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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第六章 恋人編

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55.先輩の家族と幻獣との出会いに耳を傾ける。



この場で話すには少しばかり――いや、かなり重いかもしれない。


けれど、自分の中でずっと蓋をしていたことを、彼女にだけは聞いておいて欲しかった。


「シャノンから聞いたかもしれないけど、昔、俺の家族はシャノンの家の近所に住んでたんだ。

でもある日、そこから引っ越すことになった」


全然聞いたことも無い場所へ引っ越すと両親から聞かされたとき、最初は戸惑った。

生まれ育った場所から、ほとんど出たことがなかったから。


「引っ越しの理由は、軍医だった両親が医療チームとして、とある地域に派遣されることになったからだ。派遣は長期に渡るから、家族帯同でそこへ向かうことになった」


淡々と話を進めていく。


「けれども――

その"とある地域"にたどり着くことはなかった」


当時の記憶が、静かに蘇る。


「移動途中に、事故に巻き込まれて……気付いたときには、乗り物に乗っていたはずの身体は、外に放り出されていた」


そこまで話すと、強張った様子の彼女の手が自分の手に添えられた。

その手を緩く握り返し、話を続ける。


「正直、その前後の記憶はほとんど無いんだ。

たぶんいろんなショックが起きたせいだろうって、当時の医者は言ってた」


――覚えているのは、衝撃と痛みで、身体がうまく動かせなかったこと。

何かが燃えているような煙の匂いと、自分が咳込んでいる音。

家族の誰もが静かで、みんな動かなかったこと――いつもうるさくて全然じっとしてない、弟と妹でさえ。


「事故からしばらくの間、誰もその場から動かなくて、そして誰も助けに来なかった。

俺も意識は虚ろで――ただ、そのとき、一匹の赤い鳥が傍に飛んできたことだけは鮮明に覚えてる」


外が暗くなる中、ぼんやりと近付いてきた真っ赤な炎。


「普通の鳥よりもはるかに大きくて、全身に赤い炎を纏っていた。そいつは俺の傍まで飛んできて目の前で止まって――何かを囁いた。

内容ははっきりと覚えてないんだけど……なぜかそいつと会話をしたような記憶だけは、しっかりと覚えてるんだ」


あれは夢だったのか、現実だったのか――


「次にちゃんと覚醒したときには、ベッドの上で……」


自分だけが病院にいて、

自分だけが助かったと聞かされた。


「みんないなくなったっていうのに、どこか他人ごとのようだった。

けどさ、身体は正直で――そのときに、とんでもない魔力暴走を起こした」


このときの記憶も曖昧だ。


自分ではない不思議な感覚で……


いつの間にか――辺りを燃やし尽くしていたのだから。


「幸いにして、人的被害は出なかった。

けれども、退院後――俺の新居は施設になった」


親戚連中の誰も、引き取り手がいなかったらしい。

それもそうだろう、これまで疎遠だった上に、災害レベルの魔力暴走を起こすような子供など、厄介者でしかない。


幸いなことに、送り込まれた施設は、決して悪い場所じゃなかった。

魔力持ちの子供が集められたところで、生活の面倒を見てくれるだけでなく、そこの職員が魔法を教えてくれたりもした。


「そこで出会ったのが、"アンドリュー・ブラック"だ」


アンドリューの名前を出したとき、彼女の手に力が入った。

思えば、アンドリューの名前を彼女の前で出したのは初めてのことかもしれない。


「そいつは会ったときからフェンリルと契約してて、俺とは驚くほど気が合った」


いつも黒い狼を連れて、朗らかに笑ってたアイツの顔を思い出す。


「アンドリューはフェンリルのことをフェンと呼んでたんだけど……。

気付けば、アンドリュー、フェンが俺にとって第二の家族みたいな存在になってた」


アンドリューとの仲は良かったけれど、もちろん喧嘩もたくさんした。何度も拗らせて、何度も元の仲に戻った。

それこそ、まるで兄弟のように――本当の家族のような絆がアイツとの間にはあった。


「その後、一緒に学園の中等部に入学して、高等部は一緒に魔法学科に入って――」


少し間を置く。繋いでいる手に力が籠もる。


「そして……遠征授業だ」


彼女が、ごくりと喉を鳴らしたのがわかった。


(――思ったより、大丈夫だ)


"遠征授業"という言葉に、凪いだ気持ちでいられる自分に驚いた。

以前は口に出すだけで、自分の中の暗い部分が蠢きだして止まらなかったというのに、今は少し胸がざわつくだけに留まっている。


それは間違いなく――隣にいる彼女のおかげだった。


そのまま、静かに当時のことを口にする。


「遠征授業の終盤。

俺たちは最前線に飛ばされてたんだけど……ガラナの最後の襲撃を受けた夜、――俺はあのときの鳥にまた会うことになった」


おびただしいくらいの死体を処理し、

アンドリューのこともフェンに任せ、

全てを終え……全身の感覚が麻痺しかけたとき。


あの暗くて恐ろしい夜に――あいつは姿を現した。


「少しの残り火が燻る残酷な光景の中で、場違いなくらい綺麗な炎を纏って、辺りを旋回してたんだ。

そのときも、確かそいつは俺の元までやって来て、何か囁いた気がしたんだけど――」


もしかしたら、幻覚だったのかもしれない。


気が狂う直前の、都合のいい幻。


現にあの場にいた軍の誰も――戦場に舞う炎の鳥を見た人はいなかった。


「ごめん、聞いてもらっててなんだけど、改めて思うと幻覚っぽいな……」

「――そんなことないと思います」


これまで黙って話を聞いていた彼女が、静かに口を開いた。


「フェニックスは……"ダリオさんの家族の"弔いに来てくれたんですね」

「……」


"家族の弔い"


その言葉は、驚くほど胸にしっくりきた。


「うん、きっとそう。そのために、フェニックスは姿を現してくれたんですよ」

「……おい、泣くなよ」


気付けば、彼女の目から涙が溢れていた。


「……すみません、これでも、大分我慢してたんです……」


ポロポロと雫が流れ落ちる。


「ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだ」

「泣かされたんじゃないです、私の涙が勝手に飛び出してきただけです」

「……そっか」


なんとか必死に涙を堪えようとしてるその姿に、心が揺さぶられる。


気付けば人目も憚らず――彼女の華奢な身体をぎゅっと抱き寄せていた。


今までは、どちらかというとドライな付き合い方をしてきたし、

人前で触れ合うことは避けてきたというのに。

ネモに対してだけは、自分でも引いてしまうくらい、遠慮がなかった。


(どうかしてる――)


それでも。


自分ごとのように涙を流してくれる彼女を、腕の中に捉まえて、いつまでも離したくなかった。



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