表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第二章 彼の事情編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/73

19.念願だった異学年交流授業を受けます。(3)

その後――

まさかまさかで、私とラース先輩のペアは、Aグループを見事に勝ち抜いてしまった。


「やっぱラース先輩すげぇっ!」


試合を見ていた生徒たちが、口々にラース先輩を称賛する。


(うん、わかる。本当にすごい人だと思う)


彼は、私の力量や特性を正確に把握している。

そのうえで、自分の指示が私にできるかどうかを確認する。


できないと判断すれば、即座に別の手を提示する。

相手の特性を見極めながら、攻守を的確に指示していく。


まるで――盤面のすべてを見通しているみたいに。


よく、戦場では優れた軍師ひとりで戦況が覆るというけれど、まさにその通りだ。


先輩のおかげで、私というへっぽこな見習い兵は、まるで曹長クラスにまで引き上げられている。


「ネモ、やったね。グループ優勝だ。バテてない?」


「はい、大丈夫です。

毎日の課題をひたすらこなしているときのほうが、よっぽど疲れてます」


言ったことは強がりなんかではなく、魔力にもまだ余裕がある。

もしかしたら、日々クロを出しっぱなしにしていたことで、知らないうちに鍛えられていたのかもしれない。


「いいね。じゃあ、次の最終決戦は出し切って。

予想ではきっと――あのペアが残ってるはずだから」


(あのペア?)


「それって――」


誰ですか、と続けようとしたそのとき、Bグループの面々が魔法騎士科の演習室からぞろぞろと戻ってきた。


「全員揃ったら、Aグループの勝者とBグループの勝者で対戦し、今回の優勝者を決める。

他の者は着席し、両者の戦い方をよく見ておくように」


(うわ……みんなに見られるのか。ちょっと、いや……だいぶ緊張してきたかも)


意識するほどに、身体がこわばっていく。


「ネモ」


ラース先輩が、穏やかな声で呼びかけてきた。


「もしかして、緊張してる?」


やっぱり、この人は全部お見通しだ。


「はい……。人に見られるの、慣れてなくて……ドキドキしてきました」


「そっか。じゃあ――リラックスしようか。

最近、“落ち着くな”とか、“癒やされるな”って思ったこと、ある?」


「最近……」


ふと浮かんだのは――


クロと、エンデ先輩と過ごした放課後。


森の中。

クロが楽しそうにじゃれて、先輩がそれに付き合っていて。

私はその隣で課題を片付けて。


先輩もそのときはすぐに帰ろうとはせず、二人と一匹で、ただ穏やかな時間を過ごしていた。


あのときの――温かい空気。


「そのときのことを思い出してみて。少しは楽にならない?」


「あ……確かに」


徐々に身体のこわばりがすっと引いていく。

完全になくなったわけではないけど、さっきより不安はマシになっていた。


(うん……大丈夫。もし緊張したら、クロのモフモフを思い出そう。

終わったら、絶対モフモフする……!)


「大丈夫です、大分落ち着いてきました」


「よし。それじゃあもう一つ。ネモって、足は速いほう?」

「? 足ですか? 普通だと思いますけど……」


「反射神経は?」

「うーん……意識したことはないですけど、クロに飛びかかられても咄嗟に避けられるので、悪くはないと思います」

「了解」


ラース先輩は、どこか楽しそうに頷いた。


「次は、少し身体を使うよ。準備運動しておいて」

「え……はい、わかりました」


正直、何が起こるのかはまったくわからない。


それでも先輩に言われた通り、その場で屈伸し、腕や足を伸ばしていく。


(あー、気持ちいい……。いつの間に、こんなに身体が固まってたんだろ)


全身をほぐしながら、両グループが観覧席に落ち着くのを待つ。


ざわざわとした空気の中、あちこちから声が聞こえてきた。


「え、Aグループってネモのとこが残ってんの!?」

「そっちは? Bグループは?」


(でしょう、そうでしょう。私だって、勝ち残るとは思ってなかったし)


中央に立っているのは、ラース先輩と私の二人だけ。

Bグループのペアは、まだ姿を見せていない。


「遅いですね」と口にしかけた、そのとき。


二人が、こちらへ歩いてきた。


「遅かったな、ダリオ」


「そんな遅くないだろ。作戦会議してたんだよ」


ラース先輩が声をかけた相手は、

やっぱり、エンデ先輩。


(……)


――あの週末以来、まだ言葉を交わしていない。


授業前に、せめて挨拶くらいはと思っていたけれど、声をかける勇気が出ず、ペアもグループも分かれてしまってそれきりだった。


気づけば、じっと見つめてしまっていたらしい。

ふいに、先輩がこちらを振り向く。

真っ赤な瞳と、視線がぶつかった。


「よお」


「……お、おはようございます……」


先輩の方から声をかけられ、一瞬言葉に詰まってしまった。

戦うことより、先輩と話すほうが、今はよほど緊張するかもしれない。

思わず、視線を足元へ落とした。


「いやー、まさかネモが勝ち残ってるとは思ってなかったよ」


のんびりとした声で話しかけてきたのは、エンデ先輩の隣にいたユリシス・ノルティマットだ。


成績は、私といつも下から競っている仲。


「私のほうこそ、最終決戦でユリシスと当たるなんて思ってなかったよ」


なにせ、ポンコツ同士。


魔法実践学では、私は序盤で躓き、ユリシスは発動はするけど、だいたい何かをやらかす。


「今日も私たちはポンコツだー」なんて言い合うのが、いつもの流れだった。


「お互いに、今日で少しはポンコツ卒業かな?」

「だといいね」


二人、くすくすと笑い合う。


――と。


隣から、じっと視線を感じた。

ラース先輩が、どこか生ぬるい目でこちらを見ている。


「どうかしました?」

「いや、別に。甘酸っぱいなって思っただけ」

「??」


「よし、両チームが揃った。始めるぞ!」


先生の大きな声が、演習室に響き渡る。

その瞬間、ざわめいていた空気が一気に張り詰めたものに変わった。


中央に立つ私たちは、同時に姿勢を正す。


「これが最終決戦だ。試合時間は五分、ルールも同じ。魔法球を先に割ったほうが勝ち――それでは」


ごくり、と唾を飲み込む。


「試合開始!」


(始まった……!)


『ネモ、最初のときと違って、魔法結界と物理結界の両方を張って。それから向こうの出方をみよう』


ラース先輩の言葉に、頷きを返しながら、二つの結界を展開する。

さっき『出し切って』と言ってたので、出し惜しみはしない。

強度を思いっきり分厚くし、構築する。


一方で、相手は――


「補助魔法の"強化"を展開しろ。ゆっくり、身体を包み込むイメージだ。拳は固く、なんでも砕けるように」


「はい!」


「――そうきたか」


声を低くしたラース先輩に、思わず彼の方を仰ぎ見た。


「……ちょっと不味いね」


今日初めて、ラース先輩の口から焦りが漏れた。


ユリシスが拳を握りしめ、こちらを真っ直ぐ見据える。


(身体強化? エンデ先輩、まさかユリシスに肉弾戦やらせるつもり!?)


――そのまさかだった。


「全力でいけ!」


「はい!」


ユリシスが一直線にこちらへ踏み込んでくる。


身体強化された拳が、大きく振りかぶられ――


『避けて!』


反射的に横へ飛んだ。


――直後。


ドンッ!!


鈍い衝撃が、結界越しに伝わってくる。


わずかに避けきれず、拳が結界の端をかすめた。

途端、結界の膜にビシッと一筋のヒビが入る。


「っ!」


室内が「おおー!」と一気にざわめいた。


「嘘でしょっ!?」


自分では、かなりの強度で結界を張ったつもりだったのに。

まさか物理的に壊しにかかってきて、ヒビを入れられるなんて。


(でも、身体への物理攻撃は禁止って言ってたから、結界を壊すためだけに殴りかかってきてるんだよね? まさか私をそのまま殴ったりなんかしないよね!?)


恐しさから、心臓がバクバクと音を立てている。


『ネモ、落ち着いて。重ね掛けで結界を再構築して。それから、相手が壊そうとしている間に、同時に結界内で土属性の“成長促進”の発動準備を』


「はい!」


だが、結界の再構築に意識を割き、足を止めた瞬間――

ユリシスの拳が、容赦なく突き込まれてくる。


ガン、ガン、と鈍い音が響く。


まだ耐えられると分かっている。

けれども、結界越しにちらっと見える血走った彼の表情と、常軌を逸した拳の頑丈さが怖すぎた。


(ひー! 待って待って、ユリシスが怖い! いつものゆるふわはどこいった!?)


避けたい。

けれど、走りながら魔法を展開するほどの器用さは、私にはない。


再構築の最中も、バキ、バキ、と嫌な音を立てて、ユリシスの拳が結界を打ち据える。


このまま結界が壊され、物理的にバキッとやられたら……

想像しただけで、肝が冷えた。


それでも、なんとか再構築が間に合う。

ヒビの入った結界の外側に、新たな膜が重なる。


「怯むな、そのまま全力でいけ!」

「はい!」


エンデ先輩たちは、とにかく結界を壊すつもりらしい。


焦りを押し込みながら、私は土魔法の展開準備に入る。


『ネモ、落ち着いて。結界が壊されたら、すぐに土魔法を相手の足元に放って。思いっきりでいいよ。どうせ身体強化してるし。相手をすっ転ばせるイメージね』


「はい!」


バキッ。

ビシッ。


ラース先輩とのやり取りの最中、外側の結界に衝撃が走り、大きなヒビが入った。


「いけぇっ!!!!」


ユリシスの気合いのこもった声とともに、両手を握り合わせた拳が、ドガン、と結界へ振り下ろされる。


バキッ、バキバキバキバキ……!


(げぇっ! 外側も内側も割れた!)


『ネモ! いまだ!』


ラース先輩の掛け声と同時に、全力で土魔法を放つ。

ユリシスの足元へ、狙いを定めて――


「へ」



ぴょん。



いとも簡単に、避けられた。


(うそでしょーっっ!?)


ジャンプしたユリシスの身体が、スローモーションのように見える。

彼は腕を横へ流し――


私の帽子の上に浮かぶ魔法球めがけ、身体を大きくひねって――特大のビンタを叩き込んだ。

思わず、目を瞑る。


バリンッ!


何かが割れる音が響いた。


ユリシスがぶつかる直前、私は身体を逸らして横へ避ける。

彼はそのまま、地面へびたん、と勢いよく倒れ込んだ。


あれほど熱気に包まれていた室内が、いつの間にか、しんと静まり返っている。


エンデ先輩がユリシスのもとへゆっくりと歩み寄り、腕を取って立たせる。

そして――


「勝者、エンデ、ノルティマットペア――!」


先生の声が、室内に大きく響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ