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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第六章 恋人編

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52.不穏の前に、一度幸せを噛みしめます。

「結局受験するんだ?」


シャノンが俺の記入している手元の紙を見て尋ねる。


「ああ。正直迷ったけれど……。最近調子いいしな。それに、やっぱり他の進路は考えられなくってさ」


記入用紙には免責事項がびっしりと書かれている。

その一つ一つにサインをして、いまやっとすべての記入を終えた。


「俺と一緒に魔法省で研究三昧の道も楽しいと思うけど?」

「やだよ。俺は一つのことを突き詰めるよりも、魔法を使ってるときがやっぱ一番楽しい」

「はは、そう思うなら、やっぱり軍は適職かもね」


――もうすぐ一学期が終わろうとしている。


第五学年の面々は一学期が終わる頃には大体全員の進路が決まっていることが多い。


シャノンもその一人。コイツは学園からの推薦で魔法省の研究部門への入所がすでに決まっていた。


推薦がなければ、これから始まる登用試験を受ける必要がある。

他にも、実家の家業を継ぐ者、大学への進学希望者もいるけれど、魔法学科のほとんどは、軍への入隊を希望している。


そして――その希望者には俺も含まれている。


「スカウトの話は?」

「対人の部隊だから、断った。向こうも終戦後の俺の状態を見て、見切りをつけたみたいだ」


遠征授業での活躍を見て、お世話になっていた最前線の部隊長からはスカウトを受けていた。

けれど、部隊を離れる直前、精神的に病んだ俺を気遣って「対魔獣の部隊にも話を通しておく」と言ってくれていた。

裏を返せば、戦争で駆り出されることの多い――言葉は悪いが、人殺し専門部隊には向かないと思ったんだろう。


「人を見る目があるねー。ダリオは心根が優しいから、見切りをつけてもらえてよかったよかった」

「誰がだよ、誰が」

「それで、入隊試験はいつから?」


シャノンに問われ、ふぅっとため息を漏らす。


「……二週間後。試験日程が発表されたのがつい先日だから、ほんと急だよな。それまでに卒論を形にしとかねぇと……」


「え、二週間後!? ほんっと急だね。うわ、そっかーじゃあクラスの大半は二週間後に試験を受けに行くとなると、教室がガラガラになっちゃうなぁ」

「かもな。まあ、もうみんなで受けるような授業もほとんど残ってないだろうけど」

「確かにね」


この時期はみんな就職活動で授業の出席率が悪いので、学園側も配慮してこの時期に必須授業は組まれていない。

それに、大体の生徒は必要単位を取り終えているので、研究室に籠ることの方が多かった。


「試験のこと、ネモにはもう伝えてあるの?」

「あ? いや、まだだけど」

「早く伝えた方がいいよ。たぶん目に見えて落ち込むんじゃないかな、あの子」

「……」


わかってる。

伝えた途端、間違いなく落ち込んで――たぶん、百パーセント泣かれるんだろう、と。


「《《感情の波の激しい彼女を持つと》》苦労するねぇ。きちんと対策考えときなよ?」

「……うるせぇ」


反論したものの、シャノンの言ってることには一理ある。

しばらく会えなくなることを伝える前に、対策を考えておかなければ――





――まさに、青天の霹靂だった。



その日は大きくなったクロの噂を聞きつけ、エンデ先輩に放課後に呼び出されていた。

私の課題も終わり、いつものように二人でのんびりモフモフして過ごしていたとき――それは突然起こった。



「好きだ」



ぽかぽかの天気の中、ふぁと欠伸をかみ殺していると、エンデ先輩が唐突に言い出した。


「? モフモフするのが、ですか?」


"何が"という主語が抜けてる。何のことを言ってるのかわからず首を傾げて問い返した。


けれども。


次に先輩の口から出た言葉に、私の眠気は一瞬で遥か彼方へ飛んでいくことになる。


「違う、おまえのこと――ネモのことが」

「…………………………へ?」


言われたことに理解が追い付かず、クロを撫でていた手をピタリと止めた。

見つめた先の先輩の表情は真剣で、私を揶揄っているような様子は微塵もない。


クロも何かしら雰囲気を感じ取ったのか、座っていた身体を伏せ、急に大人しくなった。


――赤い瞳から、目が離せなくなる。


「そろそろ会う口実を探すのが面倒になった。もしおまえも同じ気持ちなら……

付き合わないか、俺たち」


(えええええええええ)


先輩の口から出た、まさかのド直球な告白に、思わず口をあんぐり開けて固まってしまった。


「……」


しばらくの沈黙。


そしてそんな気まずい空気を最初に破ったのは、できる子、クロ。


鼻先でつんつんと私の顔を押し、早く何か返事してやれと促してくる。


「あ、えと……」

「いますぐ返事できないなら、後日でもいい。でも……考えといて欲しい」

「ま、待ってください! 後日はダメ!」


後回しにするなんて、そんなもったいないことはできない。

ただ――まさかの事態に、今になって心臓がバクバク激しく鳴って、なんなら手も震えてきた。


「ええええと。わ、わたし――」


(私も、好き。好きすぎて――)


頭の中で考えたそれらの言葉を全部キレイにすっ飛ばして口から出たのは。



「……死にそう……」



言った途端、青ざめた。



……お互いに。



「そ、そうか……」

「ぎゃー! 違います! セリフが吹っ飛んだだけです!」


青くなった顔の先輩に、ほとんど叫ぶようにして気持ちを伝える。

一度口から出た言葉は止まらない。


「私も先輩のこと好きです! 嬉しい! 好き! 大好き!」


顔も身体も、急激に熱を帯びていく。


「でもたぶん、私の方が好き! 私の方がずっと前から好きでした! だから、ええと、なんていうか……


よ、よろしく……お願いします……」


直前の勢いはどこへやら、急速に恥ずかしさが込み上げ、声が段々と小さくなる。


(ああ、やらかした――)


堪らず両手で顔を隠す。


「……うん、よろしく」


そう言った先輩の声もいつもより小さくて……

指の隙間から顔を覗くと、先輩ははにかんだようにこっちを見て緩く微笑んでいた。


そしてそのまま先輩の両手が伸びて私の手首を取る。

せっかく隠してた顔が露わになってしまう。


「わ、見ないで」


「やだね」


嬉しさと恥ずかしさで、いま世界で一番意味不明な顔になってる気がする。

腕が使えないならと、たまらず顔を横に逸らした。


「せ、せっかく好きって言ったのに、先輩が意地悪してくる!」


そのやりとりに、二人して顔を寄せ合って笑い合う。


もう距離感で悩む必要もない。

そう思うと、胸がすっと軽くなった。


(大好きです)


――こうしてこの日から、私たちは晴れて恋人同士となった。



本日夜も投稿。

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