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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第七章 彼の失踪編

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58.それぞれの休暇と、連絡が途絶えた先輩。

ストックが溜まったので、結局毎日更新します。

入隊希望の第五学年が試験を受けに行ってから早二週間。


魔法学科の一年生は学期末試験が終わり、各教科の結果を受け取っていた。


「ネモ、今回の実技試験の結果すごいじゃん! 前回の中間テストのときは目も当てられない状態だったのに、クラスで唯一の"優"を取るなんて!」


「ふふふー、でしょ! 今回はちゃんと試験対策したもん」


キアラに実技試験の様子を褒められて、自信満々に胸を張る。


先輩を見送ってからというもの、放課後の空いた時間に、たくさん練習をしたのだ。

入隊試験の勉強をしている先輩の横で、私もちゃんと座学の予習復習の勉強をしていたので、そっちの方も手応えを感じていた。


(もう不可は取らない!)


「前回は試験対策してたのに"不可"と"可"しか取れなくて泣いてなかったっけ?」

「私、過去は振り返らないタイプなんだ……」


キアラが言ったことは紛れもない事実だ。

前回は自分なりに勉強したはずなのに、全ての教科において"不可"と"可"。


原因はわかってる。


"要領が悪い"。


それに尽きる。

というか、あまりにとっ散らかった私の勉強スタイルに、先輩から「よくそんなんで魔法学科受かったな」とまで言われてしまった。


なので、特待生でもある先輩の勉強方法を参考にし、実技も彼のアドバイスに従い感覚に頼るのをやめた。

するとなんということでしょう。

劇的とまでは言わないまでも、確かに手ごたえを感じたのだ。


「ネモはエンデ先輩と付き合い出してからポンコツ卒業しちゃったんだな……。仲間の俺は寂しいよ」


いつの間にか隣に来ていたユリシスがテスト結果を握り締めながらぼやく。


「そういうユリシスも、実技は"良"取ってたでしょ」

「あれは、ネモのおかげかな。間接的にはエンデ先輩のおかげだけど。魔法を使う時に手の動きとか意識するようになったら、失敗がゼロになったんだから」

「むしろ今まで手の動きで失敗してたのね……」


本当、エンデ先輩さまさまだ。

あの人は軍ではなく、教職に就いたほうがみんな幸せになれるのではないだろうか。


「そういえば、二人とも休暇中は何するの?」


なんとなく気になって聞いてみた。

あと一週間もすれば長期休暇。

私は先輩が不在なので、これといった予定もなく、とりあえず実家に帰ってのんびりするつもりだった。


「私は地元でいつもと変わらない休暇を過ごすつもりだよ。実家の魔法道具屋の手伝いがほとんどって感じ。

手伝いが無い日は、ネモが暇なときに遊んで」

「了解! キアラと遊ぶのに合わせて、寮に戻るようにするね」

「ユリシスは? 何か予定あるの?」


話を振られたユリシスは下へ視線を逸らし、言いづらそうに言った。


「……俺は――勉強」


「え?」

「本気?」


まさかの返しに、キアラと二人で何を言ってんだと問い返す。


「本気だよ。じつは俺……次学期は転科しようと思ってるんだ。だから、その編入試験の勉強しなきゃなんだよ」

「転科!? そんな急に……」


学園では学期ごとに編入試験を受けることができ、他の学科への転科が可能だ。

特にカリキュラムが厳しい魔法学科においては、転科する生徒は珍しくない。

けれど、まさかこんな早い時期に、しかも友達が転科を希望していただなんて……


(どうしよう……。ショックの方が大きいかも)


「え、と……どこの学科を受けるの?」


躊躇いがちに尋ねると、ユリシスも少し口ごもりながら小さく告げた。


「……魔法騎士科だよ」

「え、ユリシスが!?」


キアラが驚きの声をあげる。

それもそのはず。


魔法実技に特化した魔法学科、身体的実技に特化した魔法騎士科。

双方ともに軍への就職率が非常に高い学科である。


魔法学科は魔法の行使や知識の獲得で厳しい反面、魔法騎士科は体力面で相当に厳しいと聞く。

彼は敢えて正反対の厳しい道へと進むことを決めたのだ。


「俺さ、異学年交流授業以来、身体強化で身体を使うのが楽しくなっちゃって、それを将来活かせたらなぁと思い始めたんだ。

身体はどれだけ鍛えても細いままなんだけど、もともと体力だけはあったし、寮の魔法騎士科の子に話を聞いたら、ますます興味が湧いてきてさ。これはもう転科するしかないって思っちゃったんだ」


「魔法学科に、未練はないの……?」


つい、引き止めるような言葉をかけてしまった。

ユリシスの新しい道を応援しないといけないのに――彼がいなくなってしまうという、寂しさの方がどうしても勝ってしまう。


「――うん」


迷いのない声。


「もう決めたんだ。でも、落ちたらまた戻って来るから、そのときは二人ともなぐさめてね」


ははっと笑うユリシスだったけど、私の心の中は複雑で、うまく合わせて笑うことができない。


「でも、魔法騎士科かぁ。

そこだと第四学年に遠征授業で一緒になれるし、他の学科に比べて合同授業も多いみたいだから、交流がなくなるわけじゃないもんね?」


私の落ち込みっぷりを察したキアラが、なぐさめるようにしてポンポンと私の肩を叩く。


「そう、そうなんだよ! 魔法騎士科って、これから魔法学科と絡みがたくさん出てくるみたいなんだ。

だから、ネモとまったく会えなくなるわけじゃないし、ね?」


ユリシスもキアラに乗っかる形で気遣ってくれた。

二人の優しさに、沈みきっていた心が少しずつ浮上していく。


「そっか、うん……編入試験頑張って! 受かったら、三人でお祝いしようね!」

「いいね、ユリシスのおごりだね」

「いや、なんで。そこは二人からでしょう」


(みんな、いろいろ考えてるんだな……)


第五学年は就活。

友達もそれぞれ別の道を進もうとしている。


――私はまだ、何も考えられてない。


とりあえず、試験結果は良かった。

憧れの先輩への道のりには程遠いけれど――やっぱり魔法を使う道へ進みたいな、とだけ思った。





「良かったね~!」

「ふふ、ありがとう」


寮に戻ったあと、カタリナに試験結果が予想以上に良かったことを告げた。

前の試験のときは、「次がんばればいいよ!」と散々慰められたけれども、今回その必要はない。


「やっぱできる恋人のおかげかぁ!?」

「先輩のおかげなのはそうだけど、やっぱり一番は自分の努力のおかげ! ……と思いたい」

「うんうん、わかってるよ。毎日頑張ってたもんね~」


カタリナは私が必死に机にかじりついてたことを知っている。

だからこそ彼女に頑張りを褒められたことが何より嬉しかった。


「あ、そういえばさ。ネモは休暇中、実家に帰るの?」

「うん。終了日の翌日には実家に向かうつもり。ド田舎だから、ほぼ丸一日移動だよ」

「そっか。ネモがいないんだったら、私も早々に帰省しようかな。同じく超田舎だから移動が憂鬱だけど」


二人とも田舎出身の寮生。

休暇期間中、寮食もお休みとなるため、ほとんどの生徒は実家へ帰省する。

学年が上の生徒はわりと残っている者も多いが、第一学年の生徒なんて寮にいたってやることがない。


(先輩がいたら、私も寮に残ってたのにな……)


先輩たちの入隊試験は折り返し地点を過ぎ、昨日で試験も面接も終わったのだとか。

なぜそのことを知っているかと言うと、毎晩欠かさず先輩から伝書鳥が飛んでくるからだ。

そのときに、「おやすみ」だけでなく、簡単だけど近況も合わせて報告してくれる。


ちなみに、私から先輩へは伝書鳥を届けることができない。


試験地は外部とのやりとりが制限されており、向こうから手紙の類を出すことができても、こちらからの受け取りを拒否される。


――というか、そもそも私レベルでは、先輩のいる遠くまで伝書鳥が届かないっていうのもある。


……一度ダメ元で挑戦して「むりむり」と帰ってきた伝書鳥を見て心底がっかりした。まだまだ修業が足りないようだ。


一方通行のやりとりだけど、きっと先輩も私が彼の伝書鳥を楽しみにしてるとわかっているはず。


(今日は身体検査とか言ってたけど、どうだったのかな?)


「――というか、休暇中はエンデ先輩には会わないの?」


カタリナに問われ、飛んでいた意識を慌てて戻す。


「あ、うん。先輩がこっちに帰ってくるのは休暇期間に入ってからだし、後半に少し会えたらなぁ、っていう感じかな」


「なんか控えめじゃん~! いつもイチャコラしてるから、てっきり毎日会うもんだと思ってたよ」


「誰がイチャコラしてるの……」


「誰って、二人とも! 特にエンデ先輩だね。あのクールなエンデ先輩がネモに引っ付き倒してるっていうんだもん。魔法薬科の私たちにすら噂が回ってきてるんだから」


「ええっ、何その噂。そこまでベタベタしてないよ! ……たぶん」


(――でも、向こうからのスキンシップが多いのは否定できないかも)


先輩は、ごく自然に、さも当たり前のように触れてくるのだ。

私が注意すると「あ、ごめん」と謝ってくるのに、時間が経つとまた同じことをする。


(これじゃオーレリアさんのこと言えないな……)


彼女は距離感バグの筆頭だと思っていたけど、先輩も大概――

ラース先輩曰く、彼がベタベタするのは私だけ(あとクロ)らしいので、どうにも強く出られなかった。


「少しでも会えたらいいね。なんせ来年にはエンデ先輩も就職しちゃってるわけだし、長期休暇に遊べるのは今年がラストチャンスだよ」

「た、確かに……! 軍に入っちゃったら、そんなに長くお休み取れないよね」


先輩が忙しすぎて、ツライ。

早く試験から帰ってきて休みの間の都合を合わせたい。


「まあ、楽しみたまえ」

「カタリナはどのポジションなんだよ」


二人でケタケタ笑い合っていると、そろそろ消灯の時間になっていた。

消灯は寮内の共用部だけで、部屋は各自灯りをつけていてもいいのだけど、カタリナと私はこの時間にはできるだけ部屋も消灯し、ベッドに入るようにしている。


そしてこの時間になると、先輩の伝書鳥がどこからともなくやってくるのだ。


「そろそろ飛んでくる時間かな」

「ほんっと毎日マメだよね~。愛されてるのがわかるわぁ」


カタリナが私をからかいながら部屋の灯りを消していく。

真っ暗な部屋で炎の鳥が揺らめく姿は、いつ見ても飽きない。


――けれど。


「今日、なんか遅い……」


私がベッドから呟くも返事がない。

カタリナはすでに寝てしまったようだった。


(まさかの日跨ぎでの試験とか?)


さすがに登用試験でそれはあり得ない、きっと疲れて寝落ちしてしまったのだろう。


「ふあっ」


口から欠伸が洩れる。

ベッドに入ってしばらく経つので、先ほどから何度も睡魔が押し寄せていた。


(今日はもう来ないかな……)


どうせ明後日には帰路につき、一週間後にはこっちに戻って来るのだ。

一日くらい、声が聞けなくても……ちょっと寂しいけれど、仕方が無い。


「おやすみなさい、ダリオさん」


届くはずのない挨拶をし、目を閉じる。


――このときの私は、先輩の身に何かが起きていたなんて、微塵も疑ってなかった。


ただ、明日は伝書鳥で近況を聞けますように、と願いながら――深い眠りへと落ちていった。



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