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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第九章 再会編

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74.予想外の襲撃に備えます。

ガタン、ゴトン……

ガタン、ゴトン……



気付けば、列車に乗っていた。

いつもの森じゃない。

こんなこと、後にも先にも初めてだ。


もちろん、先輩は隣にいて、私たちは横並びに座っていた。

ふいに彼の手が伸び、横から私を抱きしめた。

突然のことに少しびっくりしたけど、私は身体の力を抜いて彼にされるがままになる。


(あれ?)


そのとき、酷い違和感が私を襲った。



――窓ガラスに映る先輩の姿が、いつもと少し違う。



私を抱き締めている彼の腕を見ると、いつもの制服ではない見慣れない真っ黒なローブを着ている。

対する私も、よく見れば軍で支給された濃紺のローブを着ていた。


私に触れている彼の身体は、服越しにも関わらず以前抱き締められたときよりもやけに骨ばっており、ローブから覗く手も、ひどく筋張っている。


「先輩、なんか痩せた――?」


振り向きたいけど、先輩は自分の顔を私の頭にぎゅうっと押し付けながら抱きしめているので、彼の顔が見えない。

ただ、頭に頬を擦り付けられた際、カツンと、眼鏡がズレるような感触があった。

かろうじて横目で見た髪の毛は、白。



――これは一体、誰……。



途端にゾクッとしたものが全身に押し寄せて来て、たまらず身を捩った。

けれども彼の力が思いの外強く、腕の拘束から抜け出せない。


「やだ、……やめてっ!」


大きな声で叫んだ瞬間――


「ね、も……」


いつもの先輩の声が悲しく響く。

そのうち――周りの景色が、炎となって消えた。



「っ! はぁ、はぁ……」


飛んでもない汗をかいて目が覚めた。いつの間にか喉はカラカラになっている。

相変わらず夢の内容は覚えてないけど……何か、大切な何かを傷つけたような、とんでもない悪夢だったように思う。


時計を見ると、ちょうど起床時間が迫っていた。

ドクドクと早鐘を打つ胸を落ち着かせるよう、そのまま起き上がって顔を洗いに行った。





「あれ、伝書鳥じゃないですか?」



朝、街の中を巡回中、北東支部の真っ黒な伝書鳥が、私とグリモア先輩のところへ飛んできた。


『伝令。討伐隊、全三班、発生源に到着。これより一斉討伐を行う。街の警備のものは、魔獣の飛来に注意せよ。繰り返す――』


「……思ったより早かったな。さて、結界の準備をするか」

「準備って、どうするんですか?」

「あそこに高見台があるだろ? 飛来物が来たら、すぐに展開できるように構えとく必要がある。あそこに四人登って敵を迎え撃つ。

あと、街の者たちには先日から通達をしているけど、今日は誰も外に出ないよう外出禁止令を出さないと。どっちかというと後者の方が大切だな。結界を貼ったところで、結界外にいられたら守るものも守れないから」

「なるほど……」

「まだ時間はあるから、すぐに街の警備隊に知らせにいかないと。俺が対応するから、フィリアスは夜勤明けの二人を起こして、三人で先に高見台に行ってて欲しい。俺も後で合流する」

「わかりました! では、また後程!」


残りの二人の隊員の元へ向かうべく、街の中を駆け足で走り抜けていく。

発生源からこの街まで距離があるから、ここまで魔獣が飛んで来る可能性は低い。

けれども、やはり緊張はする。だって人の命がかかわっていることだから。


ようやく宿に辿り着き、夜勤明けでまだ寝ていた二人を叩き起こし、高見台へと向かう。


街の中に警報が鳴り響く。

それと同時に、警備隊が外出禁止を放送で伝えた。


完全な非常事態。

これまで魔獣被害がなかったこの街の人は、初めてのことに戸惑っているに違いない。


(この街まで被害が及びませんように――)


その願いが通じたのか、それから二時間、三時間と経っても、いつもと変わらない景色が続いている。


「暇ですね」


たまらず呟いた。


「言うな、みんなそう思っている」


他の先輩も、何も起きない空を見上げて、ぼんやりとこぼした。


「討伐完了の伝書鳥が飛んできてから、二時間経つまで警戒態勢は解けないんでしたっけ」

「ああ、そうだ。発生源から逃げてきた奴らがこっちに被害を及ばさないとも限らないからな」

「終わったら、打ち上げしようぜ。なんの活躍もなくてよかったね、記念」

「いいですね。巡回だけのラクチン勤務で特別手当ですもんね」


あまりの暇さで、呑気に任務が終わったときのことを考える。

そこから派生して、隊員たちで次の休みはどこそこに出掛けるとか、この辺りのおすすめスポットを教えてもらったり、緊張感ゼロで時間だけが過ぎていく。


そして。


「あ、やっと伝書鳥がやってきましたよ」

「今度は結構かかったな。やっと討伐が完了したか?」


しかし、伝書鳥が伝えた内容は期待を大きく裏切るものだった。


『第一班、負傷者多数、第二班、第一班を抱え近隣の村へ撤退。第三班、未だ交戦中。また、多数の鳥獣が南下した模様。防御班は直ちに結界の展開を実施するように。繰り返す……』


「な……!?」


(――うそ、でしょ?)


思ってもなかった事態に、全員が絶句した。


しかし、さすが軍人。

この臨時班の班長であるグリモア先輩が、すぐさま指示を出す。


「みんな今から俺の指示に従ってくれ!

ただちに街全体に結界を貼る!」


意識を切り替え、「はい!」と姿勢をただす。


「鳥獣の種類は『コカトリス』。風属性で毒のブレスが強力と伝えられている。

結界の属性は耐風魔法特化で、さらに物理結界を重ね掛けし、遠方に飛来を確認次第、直ちに展開するものとする。

……そこからは、向こうの根気とこちらの魔力枯渇との戦いだ」


グリモア先輩の説明に、ごくりと唾を呑み込んだ。


(万が一、コカトリスが街を襲うのを諦めず、ここの四人の魔力が枯渇したら――ここは地獄になる)


手にじわりと汗が滲み出て、事態の重さを改めて受け止めた。





絶望で、目が覚めた。


せっかく久しぶりに会えたというのに、

今の彼女の姿で――明確な拒絶をされてしまった。


起きときに目の周りに涙の跡が付くくらいに泣いていて、こんな情緒がおかしい自分だから拒絶されるのだとさらに絶望する。


――制御具を付けたまま寝て良かった。じゃなきゃ今頃、この列車を炭にしているところだ。


そして、さらに悪いことは重なるもので。


「ぅそだろ――」


寝て起きたら、シアトレの街に到着しているはずだった。

なのに、今いるのは何故かそれより南下した先にあるテラという街にほど近い、辺りに工業施設が立ち並ぶ停留所だった。


本当に――制御具を付けたままで良かったと心底思う。


「今、このあたりの地域で、緊急事態宣言が発令された関係で、シアトレの街に停車できません。そのため、宣言解除まで、この列車は、ここでしばらく待機になります」


車掌がそんな内容を、順々に乗客へ伝えていく。


(緊急事態宣言だと……? 一体何が起きたんだ?)


「ぁの」


自分と同じく寝台室から廊下に出ていた年配の男に話かける。

うまく言葉が出ないので、ゆっくりと。


「きんきゅう、じたい、なんですか?」


「ん? ああ、そうみたいだね。この前ここらが鳥獣被害に遭って、今回軍が討伐に行ったんだけど、どうやら失敗したらしい。

全く、本部からも軍が派遣されたと聞いていたのに……いい迷惑だよ。せっかく息子夫婦に会いにシアトレの街へ向かっていたというのに」


「……」


(前に聞いたコカトリスの群れの件か。うちで扱うまでもないと言われてたのに……本部は何やってんだ)


これでは、彼女の元に行けないではないか。


寝台室へ戻り、扉を閉めて耳の制御具を外す。

すっと頭が冴える感覚がし、魔力が体中に沸き上がって来るのがわかった。


『フェン、聞こえるか』


瞬時に、小鳥サイズの炎を纏った鳥が、目の前にぼうっと現れる。


<なあに?>


『一昨日……シアトレの街にいると言ってただろう? まだそこにいるか、確認してきてくれないか。いないなら、周辺の街を探して欲しい』


<相変わらずね。私、()()()の追っかけみたい>


『頼む。いくらでも魔力を持っていっていいから』


<十分よ。さっさと行ってくるわ。いつもみたいに何もしなくていいのよね?>


『ああ、任務外だからな』


<ふふ、あなたのそういうとこ、ほんと好き。じゃあね>


そう言うと、彼女は窓をすり抜け、大きな炎の鳥となって空中を旋回していく。

飛んでいく鳥を見た乗客が、「あれ、鳥獣じゃないか!? まさかもうここにまで飛来してきたのか!?」とパニックになっている。

その様子を見て、彼女が聞いたらぷりぷりと怒りそうだと苦笑を漏らす。


「ぶじで、ぃてくれ――」


すぐに、駆けつけるから。



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