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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第一章 出会い編

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2.憧れの先輩との思い出の出会いを回想します。

私の憧れの人――ダリオ・エンデ先輩。


彼を初めて知ったのは、およそ二年前。

私がまだ中等部の二年生だった頃まで遡る。





「うわ、めっちゃ時間あるじゃん。えー……どうしよ……」


今日は進路を伝えなきゃいけない先生との面談の日。


それなのに、担当の先生にトラブルが起きたとかで、面談開始までかなり時間が空いてしまった。

友達はみんなはすでに下校していて、お喋りで時間を潰すなんてこともできない。


待ち時間の長さと退屈さに思わずため息をつき、窓の外に目をやった。

視界の隅に入ってきたのは、まさにこれから進路相談をする先の、高等部の校舎。


(いったん寮に帰ることもできるけど――)


「よし」と勢いよく席を立つ。


(散歩でもして、時間を潰そう!)


高等部は森の向こう側。

それなりに距離も離れているから、あそこまで行けばきっといい暇つぶしになるだろう。



――そして、その途中。



森の小道を歩いていると、視界の端に、かすかな光がよぎった。

思わず「ん?」と呟き、その場で足を止める。


濃い魔力の気配に、日の光ではない眩しさを感じ取る。


(いまの、一体何――?)


魔獣だったら厄介だ。

なるべく音を立てないよう、光の見えた方へ、茂みをかき分けながら、ゆっくりと近づいていく。


そして、少し開けた場所に出た途端――


(……わ)



目の前いっぱいに、

これまで見たこともない幻想的な光景が広がった。



インクを水に溶かしたように、赤、青、黄色、緑――色とりどりの炎が溶け合っている。


沈みかけた空が、青からオレンジ、そして赤へと移ろうグラデーションに染まっていた。


魔法を操るその人を覆うローブが風に煽られ、

はらはらと波打つように翻る。



――あまりにも完成された光景。



身体はその場に縫い付けられたように動きを止め、すべてを忘れて、この魔法をずっと見ていたい――

そう思った矢先、不意に全ての炎が止んだ。


それと同時に、ローブに隠れた魔法を操っていた人の顔がこちらを振り向き、口を開く。


「……ごめん! 人がいるのに気付かなかった!」


私が魔法の次に目を奪われたのは、慌てて駆け寄ってきた、その人だった。


自分より年上と思われる彼は、短めの混じりっけのない黒髪に、真っ赤な瞳をしていて――

ひどく整った顔立ちをしていた。


心配が滲む彼の瞳と、私の視線がかち合う。


(炎の魔法みたいな色――)


さっきまで風にはためいていたローブは、中等部のベージュとは違って黒い。

そして、袖には三本のラインが走っていた。

おそらく――高等部の第三学年だ。


「大丈夫? 熱かったりしない?」

「あ……はい、大丈夫です。ただ……見とれていただけなので……」

「そう、ならよかった。結界を張ってなかったから……火傷させたかと思った」


彼はほっと息を吐き、張り詰めていた表情をわずかに緩めた。


(この人が、さっきの魔法を操ってた人――)


ぼうっと目の前の彼に見とれていると、彼はその首をわずかに傾けた。


「中等部の子?」

「……は、はい!

中等部第二学年のネモフィラ・フィリアスといいます。

……あの、今のは幻術でしょうか?」


聞かれてもいないのに、思わず名前まで名乗ってしまった。


(あ、まずい、グイグイ行き過ぎたかも……)


言ってから後悔したけれど、彼は特に気にする様子もなく、耳のあたりの髪をくしゃりとかきながら、すぐに私の質問に答えてくれた。


「いや、ただの炎。今度の課題の練習をしてただけだよ」


――ただの炎。


その一言が、胸の奥に深く響いた。


(すごい! 炎の魔法って、攻撃特化だと思ってたけど……

あんなに綺麗なものなの!?)


私は彼の言う"ただの炎"の魔法に、すっかり心を奪われていた。

もっと詳しく話を聞こうとしたところで、彼の視線がふと私の手元に向いた。


「君が手に持ってる紙、それって進路希望表?」

「え、あ、はい、そうです」


自分の手に目をやると、面談の際に提出する紙がぐしゃっと握り潰されていた。

……ずっと持ったままだったことを、すっかり忘れていたらしい。


「どこの学科希望なの?」

「えっと……実はまだ決めていなくて。このあと面談で、先生に相談しようと思っていたんです」

「そうなんだ」


彼はなんとなく聞いただけ、といった様子で、それ以上の興味を示すことはなかった。


(……まずい、会話が終わっちゃう)


謎の焦燥感に後押しされ、私は彼を引き留めるべく、咄嗟に適当な質問を投げかけた。


「あ、あの! 先輩はどこの所属なんですか?」


すると、彼の表情が「おや」といったものに変わる。


「ん? 俺? 魔法学科だよ」

「ま、魔法学科――」


それは、これまで自分の進路希望にかすりもしなかった学科名だった。

だって、実技メインだし、入るのもめちゃくちゃ難しく、入ってからも厳しいと聞いていたから。


それなのに――


(魔法学科……頑張ったら、私でも入れるかな?)


さっきまでどこの学科に進むか、先生に相談しようなんて思っていたのに、そんな考えはスコーンと私の頭の中から消え失せていた。


そして……気がつけば、私は彼にこう宣言していた。


「私、魔法学科に行きます!

先輩みたいに、さっきの綺麗な炎の魔法を使えるようになりたいから!」


前のめりに言った私に、彼は一瞬目を丸くしたあと、


「そっか。じゃあ、魔法学科で待ってるよ。ネモ」


そう言って、優しく笑った。


(笑った……)


その表情は、私が一瞬で心を奪われた彼の魔法と同じくらいに尊いものに見え――

さっきと違う感じで、胸がどくんと震えた気がした。



ただ、このときの私はまだ知らない。


この先――この人が壊れてしまうことも、

そしてその後、彼が私の前から消えてしまうことさえも――。



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