知らせか……と目の前が暗くなるのを感じた。


だけど。


「え?」


見上げた先の空が――急に、晴れた。

結界の外を覆いつくしていたはずのコカトリスの群れの一部が、なぜか左右に割れている。


「な、なに?」

「おい、あそこ見ろ! 救援か!?」


先輩隊員が晴れた先の空の一点を指さす。そこに、赤い光のようなものが段々大きくなっていくのが見えた。


(え、あれは……)


割れた青空に、キラキラとした大きな炎の塊が揺らめいている。

炎属性が苦手なコカトリスは、その炎に近付くことができず、辺りにばらばらと散らばっていく。


「……キレイ」


場違いなことはわかっていた。

けれど、呟かずにはいられなかった。


なぜなら。


「まさか、"白い死神"のフェニックスが見れるなんて……」


グリモア先輩が、空に浮かぶ炎を見上げながら呟く。

それは、大きな鳥の形をしていて。


(なんで――こんなところにいるの?)


毎晩キラキラと上空を舞っていた――あの鳥と同じ姿をしていた。

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