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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第九章 再会編

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72.北東支部への派遣を言い渡されました。

(今日は飛んでないんだ……)


最近、毎晩のように夜空を飛んでいたフェニックスの巡回だが、今夜は一向に姿を現さない。

こういうことはままあったので、きっと今日はお休みの日なんだろう。


「……」


なぜかそれを寂しく感じてしまい、腕につけっぱなしのブレスレットを見て思う。


(大丈夫――諦めてなんかない)


毎晩、炎の鳥を見て、それからブレスレットに「彼に会えますように」と願いを込めてから眠るのが日課になっていた。


そうでもしないと――

正直なところ、現実に流されそうになるのだ。

もしかしたら、このままでもいいんじゃないか、と。


この五年で、彼には彼の幸せが既にあって、私の入り込む余地はないのだとしたら。

誰にも何も告げずに消息をたったくらいだ。

実は新しい人生を歩みたかった――なんていう可能性もゼロではない。


(……ダメだ。私、ダリオさんのことを忘れても仕方がないって、自分に都合のいい口実を作ろうとしてる)


頭を振って考えるのを止めた。


『クロ』


〈呼んだか〉


こういうときはクロを呼ぶに限る。

クロは、私と彼が繋がったきっかけなのだから。


「今日は一緒に寝よう」


〈今日も、だな。私は一向にかまわない〉


「ふふ、ありがとう――」


モフモフの毛並みを抱き寄せ、目を閉じる。


――その日の晩、私は何の夢も見なかった。





「北東支部への派遣、ですか」

「ああ、そうだ。あそこは第八部隊の管轄なんだが、最近魔獣が大量に発生して、手が回らないと本部に要請があった。

防御に長けた人物を探してるってことで、今回ネモを派遣することにしたんだけど、引き受けてくれるな?

っていっても、もう取り消しはできないが」


出勤早々にキリク班長から荷物を纏めろと言われ、何事かと思ったら北東支部へ行ってこいとのことだった。


「それはもちろんです。キリク班からは私一人ですか?」

「ああ、そうだ。配属からニヶ月経って、そろそろ慣れてきた頃だろう。大丈夫、第一部隊の他の班からも何人か行くはずだから、そんなに気負いしなくていい」

「わかりました。精一杯頑張らせて頂きます」


私たちのやりとりを見ていたジリー先輩が、残念そうにぼやく。


「いいなぁ、北東支部。あ、俺へのお土産は拠点近くのシアトレの街に売ってるチョコレートで頼むわ! 嫁が好きなんだよ」

「お土産って。私、任務で行くんですが……」


お土産話につられて、近くにいたバースィマさんも乗っかってきた。


「あら、じゃあ私もそれをお願い。孫が喜びそう」

「ん? 孫?」


聞き間違いかと思い問い返す。

バースィマさんは三十代半ばのキリク班長より少し上くらいの見た目。

むしろまだ子育て中なのでは。


「今年で十歳になるのよ~ほんと、しつけの必要な息子と違って孫は愛でるだけでいいから、可愛くて仕方ないの」

「……」


深いことは考えないようにしよう。


「じゃあ、キリク班長にも、クリシャさんにも、チョコレートのお土産買って行きますね」


こうして、私は初めて本部を離れ、北東支部へ出張することとなった。





「うっそ、すごい偶然!」

「こっちのセリフだよ。似てる顔がいるなぁ、なんて思ったら、まさかネモがここにいるなんて!」


北東支部で本部から派遣されたメンバーに合流すると、その中に偶然にもユリシスがいた。

配属されてから全然連絡も取れてなかったので、思わずテンションが上がってしまう。


「俺は討伐の方で派遣されたんだ。班長からは経験積んで来い、だってさ。ネモは?」

「私は街の結界担当だよ。班員たちからはお土産を頼まれてる」

「ははっ、お土産か! 班の人たちとはうまくやってそうだね。

あ、そうだ。久しぶりにゆっくり話したいから、夜に飯行こうよ」

「いいね! ゆっくりできるのなんて今日くらいだもんね。じゃあ、終わったら連絡する。またあとで」


実のところ、一人で見知らぬ土地に派遣されて少し緊張していた。けれども、同期となるユリシスも一緒だと思うと何かと心強かった。


ユリシスと別れた後すぐ、北部支部の代表から明日以降の説明を受け、今日のところは解散となった。

少し早い気もしたが、ユリシスに伝書鳥を送ると、討伐班ももう解散になったらしく、近くの酒場に集合することになった。



「おつかれー、乾杯!」

「乾杯~!」


ジョッキをガシャンと合わせ、久しぶりの再会に乾杯する。明日も早いからお酒は一杯だけにしようね、と予め二人で決めておいた。


「たった二ヶ月だけど、随分会ってなかった気がするね。第二部隊はどう?」

「なんとかやってるよ。やっぱ想像以上に毎日大変だけどね。ネモはどう? 第一部隊でやっていけてる?」

「毎日必死でついてってるよ~。正直、ここまで肉体を酷使する訓練をするなんて思ってなかった! 私、魔法使いとして採用されたはずなのに」

「はは、でもおかげで大分体力ついたんじゃない? 第一は特に厳しいって聞くしね」

「うん、めっちゃくちゃ厳しいよ。最初の一週間は生きてるのか死んでるのかわからなかったくらい」


互いの近況に花を咲かせ、食事を進めていく。


「そういえば……」


少しお腹も満たされた頃、ユリシスが食べる手を止め、少し真面目な顔をして言った。


「エンデ先輩のことは、何かわかった?」


躊躇いがちに言う様子から、私に気を遣っていることがわかる。

そんなユリシスの言葉に、ゆっくりと首を振った。


「何も」


結局――今のところ、何の進展もない。


「シャノンさんと、表には出ないような部隊に所属してるんじゃ、って話になって、周りにそもそもそんな組織があるのか聞いてみたんだけど……今のところ何の情報も得られてないの」


キリク班長は信用できると思って、そんな部隊があるのか尋ねてみたのだが、噂で聞いたことはあるけど、自分はわからないと言われてしまった。

教育係だったバースィマ先輩にも聞いてみたけど、結果は同じ。

第一部隊の総隊長レベルになるとわかるのかもしれないけど、入隊式の日の挨拶以降、全く接点がなかった。


「そう……。ごめん、俺もそんな組織があるかどうかなんて、聞いたことないや」


そう言って、ユリシスはまたも躊躇いがちに私に問いかける。


「あのさ……ネモはこの五年、学園の卒業生に話を聞いたり、軍に入隊してからもずっと、エンデ先輩を探し続けてるわけじゃん」


私の様子を伺うようにして、続けた。


「――いつまで続けるつもり? 見つかるまでずっと?」

「それは……」


いま一番、聞かれたくないことだった。

正直なところ、少しばかり……自分の中でも迷いが出始めていたから。


「もし、気を悪くしたらごめん。でも、後悔して欲しく無いなって思ったんだ。例えば極端な話、おばあちゃんになっても見つからないとかあるわけじゃん。そのときに後悔しても遅いわけで……

だから、ある程度で区切りをつけるのも、大事なことなんだと、俺は思う」

「それ、実はシャノンさんにも言われたんだ。期限は一年にしろって……」

「ラース先輩もか。さすがネモの師匠だね」

「うん……」


さらに言えば、もしダリオさんが一年で見つからなかったら――結婚して欲しいとまで言われたのだから驚きだ。


「なに? もしかして、告白でもされた?」

「え!?」


まさかの指摘に、伏せていた顔を勢いよく上げた。

ユリシスが目を丸くしてこちらを見る。


「え……うそだろ、当たった」


彼は冗談のつもりで言ったのに、私の驚きように図星だと気付いてしまった。


(もういっそのこと、隠さずに相談に乗ってもらうことにしようかな――)


「これ、誰にも言わないで欲しいんだけど……」


誰かに話すのはこれが初めて。

シャノンさんからプロポーズを受けたことは、あれからずっと自分の中だけに仕舞っていた。

今はお酒も入っているので、いつもより口が緩くなっているのかもしれない。


「実は……この前、シャノンさんから、一年経ってもダリオさんが見つからなかったら、結婚して欲しいって言われたんだ」

「ええっ!? まさかいきなりプロポーズ!? うわ~、マジかぁ……」


心底驚いた様子のユリシスだけど、「でも、ラース先輩はいつか動くんだろうな、とは思ってた」と付け足した。


その言葉に今度は私が驚く。


「え!? ユリシスは何か気付いてたの? 私たち、今までそんな雰囲気になったことは無かったんだよ。だからシャノンさんに告白されたとき、ただただびっくりしちゃって……」

「そうだったんだ。でも、わかるやつにはわかるよ。特に、俺は同類だってすぐに気付いた」

「同類?」

「ネモのことが好きっていう、同類」

「えええええっ!?」


本日何度目かの驚きと戸惑いの声が出た。


「俺の場合、ネモがエンデ先輩と付き合い出したときに諦めてしまったんだけどね。

エンデ先輩がネモを大事にしてるところを見たら、入り込む余地ないなって思ったし、この人には敵いっこないなって」

「ごめん、気が付かなかった……」


申し訳ないけど、当時のユリシスの気持ちにも、まったく気が付かなかった。

ユリシスが隠そうとしてたのか、自分が空気を読むことに鈍感だったのか――


「エンデ先輩がいなくなってからは、俺が支えてあげようって思ったけど、ちゃっかりラース先輩が支えるポジションに入ったでしょ?

俺は当時転科したばっかだったし、先越されたなぁって思ったもんだよ」


ユリシスが苦笑交じりにして言った言葉を、首を振って否定する。


「でも実際、ユリシスは何かと私の面倒みてくれたよね。あのときの私、メンタルボロボロだったんだけど、ユリシスが気にかけてくれたおかげで、相当救われたよ」


第一学年の休暇明け、たぶん自分史上一番、精神的に参っていた。

でもユリシスを始め色んな人に支えられて、今こうして復活出来ている。


「改めて、ありがとうね。色々お世話になりました」

「うん、どういたしまして。

はは、こうやってちゃんと口に出して言ってくれるところも、ネモの魅力だよね」

「そうかな……」


素直に褒められて、気恥ずかしくなって誤魔化すようにして水を飲む。

ユリシスのほうこそ、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるところが、彼の魅力だと思う。


「それで……ネモはラース先輩にプロポーズされて、なんて答えたの?」

「えと、それが、ちゃんと返事出来てなくて。焦らなくていいって言われたから、その言葉に甘えてる状態なんだ」

「保留ってことか。ちゃんと待っててくれてるんだね」

「うん……」


ユリシスはふぅっとテーブルに頬杖をついて私を見て言った。


「俺に言われるまでもないと思うけどさ――

ラース先輩が待っててくれてる間に、しっかり考えて」


言葉を切って、静かに続けた。


「ネモが一番想っている人は誰か、じゃなくて。

誰と"将来"を過ごしたいのか、をね」


「……」



今、私の心の中を占めているのはもちろんあの人。


ただ――将来は?



ユリシスの視線がなぜか刺さるように感じ、テーブルの方へと逸らす。

グラスに入った水滴がじわりとテーブルに染み込んでいく様子を見て、まるで自分の心の中を何かが侵食してきているかのようだった。



(私、どうしたいんだろう)



この場で、もちろん答えは出なかった。


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