3.再会したら伝えたいこと。
その後――
私は先輩と二人で、私の面談時間ギリギリまで話し込んだ。
というか、正確には私が無理やり彼を引き止めたのだが。
先輩の名前は、ダリオ・エンデ。魔法学科第三学年の生徒だった。
名前はどこかで聞いたことがある気もしたが、そのときは特に意識していなかった。
私が魔法学科ではどんなことを学ぶのか尋ねると、エンデ先輩は、初対面の私のグイグイくる質問を邪険にすることもなく、快く、優しく、そして丁寧に教えてくれた。
例えば――
魔法学科では、実技が授業の大半を占めること。
長期遠征の実習があること。
異学年交流授業という、異なる学年で同じ授業を受ける機会があること。
質問に一つひとつ答えつつ、彼は自分の経験も交えながら、詳しく話してくれた。
エンデ先輩の話が面白かったこともあり、私は俄然、魔法学科への興味が湧いてきた。
必ずこの先輩と同じ学科に進み、異学年交流の実習を一緒に受ける――そしていつか、彼の横に並び立てるようになりたい。
将来の目標が、着々と自分の中で積み上がっていく。
心の中で決意を固めている私に、先輩は笑顔で言った。
「ネモと一緒に実習を受けるのを、楽しみにしているね」
「!」
このときの私は、きっと夕日でも誤魔化せないくらい、真っ赤になっていたに違いない。
彼の穏やかな微笑みと言葉は、一瞬で私の心を捉えた。
――このとき、私は何がなんでも魔法学科に進学しなければならないと、強く心に誓ったのだった。
そうして興奮冷めやらぬまま進路面談に臨むと、面談開始早々、
「進路は魔法学科一本です」
おそらく先生も予想だにしなかったであろう答えを、私ははっきりと伝えた。
あのときの、鳩が豆鉄砲を食らったような表情は、今でも忘れられない。
「今から魔法学科に進むと言い出すなんて……」
(おまえ、正気か?)
そんな言葉を飲み込んだのが、手に取るようにわかった。
魔法学科と召喚科は、生まれ持った才能に左右されやすい学科だ。
そのため、高等部に進む前に適性検査と実技試験で篩にかけられる。
たとえ内部進学であっても、他の学科と違って狭き門なのだ。
適性が怪しい私の希望を、先生は心配そうに見守っていた。
けれども、私は自分の意思を曲げなかった。
中等部の最終学年は、心を入れ替えて必死に勉強し――
なんとか適性検査と実技試験を、ボーダーラインすれすれで突破することができた。
これぞまさに、執念。
魔法学科に合格した後、先生方からは釘をさされた。
「ギリギリ合格だから、留年しないようにね」と。
ちなみに――
“エンデ先輩”が学園では割と有名人であることを、私は後から知った。
当時、第三学年でありながら、実技のレベル――特に炎の扱いに関しては、学園トップクラスと評されていたらしい。
友達に話すと、「ああ、あの炎の」と、すぐにわかるくらい名前が知られていた。
それに加えて、精悍なルックスの持ち主であることから、隠れファンも多いという話だった。
そのため、私と同じように「先輩に憧れて」魔法学科を志望する生徒も、毎年少なからずいたらしい。
しかし、そんな不埒な理由だけで進学した生徒は、もれなく留年か転科していったという。
――このままでは、私もその一人になりかねない。
そう思いながら、私は毎日、必死に課題に取り組んでいるのだった。
◇
「第四学年……復学したら第五学年か。あの学年ってレベルが高いって言われてたけど、今回の遠征で魔法科の生徒が一人亡くなったみたいだね。
今まで緘口令が引かれてたらしいけど、凱旋と同時に発表されたんだよね」
長期遠征から帰ってくるエンデ先輩に興奮していた私に対し、カタリナは表情を曇らせた。
「聞いたこともない名前の人だったけど……
やっぱり自分たちの学校から死者が出るって悲しいね……」
「…うん、そうだね……」
不謹慎だが……その名前が、見知らぬ人だったことに、ほっと胸を撫で下ろしてしまう。
この学園の魔法学科と魔法騎士科の第四学年には、長期遠征の実地学習がある。
期間は長いもので約一年。その年によって、実施内容も期間も異なる。
この実習への参加は本来任意で、命に危険が及ぶこともあるため、誓約書まで書かされる。
しかし、参加すればその後の就職に非常に有利になるため、毎年ほぼ全員が挑んでいた。
エンデ先輩たちが第四学年になった昨年、ローズ王国と国境を隔てた蛮国、ガラナ国との間で戦争状態が発生した。
ローズ王国は周辺諸国と小競り合いが絶えない軍事国家でもある。
これまでも、学園の第四学年の生徒は学生でありながら幾度となく、長期遠征授業で戦争に駆り出されてきた。
エンデ先輩たちの学年の実地学習も、例外なく戦地が選ばれてしまった。
なぜ学生を戦地に送るのか――それは、この世界で魔法使いの数が圧倒的に少ないことが関係している。
魔法は戦争において非常に有利であり、部隊に魔法使いがどれだけいるかが勝利の鍵となる。
軍部は少しでも多くの魔法使いを確保したいため、学園に遠征の要請が度々持ちかけられるのだ。
もちろん、学生たちは戦況の最前線に立つわけではない。あくまで軍のサポートが彼らの任務である。
今回も第四学年の魔法科と魔法騎士科の生徒は、王国軍と共に戦地へ赴くことになった。
しかし――当初、すぐに終結すると見込まれていた小競り合いは、ガラナ国の粘りにより予想以上に長引いた。
半年の予定で派遣されていた学生たちは、気づけば停戦協定が結ばれるまで、丸一年もの間、戦地で過ごすことになってしまった。
その停戦協定が結ばれたのが、ひと月前のことだった。
学生たちは部隊から解放され、戦地からの帰還とともに、ひと月の休暇が与えられた。
そして明日――ついに休暇を終え、新第五学年として学園に復帰するのだ。
私が高等部の第一学年になったばかりのとき、彼らはまだ実地実習の最中だった。
そのため、高等部の校舎でエンデ先輩の姿を見たことはない。
彼が私のことを覚えてくれているかはわからない。
けれども、再会したら、魔法学科の後輩として挨拶に行くのだ。
――あの時、あなたの魔法を見て、こうして魔法学科に入りました、と。
◇
――けれども。
「ああん? 誰だ、てめぇ……」
「……!?」
久々に会ったあなたは、一体どうしてしまったというのでしょうか?




