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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第八章 私の入隊編

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69.夢の裏側と、新人の通過儀礼は恐ろしい。

(ああ、成功した――)


ずっと会いたくて堪らなかった。

これまで我慢出来ていたのに、昨日その姿を見たらもうダメだった。


スラッと背が伸びて、長い髪を背に流した彼女は、立派な大人の女性へと成長していた。

たまらず式の途中に眼鏡をかけ、その姿をずっと飽きることなく眺めていた。


勤務が終わるとすぐ、仮眠スペースで大量の制御具を全て外して、あーでもないこーでもないと魔法を構築していった。


しばらく思考が正常に働いてないことに自分でも気付いていた。もちろん魔法もまともなものではない。


"夢の中に彼女を引き摺りこんでしまえば間違いなく会える"


冷静に考えれば気持ち悪さしかないが、冷静さなんてとうの昔にどこかへ置いてきた。

この魔法が成功すれば、また会える。

一度そう思うと、もうそのことしか考えられなくなった。


毎晩自分でも寝てるのか起きてるのかわからないことの繰り返しだったけど、この日は不思議とすぐに寝付くことが出来た。


『  』


――呼ばれなくなって久しい名前で当時の彼女が自分を呼ぶ。


そのことが堪らなく嬉しくて、追いかけっこをしてる途中、思わず彼女のことを抱き締めた。


「捕まえた」


耳元でそう囁くと、花が綻ぶかのように彼女の顔に笑顔が浮かんだ。


(ああ――この顔がずっと、見たかった)



……だけど。



「げ、隊長ここで寝てたんすか!?」

「うわ、部屋戻れよ、アンタ! どうせ風呂も入ってないんだろ!」



夢は、途切れてしまった。



自分より年上の部下と副隊長が汚い顔を近づけてきて、朝っぱらから耳障りな声をかけてくる。


(――クソが)


「うわっ、ソファ、燃えてる! っておい、制御具どこいった!?」


目の前の部下は慌てて火消しをしているが――その行動すら目障りに思えた。


「ぉまえら……ょくも、じゃましたな――」


腹の底から黒いものが渦巻いて身体の外へと這い出ていく。

それと同時に周りのものが次々と燃えていくが、こちらの知ったことではない。


「ぎゃー! 副隊長! 隊長がキレてます! 助けてっ!」

「落ち着け、そこの制御具をこっちへ投げろ!」


特大の火力を込めて魔力を練り上げていく。


(力を押さえつけられる前に、邪魔をしたコイツらを消さないと気がすまねぇ――)


しかし。


「はぁ、こんな狭いとこで、朝っぱらからキレすぎっすよ」


副隊長の奴が目にも止まらない速さで、腹に思いっ切り一発食らわせて来やがった。

怯んだ瞬間、瞬く間に首と腕に制御具をつけられてしまう。


――急速に魔力を吸い取られ、戦意までもが消失していく。


「ちょっと落ち着きました?」


部下から問われるが、なんのことかがわからない。


「ゅめ、みてた……」

「あー、じゃあ寝ぼけてたんすね。……ほんと、勘弁してください」


(寝ぼけてたんじゃない。夢で会ってたんだ)


「ぉれの、ょめに、ぁった」


思い出すだけで、頬が緩む。

確かに、この手で五年ぶりに彼女を抱き締めたのだから。


「ふふ……」


「うっわ、ほんと今日もキテますね、隊長」

「ほっといてやれ。妄想中だ」


ああ、早く姿を見たい。

じゃないとまた、狂ってしまいそうだから――





「本日付けで第一部隊へ配属となりました、ネモフィラ・フィリアスです! ローズシティナ学園では魔法学科に所属し、魔法実践学のヨシュア教諭の研究室で、多重防御結界の構築・解除を研究課題にしていました。

契約獣はフェンリルで、名前は「クロ」です。

未熟者ですが、必死で先輩方についていく所存です! どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」


配属初日。


第一部隊の面々が一堂に集まり、第一部隊唯一の新人として、大勢の前に立った。


家族からもらったアドバイスは、内容より、元気、笑顔、新人らしいフレッシュさ。

その三点を抑えとけば、たいてい上手くいく、と。


(全部咬まずに言えてよかった……)


ずらっと整列する隊員を見渡すも、目につくのは男性ばかりだ。

やはり女性の体力では、ついていくのが厳しいのかもしれない。

魔法学科といい、軍への所属といい――私は自分で自分の首を絞めに行っている気がしてならない。


「ようこそフィリアス。昨日の入隊式でも紹介したと思うが、改めて挨拶させてもらおう。

私は第一部隊総隊長ジオ・ラーソンだ。

我々第一部隊は君を歓迎する。以後、よろしく」


父親くらいの年齢の総隊長に挨拶され、「はい! こちらこそ、よろしくおねがいします!」と、ビシッと姿勢を正し敬礼を返す。


それから副隊長、魔法支部部長、第一班班長、第二班班長……と肩書き持ちの人たちの紹介が続き、私が配属される班へ連れて行かれた。


「俺は第三班班長のキリク。よろしく、フィリアス」

「よろしくお願いします」


キリク班長は三十半ばくらいの年齢で、ぱっと見た感じ優しそうな印象を受ける。


(うん、厳しそうな上司じゃなくてよかった)


「第三班は俺の他に、あと三人。一人は女性で君の教育係を任命しておいた。彼女から色々学ぶといい」

「女性隊員の方がいるのですね。てっきり第一部隊は男性ばかりと思って不安だったので、心強いです」


思ってもみなかった配慮に、ますます自分はツイてると感じる。


キリク班長と歩きながら話をしつつ、一つの部屋に案内された。

中に入ると狭い居室の中に簡易式のテーブルや椅子が配置されている。そこに、第三班の面々と思われる三人が、先程の全体集会から先に戻ってきたらしく、雑談をしながらくつろいでいた。


キリクは「待たせたな」とみんなに向かって言ってから、この部屋について説明をしていく。


「ここは第三班の執務室だ。朝はここに出勤し、それからそのときの担当の持ち場へ移動する。退勤時も面倒だと思うが、ここへ戻って来て、退勤処理をしてくれ」


「はい、わかりました」


私が返事をすると、キリク班長は椅子に腰掛けて書類仕事をしている男性隊員に向かって呼び掛けた。


「クリシャ」

「はい」

「難しいときはこの事務員のクリシャにその旨を伝えるように。

彼は出退勤の管理とすべての事務作業を引き受けてくれているから、頼りにするといい」


クリシャと呼ばれた男性は、眼鏡の四十過ぎのおじさんで、私に向かって人好きのする笑顔を浮かべている。

「ネモフィラ・フィリアスです、よろしくお願いします!」と彼に向かって挨拶をすると、彼もにこやかに「元気がいいですね、よろしくお願いします」と丁寧に返してくれた。


(うん、いい人そう)


「このまま班員を紹介していこうか」


そう言ってキリク班長は次に、私と年の近そうな若めの男性隊員を紹介する。


「そこのツンツンした髪の彼は、ジリー隊員だ。君より三年ほど上の先輩にあたる。彼はさっきの集会にいたから、フィリアスからの自己紹介は不要だよ」


「ジリーだ、よろしくな、フィリアス!」


ジリー隊員はひょろりとした体躯の男性で、グイグイ来る感じはどこか学園時代の友人であるドレイクを思い起こさせた。

彼に自己紹介は不要とのことで、

「ジリー先輩、これからよろしくお願いします!」

とシンプルな挨拶を返した。


続いて、キリク班長は女性隊員へと目を移す。


「最後に、君の教育係を担当するバースィマ隊員だ。彼女も契約獣持ちなので、お揃いだな」


バースィマ先輩は、黒いストレートの長い髪をもった、アージュン先輩を彷彿とさせるエキゾチックな雰囲気の女性だ。年はキリク班長よりも少し上くらいに見えた。


教育係ということで、彼女には丁寧なあいさつをする。


「色々ご迷惑おかけすると思いますが、ご指導のほどよろしくお願いします」


彼女は「契約獣持ちがお揃いで嬉しいわ~よろしくね」とふんわりとした笑顔をこちらへ向け、つられて私も笑顔になった。


「これが第三班全員、通称キリク班だ。この班は魔獣討伐がメインだが、有事の際は戦地で前線にも駆り出される。その辺りは覚悟しておいてくれ」

「もちろんです! 私もそれを承知で第一部隊へ希望を出したんですから」


第三班を自分が希望した訳ではないが、所属組織の第一部隊は自ら志願した。

――ダリオさんを見つけるため。第一線で戦うことを決意したのだ。


「あら、いいお返事。戦闘が好きなのね?」

「あ、いえ……」

「いい新人が入ってきましたね、キリクさん。新人獲得のために裏で何やったんですか?」

「失礼だな、何もやっていないよ。元気なのを一人くれって上に希望を出したら、バースィマもいるし、フィリアスが上手く引っかかってくれたんだろ」

「あらぁ、じゃあ私のおかげでってことですね。いい仕事したわぁ」


隊員たちの和気あいあいとする様子に、ほっと胸を撫で下ろす。


(もっと殺伐としてるものかと思ったけど、いい班に配属されて良かった)


"第一部隊は厳しい"


やはり噂は噂でしかない。

きっと任務になるとまた別なのかもしれないが、今の彼らの雰囲気からは厳しさがまったく想像ができなかった。


「さて、みなさん。今日は"あそこ"抑えてます。そろそろ予約のお時間ですよ」


クリシャさんが立ち上がり、皆に告げる。

すると、隊員全員の顔色が一気に喜色ばんだ。


「こんな時間から!? さっすがクリシャさん! できる男!」

「そうと決まれば早く移動しましょうよ~」


(あそこ? 移動?)


「あ、あの。あそこって、どちらかに行かれるんですか?」


何が始まるのかわからず、先輩隊員たちに質問する。


「ああ、訓練室だよ、フィリアス。今日は新人指導の初日だからね。意識を失うまで、エンドレスだ! 実のところ、俺はこの日を一番楽しみにしていた」

「し、新人指導……? エンドレス?」


いい笑顔でキリク班長が言うが、正直嫌な予感しかしない。


「安心しな、新人! バースィマさんはこう見えて特級の治癒魔法の使い手なんだからな。俺も三年前、ボッコボコにされたけど、傷一つ残ってないからさ。いやー俺も指導側にまわれるなんて、感慨深いぜ!」


ジリー隊員からパチンとウィンクされるが、「ボッコボコ」という響きが強すぎて何も安心出来ない。


「クリシャはもちろん参戦するよな?」

「もちろんです。私もまだ衰えてはいませんよ」


眼鏡をクイッとあげて、それから腕をボキボキと鳴らす。

クリシャさんの上腕二頭筋がモリッと盛り上がり、彼の本気度が見えた。事務員と思いきや、どうやら武闘派でもあったらしい。


そして気付く。これは――


(新人の洗礼、『根性直し』……!)


「さあ、張り切っていこうか!」

「あ、ちょっとお腹が」

「大丈夫、大丈夫。お腹の痛みなんて軽くなるくらいのことするんだから!」

「ううん、それだと可哀想よ。私が事前に治しておいてあげるわ。やっぱり、万全じゃないと面白くないものね?」


「ひぃっ」


私の左腕をバースィマ先輩、右腕をジリー先輩がガシりと掴み、半ば引きづられるように連行される。


(ムリムリムリムリ! 帰りたい! 今からでも内勤希望したい!)


しかし、そんな私の願いも虚しく――


この後、意識を失っては強制的に起こされ、回復後にまた四人にやられまくる、を幾度となく繰り返し、文字通り地獄の初日を過ごしたのだった。



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