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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第四章 二人の触れ合い編

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40.先輩と私の満たされない気持ちと、その対処法とは。

(ああ、せっかく会えると思ってたのに……)


片付けをしている途中で、またもクロが戻って来てエンデ先輩が魔法塔に向かったと聞いた。


<少しだけ寝れたようだが、物足りなそうではあった>


「物足りない、か……。申し訳ないことをしたなぁ……」


それでも、仮眠ができたならよかった。


むしろ――


(私の方が物足りない――かも……)


モヤモヤとどこか満たされない気持ちは、片付けが終わって寮に帰ってからも続いた。



「あー、終わった! 肩凝った! もう今日は終了!」


レポートを書き終え、机の上にペンを置く。

今日の課題は実技ではなく、レポートだけだ。


しかもレポートの中でも楽勝の部類のもの。


「魔法Aと魔法Bがぶつかったときにどんな反応が起きるか、自身の仮説を自由に記述せよ」なんていう、現時点で正解を求めない課題で、机に向かってものの数分で片付いてしまった。


(そろそろ寝るかな……)


欠伸をしながら、ふと考える。


(先輩、夜も寝れてるといいけど)


クロから聞いた話では、森で昼寝をするまでは不眠で過ごしていたらしい。

昼休みに会ったとき、ソファで横になってたからあの時も寝ていたのかと思ってたけど、あれも制御具のせいで寝るに寝れなかったんだとか。


(そのうち倒れるんじゃないかな)


一抹の不安がよぎった。


一度心配し出したら、悪い想像が止まらない。


(不眠で倒れる先輩。

しかも制御具で魔力を押さえつけらえてるから、助けも呼べない。

そして、そのまま……)


最悪の事態まで頭を働かせ、ぶるっと震える。


(いやいやいや、ネガティブが過ぎるでしょ)


頭をぶんぶんと振り、余計な妄想を振り払う。


「……ネモ、何百面相してるの」


カタリナが二段ベッドの上からこちらを見下ろし、呆れたように言った。


「そのセリフ、今日クラスメートにも言われたよ……。私そんなに顔に出てる?」


「うん。はっきりと。私、ネモ程わかりやすい子に出会ったことないかも~」

「そこまで言う……」


自覚はあった。

なぜなら、私の頭の中で考えてることをよく言い当てられるから。

きっとみんな私の表情から私が思ってることを察しているんだろう。


「それで、どうしたの?」


カタリナは寝るのを止め、話を聞くモードに入ったらしく、頬杖をついて私が口を開くのを待っている。


「えっと……簡単に言うと、私のせいで先輩が寝れなくて」


「ん? 昼寝の邪魔でもしたの?」


「ううん、違う。先輩と会う約束をしてたのに、私が用事で行けなくなっちゃって、そのせいでエンデ先輩はちゃんと寝れなかったらしくて……」「んん? 待って待って、ストップ!」


カタリナが、私を手で制した。


「先輩は、ネモに会えなかったから、寝れなかったの?

どういうこと? 繋がりがいまいちわかんないなぁ~」


カタリナに言われ、「あ、確かに」と思った。


(あれ、カタリナの言う通りだ。

私に会えなくても、先輩はクロがいたから寝れたんだよね?

じゃあ、私は別に行っても行かなくても……んん、なんか頭がこんがらがってきた……)


「ふう」


カタリナが呆れたようにこっちを見てため息をつく。


「"先輩が"、じゃなくて、"ネモが"会えなくて寂しかった、な

んじゃないの?」 


「あ……」


カタリナの言葉が、ストンと自分の胸に落ちた。


(そうだ。先輩がどうとかじゃなくて――私が会いたかったのに、会えなかったから寂しいのか)


先輩を理由にして、自分の気持ちが見えてなかった。


「うん⋯⋯そうかも」

「素直でよろしい。それじゃ、明日また会えることを祈って寝ようか~」


ふぁっと欠伸をするカタリナに、正直な気持ちを口にする。


「――明日じゃなくて、今会いたい」


もちろん、もう夜だし本気で会おうとは思ってない。

けれど、私の発言にカタリナが欠伸をピタリと止めた。


「ふぇ。そ、それは中々難しそうかな……?」


「うん、わかってる。だから伝書鳥だけでも、送ってみようかな」


「いや、ネモ。伝書鳥もこの時間はさすがに迷惑だよ。やめときなよ~」


「ううん、たぶん、先輩まだ寝てないから……おやすみだけでも言いたいの」


本当は会いにいきたい。


だからせめて、全部クロ伝いじゃなくて、私なりに伝書鳥で、先輩に今日行けなかったこと、薬を服用して寝てくださいってことを伝えたい。


(完全に私の自己満足だ……でも)


そうと決まれば決意が鈍らないうちにと、カタリナが止めるのを振り切って、呪文を展開した。


いつもより集中して、しっかりと気持ちを乗せる。


『エンデ先輩。

今日は行けなくてごめんなさい。でも、クロとお昼寝できたと聞いて安心しました。薬を飲んで、夜もしっかり寝てください。

おやすみなさい。ネモより』


現れた伝書鳥は、いつもの緑のもの――なのに、その姿は手のひらサイズから、オウムくらいの大きなものに変わっていた。


「? あれ?」


伝書鳥はしっかりとした羽ばたきを見せ、窓の外へ消えていく。


「へ~! かっこいいの送ったねぇ」

「意識したつもりはないんだけどなぁ」


私には詳しい仕組みはわからないけど、普段よりは丁寧に気持ちを込めたおかげなのかもしれない。


(迷惑って思われちゃうかな……。でも、返事、くるといいな)


そんな淡い期待を胸に、ベッドへ入って横になった。





明かりを消し、ベッドの中へ移動する。

昨日夜からほぼ不眠だったせいで、身体の疲れは限界まできていた。


放課後にクロを抱いて寝たものの、十分くらいで目が覚めた。

彼女は来れないとかで……少し消化不良のまま、研究室に戻った。


――色々、足りない。


なぜか、そう思ってしまった。


「ふぁ」


さっきから、欠伸が止めどなく出る。

このまま目を閉じれば、確実に落ちるはず。

……夜に何回も目が覚めるだろうけど。


(今日は薬はいいか)


そうして目を閉じかけた、そのとき。


緑の大き目の鳥が、ボンヤリと淡く光りながら窓をすり抜けてやってきた。


(この鳥――)


『エンデ先輩。

今日は行けなくてごめんなさい。でも、クロとお昼寝できたと聞いて安心しました。薬を飲んで、夜もしっかり寝てください。

おやすみなさい。ネモより』


伝書鳥は言い終えてから、そよ風をフワッと起こして消えた。

……伝言は、ちゃんと彼女の声で発せられていた。


術者の力量やコンディションに左右される魔法だけど、放課後の間抜けな小鳥からの急なレベルアップに、驚きを隠せない。


でも、そんなことよりも。


彼女の声で、おやすみの挨拶を聞けたことが、何より嬉しくて――


(――嬉しい?)


ふと湧いた疑問は一旦置いといて。


気付けば、何かに突き動かされるように返事を出していた。

それから言われたとおり、机の上に置いていた薬を服用する。


(素直すぎるだろ、俺)


『絶対効く!』らしいから、朝まで眠れるに違いない。


物足りない気持ちから一変、満たされた心で再度目を閉じた。





『おやすみ、ネモ』


「うわぁ!」


キラキラの炎を燃やす炎の鳥が、先輩の低い声で挨拶を口にした。


そしてそのままボゥッと静かに全身を燃やして消える。

朝の雛鳥から一転、あまりの完成度の高さにウットリしてしまう。


「めちゃくちゃ早く返事来たね。よかったね、ネモ」


「うん……!」


会えたわけじゃない。

なのに、先輩の声で、おやすみと聞けたこと、……名前を呼んでくれたことに、ほわんと心が温かくなった。


(いい夢見れそう)


寂しい気持ちはどこかへ吹っ飛び、少しだけドキドキした心のまま、ベッドの中で目を閉じた。



第四章終わり。

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