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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第九章 再会編

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73.派遣先の裏側で何かを画策されていました。

(今日も会えなかった)


気落ちしながら、ソファから起き上がる。

外してあった眼鏡をかけ、起きて早々「はぁ」と溜息をつく。


最近は夜勤が多く、眠る時間が重ならない。


もう、しばらくの間彼女の姿を見ていない。

これは自分にとったら死活問題だ。


(――いっそのこと、偶然を装って会いに行けないだろうか)


こっそり見るだけなら問題ない……はず。

そうと決まれば、仮眠スペースから出て隊員たちが待機する場所まで移動する。


「あ、隊長起きたんですね~! おはようございまーす」


鏡の前で金の髪をセットしながら、ヨランダさんが挨拶をする。


「ぉはょぅ。ぉっさん、どこ?」


キョロキョロするも、目当ての人物が見当たらない。


「オジサマですか? んー今日は本部に戻ってる日じゃ、なかったでしたっけ?」

「ぇ……」


オッサンがいないとスケジュールがわからない。

今すぐにでも彼女の近くに潜り込めないか確認したいのに、なんてことだ。


「やだ、隊長。制御具付けてるのに魔力漏らさないでくださいよ……また増やされちゃいますよ?」


ヨランダの脅しに、はっと我に返る。

これ以上制御具を増やされるなんてたまったものではない。


ただでさえ――狂ってきている感覚があるのに。


「それは、ぃゃだ」

「ですよね。飴ちゃんあげるので、落ち着いてくださいねー」


そう言ってヨランダに棒付きの飴を口に突っ込まれる。

コロコロと触感を味わってるうちに、気分も落ち着いてくる。

それと同時に。


(あれ、俺は何をしようとしていたんだっけ――)


「そろそろ任務の時間ですよ! 今日は私とペアなんで、制御具は耳だけ外して行ってくださいね~」

「ぅん」


言われたとおり、耳のピアスを全て外していく。


そうだ、今日のは目の前の標的を潰すだけの簡単なタスクだ。ヨランダさんの補助があれば一瞬で片付くだろう。


「ご機嫌は?」

「さぃこぅだ」


俺の返事に口の端を上げたヨランダとともに、ローブを目深に被って外へ駆けていった。





(さ、気を引き締めていかないと)


北東支部の仮設拠点からほど近い観光の街、シアトレ。

今回問題となっている魔獣の被害が多発しているというのは、そこからやや北に行った小さな集落が発端だった。


コ・シアトレ村と言われるそこは、突如飛来してきた多大な鳥獣被害を受けた。

村の警備兵はもちろん、一般人を含め実に三十人以上が命を失った。

すぐに北東支部の軍が被災者の救援で派遣されたのだが、その間、近隣の村に同様の襲撃が発生した。

結果、こちらも住人・観光客を含め数十人に昇る死傷者を出してしまったのだ。


これまでこの地域は魔獣の発生も少なく、何の対策も出来ていなかったことが被害を拡大させた。

この短期間で起きた非常事態に、北東支部が本部に応援を要請をした、というのが私たち本部拠点の派遣理由だ。

というのも、私の所属する第一部隊やユリシスの所属する第二部隊も、魔獣討伐がメインの部隊だから。


「今回、北東支部の部隊と本部の第一、第二から派遣された諸君で編成を組み、発生源を叩く。

その際、近隣の街にに被害が及ばないよう、各街に防御班を待機させる。この防御班は場合によっては肩透かしを喰らう可能性もあるが、討伐が終わるまでは二勤交代で対応にあたって欲しい」


(二勤交代か~何日続くんだろ。隙を見て、お昼寝できるといいなぁ……)


説明を受けている間、呑気なことを考える。

でも、本当につらいのだ。

今のところ、ぶっ通しの十二時間労働は十日間が最長記録。これ以上は未知数だ。


私は新人ということもあり、まだ被害を受けていないシアトレからもう少し南に行った所にある、テラという小さな街の担当となった。ここの防御班は私を含めて四人。

私以外は北東支部の人が三名で、一人はキリク班長と同じくらいの年齢、あとの二人もそれより少し若いくらいの男性隊員だった。


「きみ、今年唯一第一部隊に配属になった子なんだってな」

「はい、そうです。第一部隊のキリク班に所属しています」


ペアとなった隊員のグリモア先輩から話かけられ、所属を伝える。


「俺も昔は第一にいたんだけど、ついていけなくなって地方勤務に異動になったんだ。どう? キリク班は」

「厳しいけれど、充実しています! 厳しいけれど」


それっぽいことを言ってみたものの、どうしても本音が漏れてしまう。

そんな私に、グリモア先輩は顔を緩めて笑った。


「はは、やっぱ今も厳しいんだな。でも、辞めずに頑張れよ。せっかく軍に入ったんだからさ。

もし所属が合わないと思ったら、北東支部に異動してきなよ。閑職なんて言われるけど、本部と違って内勤から討伐まで、色々経験できるぞ」

「はい、今のところ大丈夫ですが、もし辞めたくなったら、その前に異動を考えるようにします。激励、ありがとうございます」


今日は彼と夕方六時までの勤務だ。

ひとまず街の地図と照らし合わせながら、街全体のつくりや経路を一つ一つ確認していく。


「思ったよりこじんまりとした街なんですね」

「ああ、そうだな。テラの街は、シアトレに比べたら目立った商業施設のない郊外の街だ。ここからシアトレまで働きに出る人が多く住んでいる」


グリモア先輩は北東支部に配属されてから七年経つということで、この辺の地理に詳しい。

お土産のチョコレートはどこがいいかという質問にも、彼のおススメのお店を二つも教えてくれた。


「今回のような魔獣被害は今まで起きて来なかったんですよね?」

「そうだな。少なくとも俺が配属されてからは一度もなかった。だからこそ、ここらでは魔獣対策が何もできてなかったんだよな……」

「今回の討伐が完了したら、各警備隊への教育で大忙しですね」


軍は基本的に有事の際に動き、普段は街の警備隊が治安を守っている。

こういった被害が今後起きないためにも、警備隊に対策を指導するのも、軍の役割の一つだ。

なぜなら、対魔獣戦はその魔獣の特性の知識がものを言うから。


休憩しつつ一通り街をみて回ったら、あっと今に交代の時間となった。


「それじゃあ、明日は朝六時から勤務開始な」

「はい、わかりました!」


夜勤の二名と交代し、帰路につく。今日から討伐が終わるまで、テラの街の宿屋に宿泊する。

食堂付きの宿屋で、帰ってすぐにご飯を食べ、部屋に戻って身体をくつろげた。


(今日は何も起きなくてよかった)


前線部隊は発生源となる北東地域で野宿らしい。その人たちには申し訳ないけど、長時間立ちっぱなしだったので、こうしてベッドで足を休めることができて幸せだ。


そのうち、うとうとしはじめ――


気付けば眠りの中に落ちていた。



「あ、ぉもいだした」


唐突に、自分が何より優先してやるべきことを思い出した。


「急にどうしたんですか、隊長。っていうか、もう任務も終わったんだから、早くピアス嵌めてくださいよ。

その禍々しい魔力、私のお肌に悪そうで嫌なんですけどぉ」


「ごめん……」


ヨランダさんから離れた位置で、外していた制御具を付けていく。

ずんっと身体が重たくなるが、魔力が外に漏れ出る流れが止まったのがわかった。


「ぃまから……ほくとぅ、むかぅ」

「は? 何言ってるんですか~? 今もう夜ですよ。しかも北東って、そんな曖昧な」

「しぁとれに……ぃく」

「シアトレ~!? ここと本部挟んでめっちゃくちゃ反対側の北東拠点の街!? ばっかじゃないの?」

「ょめ、ぃるから」

「うっわ出た出た、妄想嫁! やっぱ隊長イカレてるわ~」

「……ぅるさぃ」


ボロクソに言われるが、どうしても行かなければいけない。

だって、このままだと――彼女に、忘れられてしまうから。


「べつに隊長の勝手ですけど~……夜行列車の出発まで、あと少しですよ。それに、明後日には本部に戻ってきてくださいよ。じゃないと、私も副隊長も、ガチでキレて暴れますからね」

「ぅん、ぁりがと」


なんだかんだ優しいヨランダさんにお礼を言って、すぐに荷物を纏める。


「あ、顔も服も血だらけだから、水浴びしてから向かうようお願いしますね~!」

「……クソ」


悪態を付きながらも、心は弾んでいた。

もうすぐ彼女の姿を、この目で見ることができるのだから。



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