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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第七章 彼の失踪編

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59.帰省先で憂鬱に過ごしています。

翌日、翌々日――そしてとうとう一週間が経ってしまった。


「結局、エンデ先輩の伝書鳥来なくなっちゃったね。もう向こうを出発してるんだっけ?」

「うん……試験地からこっちに移動しているんだと思う……」


だというのに、伝書鳥よ、なぜ来ない。

もう試験日程も終えているはずなのに。


「ネモは明日から帰省するんだよね。 それとも、一週間粘って寮にいる?」

「それが……もう列車のチケット買っちゃったから、変更できないんだ……。

でも、実家からは私の伝書鳥は届かないだろうから、今日がラストチャンスなんだけど……」


どうにも勇気が出なかった。

もしかして伝書鳥を送れないくらい、何かショックなことが先輩に起きてしまったんだろうか。


(身体検査で落とされた? いや、先輩に限ってそんなことはなさそう。あるとすれば、フラッシュバックが起きてしまったとか……でも、それなら尚更、私に連絡をしてきそうな気がするのに)


最初は疲れてるんだ、と楽観的に考えていたのに、ずっと連絡が無いとなると胸のざわつきが収まらない。


「うーん。ラストチャンスならさっさと送っちゃえ!」

「う、うん……そうだね」


もう試験地から出発しているだろうから、受信制限はないはず。

それに、多少はこっちに近付いてるだろうから、私の伝書鳥もギリギリ届くはずだ。

ただ――私の精神状態があまりよろしくないので、いつにもましてショボい鳥さんになりそうな予感はしていたのだけど。


(まあ、届けばよし。……やるぞ)


気合を入れ、伝書鳥の魔法を詠唱する。


『こんばんは、ダリオさん。試験お疲れ様でした。私は明日から実家に帰りますが、また伝書鳥を送ってくれると嬉しいです。

ネモより』


なぜか途中で緊張してしまい、呪文の発音がブレてしまった。


その結果――

案の定と言っていいか、現れたのは、手のひらサイズのいつもの鳥……よりも一回り小さいサイズ。


「ぴいぴい」と弱々しく鳴きながら、ふらふらと窓の外へと飛んでいく。


……その辺の蝶々よりもゆっくりした羽ばたきっぷりに、この小鳥が辿り着く頃には、先輩は寮に戻って来ているのでは、と不安になる。


あまりの出来に、カタリナがすかさず突っ込みを入れてきた。


「いつにも増して頼りなかったね~! 前に一度だけ見たかっこいいオウムはどこへ行ったんだろ」

「言わないで。この魔法、術者の精神衛生状態を反映するらしいから」


つまり、先輩から連絡が来ない不安感で、伝書鳥に見事なまでに残念な影響が出てしまっていた。


「でも、今日こそネモのもとに先輩から伝書鳥が来るかもしれないじゃん。元気出しなよ」

「そうだね……。ありがと」


そんなカタリナの励ましも空しく、この日も先輩からの連絡は無かった。


終了日にわざわざラース先輩まで様子を聞きに行ったものの、彼は特に試験期間中に先輩と連絡を取り合ったりはしていなかったとのこと。


「俺はしばらく寮にいるから、アイツが帰ってきたら、ネモに連絡を取るように言っとくよ」とは言ってくれたものの――

結局、心の中に不安を残したまま、実家に帰省することになってしまったのだった。





「おーい、ネモ。いつまでも寝てないで、農園手伝いに行きなさい」

「……んー、まだ寝てたい。まだ昼前じゃん……」

「もうお昼前でしょ!」


母親に叩き起こされ、シーツまで剥がされてしまう。

なんてこった、これでは二度寝もできない。


「ほんと、いくら休暇だからって、ダラダラし過ぎじゃない?

宿題とか出てないの?」

「夜にやるからいいのー」


しょぼしょぼと目を擦りながら、洗面所に向かうと、入れ違いで中から出てきた兄が、「おお、ネモ!」と大袈裟な声を上げた。


「やっと起きたか! ごはんを食べたらアリアの相手をしてやってくれないか」

「えー、まぁいいけど。農園の手伝いはいいの?」

「そっちはゾフィにやってもらうから間に合ってる。おまえがいると余計な手間が増える」

「ひどい」


アリアは姪っ子、ゾフィは義姉の名前だ。

一番上の兄はすでに結婚していて、家族で実家に同居して農園を継いでいる。

次兄も結婚しているけど、向こうは花屋の義姉の元に婿養子に行ってしまったので一緒には住んでいなかった。

ただ、目と鼻の先くらいの距離に家を構えているので、毎日顔を合わせている。


「ねもー」

「あ、アリア。お~は~よ~」


膝を曲げて食べちゃうぞ、というポーズで姪っ子にゆっくりと近づく。


「きゃー! ねもかいじゅう、きたー」


けらけら笑いながら廊下の向こうへ逃げていく。

今年三歳になる二歳児のアリアは、はっきり言って目に入れても痛くないくらいにかわいい。

アリアの相手は農園を手伝うより遥かに手がかかるが、ショボくれたまま実家に戻ってきた私にとっては癒しでしかなかった。


「はぁ、お腹空いた……」


実家に帰ってからというもの、昼前までぐーすか寝て、先輩からの連絡を日付が変わってからも待つという生活を続けていた。

最終日に出した伝書鳥は、朝には私の元に戻って来ていたのだ。


『ぴい。きょひ。ぴい』


これだけ言って、ぽひゅんっと気の抜ける音を出して消えてしまった。


(きょひ、『拒否』――?)


つまり、届いたのは届いた、でも受信を拒否された――ということになる。


「なんで」


受信を制限された区域にでもいたのか、それか、先輩の意思で受信を拒否したのか。

どちらかはわからない。けれども、いずれにせよ先輩に自分のメッセージは届かない。

完全な音信不通だった。


実家に帰ってからも、伝書鳥を試みたけど、今度は実家がド田舎過ぎるのか、『むりむり』と言って返ってくる。

送るたびにショボくなっていく鳥を見ていられず、とうとう昨日は送るのを止めてしまっていた。


すっかり冷めた朝ごはんをまだぼんやりした頭で咀嚼していると、

「ねもーあそぼー」とアリアがてけてけと側までやってきた。


「ごめん、ネモはごはん中だよー。代わりにクロと遊んでて」

「くろ、おにわでねてるよ?」

「あ、そうだった、ややこしいね。<ビッグ>クロを呼んであげる」


子守り役には動物が一番。

ただ、実家のクロはやはり意思疎通が難しく、アリアの面倒も時折見てはくれるが、すでに老犬のためほとんど寝てばかりだった。


『クロ、来て』


頭で念じると、すぐにクロが姿を現した。


(大きくて怖いかもだけど、大きなモフモフは怖くないはず)


<最近ご無沙汰だったが……ここはどこだ>


姿を現したクロが開口一番に見知らぬ場所だと問いかけてくる。

そういえば、しょぼくれ過ぎて、こっちへ来てからクロを呼び出す気力すら失ってたんだった。


「うちの実家だよ。ごめん、私がごはん食べてる間、この子……アリアの相手してやって」


<……>


アリアは急に現れたクロにびっくりして、クロを見ながら固まっている。

だけど、クロも手慣れたもので、身体を地面にべちゃりと伏せ、ごろんとお腹を見せて敵意がないことを示す。

大きな毛玉の塊に、アリアは恐る恐る近づき、恐る恐る手を伸ばした。


一度触れたらこっちのもの。

あっという間にアリアは警戒心を解き、子供ならではの遠慮のなさで、クロの大きな身体に自分の身体をどしんと沈める。


<ぐぅ……>


ナイス、クロ。


呻き声を上げているが、上位幻獣の彼なら子供のボディドロップなどなんてことないだろう。

気を取り直して朝ごはんの続きに取り掛かる。


(ああ、クロありがとう。これで私は優雅に朝ごはんが食べられる……)


と、思ったそのとき。


「ん? 待てよ?」


ある考えに、フォークを持つ手を止めた。


時々忘れそうになるけど、このモフモフは契約獣だ。

寮にいるとき、先輩のもとまで一瞬で辿り着くことができた。


(ひょっとして――)


アリアとキャッキャしてる黒い毛玉を思わず凝視する。


(――クロなら、先輩のところまで行ってくれるんじゃないか?)


今さらそのことに気付き、朝ごはんのことなんて、頭の中からきれいさっぱり吹き飛んでしまった。


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