表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第四章 二人の触れ合い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/73

34.お昼寝は一緒にするもんじゃない。

今日も先輩からの呼び出しはなかった。


(昼に会えたから、いいけどさ……)


――物足りない。


そう、思ってしまった。


(森に行ったら会えるかな?)


あれだけ昼に身体をだるそうにしてたくらいだ。

もしかしたら、いつもの場所で仮眠をしているかもしれない。


まあ、忙しいからこそいない可能性の方が高いのだけど、そのときは、そのときだ……課題でもしてさっさと帰ろう。


(――会えますように)


淡い期待を胸に、森の方へと足を向けた。




いつもの場所にたどり着くや否や、先輩がよく昼寝している木の麓を真っ先に見る。


「……いた」


エンデ先輩は木陰で身体を横にし、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


予想通り先輩に会えたことに、小さくガッツポーズをする。



<あれは、寝落ちか?>


クロがぽつりと呟く。


身体の横には教科書が開きっぱなしで置かれており、どうやら本当に寝落ちしたらしい。


起こさないよう、クロを抱きかかえながらゆっくりと近づく。

先輩の耳や手には、昼に見た制御具はついていない。学園外だから、今は外しているようだった。


長い睫毛に影が落ち、無防備な寝顔をさらしている。


――なんだか、見てはいけないものを見た気がして、胸がドキリと鳴った。


今日は、ここ最近でも特に気持ちのいい気候だと思う。

ぽかぽかとした日差しに、木陰は涼しく、穏やかな風がときおり流れている。


先輩を見下ろし、迷うことなく思った。



(うん――これは、間違いなく昼寝日和)


「……クロ、私も寝ていい? 先輩が起きたら、起こして」


<――承知した>


クロの声が少し呆れ混じりにも聞こえたが、きっと気のせいだろう。


いそいそと先輩の近くに行き、クロを抱えたまま地面に横になる。

地面はごつごつしているけれど、ひんやりとした感触が心地いい。

草木の香りが漂ってくるのも、気持ちよかった。


目を閉じる前に先輩の顔をひと目見て――

そうしてやっと、クロの体温を感じながら目を閉じた。





「ん……」


身体に違和感を覚え、目を薄く開ける。


(なんか、いる)


身体の上に乗っているものを見て、寝起きでぼんやりしていた頭が一気に覚醒した。


「おい、何乗ってるんだ」


身体を起こし、腹の上からそれを落とす。


「きゃん」


黒い毛玉が、ごろんと転がった。


毛玉――クロが、そのままの位置で身体を伏せ、不満げに言う。


<寒そうだったから、暖を取らせてやっただけだ>


「いや、というかなんでここにいるんだよ……アイツは?」


<隣を見ろ>


「隣?」


いつの間にかいたクロと反対側へ目を向けると、手の届く位置に、華奢な体を丸めてぐっすり眠っている姿があった。


「なんでいるんだ……」


今日は放課後に呼び出しはしていない。

それに、昼に醜態をさらしてしまったから、できればしばらく会いたくなかった。


(格好悪すぎだろ――)


大量の制御具の圧に抗えず、一日中だるさと重さで散々だった。

昼は飯も食わずに寝ようとしていたのに、悪友たちがそんなことを許すはずもなく。


無理やり連れて行かれた食堂で、まさかコイツに出くわすとは。


しかも、あのときの俺は完全にネジが外れていたに違いない。

クロに触るときのように、コイツに手を伸ばして……

気づけばしばらくの間、握り締めていた。


あのあと悪友たちからはボロカスにいじられたが、あれは不可抗力だ。


(素直に手を差し出したコイツが悪い)


今ですら、無防備な寝顔をさらし、触れられる位置にいる。


「……」


なんとなく手を伸ばし、顔の横に添えられた手に触れた。


そして、ハッと手を引っ込める。


何勝手に触れてるんだ、と我に返るが――


……ふいに感じた体温を、もう一度確かめたくなった。


今度は自分の意思で手を伸ばす。

包み込むように手の甲に触れてみるが、まったく起きる気配はない。


<ダリオ、主はお前が起きたら起こしてと言っていた。声をかけてはどうだ?>


「……」


クロに促されるも、無言を貫く。


(声をかけて起こすなんて、もったいない。自然に目が覚めて、目の前の俺に驚けばいい)


そんな、しょうもない悪戯心が湧いた。


さて、どうやってコイツを起こそうかと思案する。

久しぶりに心が躍る。


手っ取り早く、重ねた手の甲をえいっと摘む。


すると、眉間に皺が寄り――手を払い除けてまた元の位置に戻った。

寝息は先ほどと変わらない。


(しぶといな……)


肩を揺らせば起きるだろうけど、そんな普通の起こし方ではつまらない。

じゃあこれは、と大胆にも頬をペシペシ緩く叩く。


「ん……」


さすがに、さっきより反応があった。


けど。


ゴロン。


反対側に寝返りを打ち、むにゃむにゃと口を動かしてまたも眠りに入った。


(嘘だろ……)


どれだけ寝起きが悪いんだろうか。


普通、頬を叩かれたら目くらい開けるだろう。

悪戯心は影を潜め、むしろ心配になってしまう。


(仕方がない、肩を揺らして起こすか……)


そう思って肩に手を持っていったとき


〈名を、呼んでやれ〉


後ろからクロの声がした。

振り向くと、モフモフの身体を地面に伏せ、こちらを眺めている。


(名前……か)


ネモ。


何度か呼んだことはある。

けれど、ただ名前を呼ぶだけなのに、妙に躊躇いがあった。


――呼ぶと、胸がざわつくから。


口を開いては閉じる。

しばらくして、ふぅっと息を吐き、覚悟を決めた。


(いや、なんでこんなに気合いが必要なんだ……)


自分で自分にツッコミを入れる。


――たぶん、普通に呼んでも起きない。


そう思って、耳元に口を寄せる。


「ネモ」


すると――


「っ!?」


文字通り、彼女は飛び起きた。


そして、そのまま――


彼女の頭が、俺の顎に思い切りぶつかった。


「ぎゃ」

「がっ」


お互い、痛みにドサリと倒れ込む。


「い、いたい! え、なに!?」

「いてぇ……」


寝ぼけて目を白黒させる彼女に、舌を噛んだ俺は、身悶えるだけで何の説明もできなかった――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ