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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第七章 彼の失踪編

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63.休暇明けと先輩のその後の情報と。

結局、ラース先輩が入隊試験を受けた面々に接触できたのは休暇明けのことだった。

私の方も特に進展はなく、一旦クロに送迎をお願いして実家に戻り、結局は休暇中のほとんどを実家で過ごすことになった。


というのも――寮にいたら眠れないから。


カタリナも帰省していて、一人で部屋にいると、四六時中先輩のことを考えてしまってどうにかなりそうだった。

付き合っていた期間はほんの数か月なのに、いつの間にか先輩は、自分にとってなくてはならない存在になっていたらしい。


家族と過ごしていると、不安は落ち着いた。

アリアの面倒をみたり、農園や家事を手伝ったり……無理やり忙しく過ごし、先輩のことをなるべく忘れるようにしたのだ。


(ダリオさんの薄情者)


少しの憎しみすら覚えながら、そうして新学期を迎えた。





「ネモの裏切者~! 結局休暇中一回も遊べなかったじゃん~!」

「はは、ごめん。実家の居心地が良くってさ~」


キアラに文句を言われたが、笑って軽く流す。


「居心地が良かったっていうわりに……」


全身にキアラの視線が刺さる。


「……なんかまた痩せた? 入学してすぐくらいの貧相なネモに戻ってない?」

「貧相って……。家の手伝いをずっとしてたからかな? 制服が緩かったのはそのせいか……」


冗談めかして言ったものの、実際、ラース先輩とヨシュア先生から話を聞いた日以降、日に日に食欲が落ちていた。

毎日の睡眠も浅くて、眠れないときは勉強を頑張って気を逸らした。


だって――先輩のいない学園に戻る日が近づくのが、怖かったのだ。


……というのも。


「おいネモ! エンデ先輩が早期卒業したって本当か!?」


(ほら、来た)


ドレイクが私の席まで全力でやってきた。


「うん、本当」

「え、そうなの!?」


キアラもびっくりしたように大きな声をあげる。


「それで、卒業して、今エンデ先輩は何してるんだ!?」

「知らない」

「は?」「え?」

「聞いてないの、私も」


ドレイクとキアラの動きが同時に止まった。


「音信不通なんだ」


「だから、わからないの。私に、彼のこと、もう聞かないで」


「……お願い」


そんな気はなかったのに、最後は涙交じりになってしまった。


(だから、嫌だったんだ)


先輩が卒業していなくなってしまったことは、あっという間に広まるだろう。

そして何人かはドレイクと同じように、私のところまで事情を聞きに来るに違いない。

でも……その事情を、彼女だったはずの私は何も知らないのだ。

ほんとうに、ただのこれっぽっちも。


「……ごめん」


ドレイクはそれだけ言うと、自席へ戻って行った。

彼も先輩に懐いていたから、急にいなくなって動揺しているのかもしれない。

去っていく背中はどこか寂しそうだった。


「ネモ……大丈夫?」


キアラが心配そうに声をかけてくるが、何の反応もできない。

だって――大丈夫じゃない。

今だって、涙をこらえるのがやっとだった。


「……先生がもうすぐ来るから、私も席に戻るね」


気遣うように言ったあと、キアラも自席へと戻って行った。


(寂しくて、どうにかなりそう)


気が狂いそうな喪失感で、一限を受ける。

今日は始業日だから、授業らしい授業はない。

課題の回収と新学期からのカリキュラムのオリエンテーションを終えると、あっという間に終業の時間となった。


――と、そこへ。


「ネモ!」


先生が出て行くのと同じくらいのタイミングで、ユリシスが血相を変えて教室へ飛び込んできた。


「あ、ユリシス。改めておめでとう。魔法騎士科の初日はどうだった?」


たぶん、彼もエンデ先輩のことを聞いて、話を聞きにやってきたのだと思うけど、敢えて話を逸らすように言った。


じつは休暇中、ユリシスからは無事に試験に合格し、新学期から魔法騎士科に転科となった連絡を受けていた。

けれど、合格したらやろうと言っていたお祝いに関しては、私が実家の手伝いを理由に、延期してもらっていたのだった。


久しぶりに見たユリシスは前よりも背が伸び、しっかりとした筋肉がついているように見えた。

きっと転科のために、休暇中に身体を鍛えていたのだろう。


「ありがとう。それよりも、ネモ……」


ユリシスは私の顔を見てぐっと眉根を寄せ、机に置いてある私の手を取った。


「こっち、一緒に来て」

「え? ちょっと」


ユリシスに手を引かれ、有無を言わせない態度で教室を出て行く。

行先も告げずずんずんと先を行くユリシスに連れて来られた場所は、人気のない裏庭。


「ここならたぶん、誰もこないでしょ」


ユリシスはそう言うと、近くにあった花壇の縁に腰を下ろす。

そして私を見て、自分の隣をぽんぽんと叩いた。


どうやら私にも座って欲しいらしい。

一瞬躊躇ったけれど、ユリシスの強い視線に負け、隣に腰を落ち着けた。


「ネモさ……」


ユリシスが静かに口を開き、おもむろに尋ねてきた。


「ごはん、ちゃんと食べてる?」

「え、最初に聞くこと、それ?」


ここまで連れて来ておいて、そんなことを聞いてくるなんて、と苦笑する。


「教室入って久々にネモを見て、びっくりしたから。……ひどいやつれ方だ」

「そうかな? スレンダーでいいでしょ」


おどけるように明るい声を出すが、ユリシスは笑ってはくれなかった。


「エンデ先輩のことなんだけど……」


先輩の名前が出て、びくんと条件反射のように身体が跳ねる。


「魔法騎士科でも聞いたよ。卒業しちゃったって。しかも、誰にもそのことを告げずに……

それってきっと、ネモのことも含まれてるよね」

「……うん」


「俺が合格通知の連絡をしたとき、休暇中はずっと実家にいるって聞いて、なんとなく予感がしてたんだ。

だって、休み前は先輩と出かけるために休暇途中で寮に戻るって言ってたのに」

「……うん」


ユリシスの静かな声に、短い返事で返す。

いまの私にはそれが精一杯の反応だった。


「ラース先輩や、ゲルド先輩たちから話は聞いた? 特に、ゲルド先輩は一緒に入隊試験を受けに行ってたはずでしょう?」

「……昨日、ラース先輩経由で、話を聞いたよ。ゲルド先輩たちも……なにも知らないんだって」


昨日、ラース先輩から入隊試験を受けた人たちに話を聞けたと連絡があり、事前に話を聞いていた。


『あいつらの誰も、ダリオの卒業のことは知らなかった。ただ、入隊試験の身体検査が始まったときには、アイツの姿はなかったらしい』


わかったことは、身体検査までは彼は試験地にいて、それが終わったときには姿が消えていた。

――ただ、それだけだった。


「そっか……」


ユリシスがそれきり口を閉ざす。

かける言葉が見つからない、そんな感じだった。


しばらくの沈黙のあと、ユリシスが再度静かな声で訊ねてきた。


「ネモはさ、どうしたい? 先輩のこと、探す?」

「探すって……一体どこを?」


朝一で事務局に彼の卒業後の場所を聞いたところ、やはりといっていいか、個人情報だからと断られていた。


「消えたのは、入隊試験の場所でしょ? そこまで行ったら、何か手がかりが掴めるかもよ」

「あ……」


(確かにそうだ)


事務局に断られた時点で、居場所を突き止めるのを諦めてしまっていた。

けれども、それ以外の場所で手がかりが得られる可能性が残っていることに、今さらながら気付いた。


「クロなら、そこまで連れていってくれるでしょ?」

「うん……でも、ちょっと厳しいかも」


クロの成体姿を維持するためには、私の魔力が相当量必要になる。

学園と実家の半分の距離で、カラカラになってしまったくらいだ。


試験地まではここから列車で数日という距離。ここと実家の距離よりも、はるかに遠い。

――おそらく、一日で辿り着くのは無理だろう。


「それこそ、空間転移を使えるラース先輩にも相談してみたら?」

「そうだね。でもラース先輩も転移には制限があったから、どうかな……」

「できる可能性は全部洗ったほうがいいよ。俺も協力するから、ね?」


そう言うと、ユリシスの手が、私の手の上にそっと重なった。

久しぶりに感じる誰かの体温に、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「うん……。ありがとう、ユリシス」

「ふふ、さっきよりはマシな顔になってきた」

「マシって何さ。いつもと変わらない、かわいいネモだよ」

「うん、わかってる」


フフと二人して笑いあう。

なんだかこうやって笑えるのは久しぶりのことな気がした。


「じゃあ、授業も終わったんだから、今日早速俺の合格祝いしてよ。キアラも誘ってさ」

「あ、いいね。そうしよう。せっかくの早上がりだもんね。キアラが帰っちゃう前に教室に戻らなくちゃ」


ゆっくりと立ち上がり、座っていた部分のローブの汚れをぱんぱんと払う。


(うん、私、先輩の手がかりを見つけに、試験地まで行く――)


彼のおかげで、教室を出て行ったときよりも、はるかに心が軽くなった。

そのまま軽い足取りで、ユリシスと共に教室へと戻り、休暇前と変わらない穏やかな気持ちで彼の合格祝いをしたのだった。




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