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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第六章 恋人編

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53/55

53.先輩の進む道を応援したい。けど、寂しい。

「入隊試験、ですか?」


ランチを食べていた手を止め、先輩を見つめて問い返す。


「ああ。今度それを受けにいくんだ。

筆記に面接、それから実技の試験を兼ねた適性検査がある」


「試験……ということは、エンデ先輩は軍に進路を決めたんだ……」


以前ドレイクと一緒に話を聞いたときは、卒業後の進路はまだ迷っているということだった。

軍以外の道もあるんじゃないか、と。


あのときはまだ精神的に不安定だったから、彼の中でも将来に迷いが生じてたんだろう。

けれど気持ちが安定してきた今は、当初から決めていた道に改めて進もうと決心したのかもしれない。


(先輩が決めたことなら、応援してあげたいけど……)


なぜか、しっくりこない。


そう思っていた矢先、やけにこの場が静かになっていることに気付く。


ふと隣に座っている先輩の顔を見ると、私と同じように手を止めて……

なぜか顔をしかめてこちらを見つめていた。


「? どうかしました?」


「呼び方」


「あ」


そうだった。うっかりしていた。


つい癖で"エンデ先輩"と呼んでしまったけど、名前で呼んで欲しいと散々言われていたんだった。


「だ、ダリオ、さん……」


(ひぃ、恥ずかしい。心の中ではずっと先輩呼びだから余計……!)


付き合い出してからしばらく経つというのに、いまだに言い慣れなくて、ついモゴモゴしてしまう。


「そんな恥ずかしそうに呼ばれたら、こっちもむず痒くなるだろ……」


「いや、こればっかりは仕方がないです……」


先輩から自分の名前を呼ばれるのすら、恥ずかしいのだから。


(だって、夢みたい)


先輩が自分と同じ気持ちを私に対して持ってくれているなんて。

しかも、今こうして仲良く並んでご飯を食べてる。

少し肩が触れ合う距離で座っているのも、私としては夢見心地で――まだ付き合っているという実感が湧いてなかったりする。


「ええと、それで、試験はいつなんですか?」


はぐらかすようにして話を振ると、またしても先輩は苦い顔をした。


「二週間後だ。そっから休暇期間の途中まで試験が続く」

「二週間後……休暇期間の途中……え、早! それにめちゃくちゃ長くないですか!?」

「試験地が遠方だからな。移動に時間がかかるんだ。それに、数日に渡って試験があるらしいから」


あと一か月もすれば、学園は学期間の長期休暇に入る。

じつのところ、私はこの休暇を心待ちにしていた。


(せっかくお休み中、先輩とおでかけできると思ってたのに……)


「もしかして、落ち込んでる?」


先輩が私の顔を覗き込むようにして言う。

何を当たり前のことを聞いてくるのだろうか。


「それは、もちろん……。私、休暇中にダリオさんを実家の農園に招待しようと一人で画策してたのに……厳しそう」


「それは……めっちゃ行きたい。けど、今年は試験が終わってからも、休みが休みじゃないんだよな……」


私の提案に多少の食いつきを見せつつも、やんわりと断られてしまった。


(先輩が忙しすぎる――)


放課後に時間が取れないときは、今日みたいに昼休みに会うようにしていた。

先輩は第五学年ということを差し引いても、先生方から引っ張りだこだったり、卒論に加えて、軍の登用試験対策も裏でしていたんだろう、何かしらずっと予定が入っていた。

おそらく試験が終わった後も、卒論やら何やらで予定が詰まってるんだろう。


「……」

「うわ、泣くなよ。ずっと会えなくなるわけじゃないのに」


気付けば、じわりと涙が滲んでいた。

まったく泣く気なんて無かったのに、無意識のうちに泣くほど寂しいと思ってしまっていたようだった。


「……」


先輩は何も言わず、私の顔を自身の胸にそっと抱き寄せる。


ここは昼休み中の食堂のテラスの一角。

傍から見たら、なんか泣いてるカップルがいるぞ、という風に見えることだろう。


付き合い始めてから、前よりも格段にスキンシップが多くなったと思う。

オーレリアさんほどとまではいかないまでも、先輩はクロに接するがごとく私のことをワシワシ撫でてくるし、平気で抱き寄せてくる。

キアラからは「エンデ先輩って、ネモのこと愛玩動物と勘違いしてない?」と言われる始末だ。

最初は戸惑っていたけど、最近では触れ合いが無い方が寂しいと感じるようになってしまっていた。


ちょっと落ち着いたタイミングで身体をそっと離して目を擦る。


「ごめんなさい、試験対策もあるだろうし……。今からもっと忙しくなるんだろうなと思うと、急激に寂しくなってしまいました」


もともと感情の波は激しい方だと思うけど、まさかこんなことで涙が出てくるとは思ってもみなかった。

泣いてしまったことが急に恥ずかしくなる。


「あー……そのことなんだけど」


先輩が髪を掻きながらポツリと話しだす。


「試験対策は放課後に図書室でするから、一緒にいれないなんてことはないし」


「昼はこうやって会えるし」


「あと……今週末が試験前の最後の休みなんだけど……どっか一緒に出かける?」


最後に先輩が言った言葉に、目がカッと見開いた。


「うん! もちろんです! なんも予定無いです!」


なんて素敵な提案なんだろうか。

断るはずもなく、食い気味に返事をした。


「了解」


先輩は私に緩く微笑みを返す。

その姿は、初めて会ったときの先輩のようで――


(ああ、好き)


私の胸の高鳴りは、しばらくの間止みそうもなかった。





その日の夜。


課題を片付け終わったあと、週末はどこに行こうかと考えていると、

「今日はいつになくご機嫌だね~」とカタリナが言ってきた。


もちろん、カタリナの指摘通りご機嫌だ。

ちょうど話を聞いて欲しかったのもあって、元気よく返事を返す。


「今週末、先輩と二人で出かけるんだ! 何気に初デートだから、どこに行こうかって考えるだけで楽しくって」


そう、初デート。

週末が忙しい先輩とタイミングが合わず、これまで休日に会うことはあっても、学園外に出かけたことはなかった。

しばらく会えなくなることには目を瞑り、目先の楽しみに全振りする。


と、そこではたと気づく。


「私……よく考えたら、この辺のお出かけスポット全然知らない……。カタリナ、どこかおススメある?」

「え~? それ私に聞く? 私もこの辺全然詳しくないよ。出かけるときは女友達とカフェ巡りするくらいだしなぁ」

「ううん、どうしよ……」

「寮の先輩たちに聞いたら?」

「いや、それはちょっと別のことで話が長くなりそうだからいいかな……」


間違いなく先輩とのことを根掘り葉掘り聞かれて、寝かせてくれなくなる。


(あれ、待てよ? こういうときこそあの人の出番なんじゃ……?)


あの人、オーレリアさん。


アージュン先輩と長く付き合ってて、しかも恋愛相談に乗ってくれるとこの間言っていたではないか。


「一人適任者がいた! その人に今度相談してみるね」

「なら良かった。でも、いいなぁ。もう相談すら楽しそうに見える……なんか今、ネモのすべてが眩しいよ……」

「はは、言い過ぎだよ」


忘れていたことを思い出し、少し顔が曇る。


(だって……二週間後にはしばらく会えなくなるんだから)


「あ、そろそろ恒例の鳥さんがやってくる時間じゃない?」

「もうそんな時間?」


窓の方を振り向くと、カタリナが言ったとおり、炎の鳥が窓をすり抜けてやって来た。


『おやすみ』


たった一言。これが毎晩の私たちのやりとり。


綺麗な炎が燃え尽きて消えていくのを見届け、私もすぐに先輩に伝書鳥を送ってからベッドに入る。


最近、先輩は薬を飲まずに眠ることができているらしい。

前みたいに、夜にクロを派遣することもない。


(――今日もお互いにいい夢が見られますように)


ただ願い事を念じているだけだけど、私のおまじないが効くことを願って、ゆっくりと眠りについていった。



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