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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第二章 彼の事情編

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18.念願だった異学年交流授業を受けます。(2)

翌日。


朝から魔法学科の第一学年と第五学年が、魔法塔の演習室に大集合していた。


一学年二十四、五人と少人数ながら、室内はなかなかの密集具合だ。


一年生はみんなどこか緊張した様子で小声で喋っており、対して五年生は普段の様子といった具合で授業の開始を待っていた。


そんな中、一人キョロキョロと周囲を見渡す。


(……あ、いた!)


視界に捉えたのはもちろん――


端の壁にもたれかかって欠伸をしている、エンデ先輩。


鋭い眼光は影を潜め、眠そうな顔をしながらラース先輩と一緒に何か喋っている。


(こっち向いてくれないかな)


二人とも知った顔だけど、同級生や先輩がいる中、話かけに行く勇気はない。


向こうから私に気付いてくれる……なんていう淡い期待を胸に、視線をそれとなく送ってみるも、二人とも真面目に話し込んでいて一向に視線が合う気配はない。


そのうち、先生が教室に入ってきて、口を開いた瞬間――ざわめきがぴたりと静まり返った。


「みんな、おはよう。今日は第一学年と第五学年、初めての異学年交流授業だ。

第五学年は全員、戦地から帰還した精鋭たち。対して第一学年は、入学して間もないひよっ子だ。

一年は先輩の指示に従い、第五学年は一年を適切に誘導するように」


「はいっ!」


第五学年は、寸分の乱れもなく声を揃え、鋭く返事をした。


その声に、第一学年である私たちは思わず息を呑む。


(これが……戦場を経験した第五学年……)


彼らは一年に及ぶ遠征から、一月前に帰還したばかりだ。

そのせいか、身体つきにはまだ軍の名残があった。


無駄な脂肪のない、引き締まった体。

まっすぐに先生を見据える視線は、鋭く、揺るがない。


対して――


第一学年は、中等部から上がってきたばかりの、ひょろりとした体つきの者ばかりで。

顔立ちも幼く、どこか落ち着きがない。


(たった四歳差で、こんなにも違うものなの……?)


そう思わずにはいられないほど、そこには明確な隔たりがあった。

まるで、大人と子供のような。


「今回の授業では、第五学年の指示のもと、第一学年が基本魔法を用いて模擬戦闘を行う。

使用できるのは、この二ヶ月で習得した魔法のみ。身体接触は禁止、独学で習得した魔法の使用も認めない。

第五学年には、あらかじめペアの使用可能な魔法を伝えてある。くれぐれも無茶な指示は出さず、各自の力量を見極めるように」


「対戦グループは二つに分けてある。Aグループはこのまま残り、Bグループは魔法騎士科の塔の演習室へ移動しろ」


「はいっ!」


今度は第一学年も、息を揃えて大きく返事をした。


Bグループの面々が、ペア同士で挨拶を交わしながら、ぞろぞろと演習室を後にする。

残されたAグループも、それぞれのペアを探して、室内がざわつき始めた。


後ろから声をかけられ、振り向く。


そこには、にこやかな笑みを浮かべたラース先輩が立っていた。


――今日も今日とて、めちゃくちゃ胡散臭い。


「おはようございます、ラース先輩。本日はよろしくお願いします」


「うん、よろしく。今日は一日……俺の手足になってもらうよ」


「はは……」


口から、乾いた声が漏れた。

この人が言うと、まったく冗談に聞こえない。


「それにしても、残念だったね。ペア。ダリオと一緒がよかったんでしょ?」


「いいえ、ラース先輩にご指導いただけるなら、とってもありがたいデス」


「まるで、あらかじめ用意してたセリフを読んでるみたいだね」


薄く目を細め、面白そうにこちらを見るラース先輩。


鋭い。バレた。

絶対に言われると思って、事前に返答を用意していたのだ。


「ま、いいけど」


「それじゃあ、最初の対戦者たちの様子を、あっちで見ておこうか。

その間に作戦会議をしよう」


「わかりました」


唐突に真面目なトーンへ切り替えたラース先輩の後を追い、円状に壁際を囲むベンチの一角に腰を下ろす。


いつの間にか、中央の演習場には最初の対戦チーム、二組だけが残っていた。


それ以外の生徒は、それぞれペアでベンチに座り雑談をしたり、

会話が弾まないのか、黙って対戦を眺めていたりと様々だ。


(あ……エンデ先輩はBグループか。キアラもいないや)


「ネモ、見て。これが対戦表。俺たちの対戦相手は――ここ。

それから、こっちが君の使える魔法一覧」


ラース先輩は紙を指で示しながら続ける。


「見た感じ、地属性が得意そうだけど。合ってる?」


慌てて意識を引き戻す。


「はい、合ってます! 対戦相手は……あー、ドレイクか」

「ドレイク君は、何が得意かわかる?」

「はい。オールマイティの魔法バカです」


ドレイクはクラスでも有名な“魔法バカ二人組”の一人で、休み時間になると新しい魔法の話ばかりしている。

教室で実演しては、先生に怒られるのも日常茶飯事だ。


ちなみに――エンデ先輩やラース先輩の崇拝者でもある。


「オールマイティか……それは厄介だね。ネモは、防御と攻撃、どっちが得意?」

「うーん、どっちも微妙ですけど……強いて言うなら、防御かな」

「了解。俺のペアなんだから――絶対に一位を獲ろうね」

「ぜ、善処します……」


そうとしか言えない。

いくらチート先輩がついていても、実際に魔法を使うのは、へっぽこな私だ。


作戦だけは立派で、実力が伴わない。

そんな見本になりそうな予感が、ひしひしとしていた。


「次、ラース・フィリアスペア、クーゲル・ドレイクペア、前に!」


そうこうしているうちに、私たちの番が回ってきた。

緊張しながら中央へと足を進める。


隣にラース先輩が並び、正面にはドレイクとクーゲル先輩。


私とドレイクは、先生から渡された魔法球付きの帽子を被る。


「試合時間は五分。その間に、帽子についている相手の魔法球を割ったほうが勝ち。

両者とも割れなければ敗退。質問は?」


「ありません」


ルールは簡単。

とにかく――割ればいい。


「万が一怪我をしても、救護班が待機している。遠慮せずやれ。……それでは――試合開始!」


その瞬間。


『よし、ネモ。まず結界を張って。範囲は自分だけでいい。魔力を温存したいから、壊されない程度に薄めで。できる?』


「ふぇ!?」


思わず声が漏れ、慌ててラース先輩を見る。


パチン、とウインクが返ってきた。


(まさかの……念話――!?)


口で指示を出せば動きが読まれる。

だから、頭の中に直接指示を飛ばしてきたらしい。


(――いや、そんな魔法、聞いたことないんだけど)


さすがチート先輩。

……深く考えないようにしよう。


いきなり動揺してしまったが、ふうっと息を吐いて気持ちを落ち着ける。


言われた通り、薄く、自分の周囲だけに結界を張る。


……でも。


(結界なんて張ったら、攻撃できないのに――どうするんだろう?)


「ドレイク、火属性で一番威力の高い魔法を。結界を壊せ」


「はいっ!」


クーゲル先輩の短い指示に、ドレイクは即座に応じた。


放たれた魔法が、勢いよくこちらへ叩きつけられる。


その衝撃に、思わず目を閉じた。


――けれど。


……何も、起きない。


恐る恐る目を開ける。

結界には、ヒビひとつ入っていなかった。


(あ、あれ……無事?)


“薄めに”張ったはずなのに、一発で壊れる気配すらない。


『やっぱりね。オールマイティっていうより……器用貧乏タイプだ。

魔力の気配が弱い。

ネモの結界のほうが防御力は上。あと四分、このまま粘るよ』


(ええと、魔力の気配が弱いっていうのは、一発の威力は弱いってこと?)


でも――気を抜いたらダメだ。


課題と同じ。ほんの一瞬の油断が、失敗につながる。


――エンデ先輩に鍛えられた時間が、こんなところで活きるなんて。


ドレイクは焦ったように、次々と魔法を撃ち込んでくる。


けれど――

結界は、びくともしなかった。


そろそろ三分が経つ。

このままだと時間切れだ。


そのとき、ラース先輩から新たな指示が飛ぶ。


『そろそろ結界を解こうか。それで――なんでもいい。魔法球を貫ける魔法、できる?

わからないなら首を横に。できそうなら、縦に』


ゆっくりと、先輩に伝わるように首を縦に振る。


この前使った炎の魔法。

あれなら、一直線に魔法球を狙える。


――威力のコントロールは難しいけど。


イメージは、矢。

細く、強く。

魔法球の強度を突き抜けて、割る。


『よし。向こうの攻撃が一瞬ゆるんだら合図する。その瞬間に、一気にいこう』


小さく、もう一度頷く。


タイミングを間違えれば、逆に攻撃を受ける。

緊張で、額に汗がにじんだ。


――そして。


『いまだ!』


声と同時に結界を解く。


間髪入れず、炎魔法を展開。


突然の変化に、相手が一瞬、動きを止めた。

クーゲル先輩の指示を待つドレイクに――隙が生まれる。


(行け――!)


一直線に放たれた炎が、


魔法球を――


パリンッ!


「そこまで!」


先生の声が、演習場に響く。


私もドレイクも、その声に応じて構えていた腕を下ろし、その場で動きを止めた。


「勝者、ラース・フィリアスチーム!」


ぱっと、周囲から拍手が湧き起こる。


互いに向かい合い、軽く一礼した。


「まさか、ネモに負けるとは思ってなかったわー」


ドレイクが短い髪をぼりぼりとかきながら、悔しさというより、心底意外そうに言った。


「私も、まさか勝てるとは思ってなかったよ。

……ラース先輩のおかげです。ありがとうございました」


ラース先輩に向き直り、頭を下げる。


「いやいや。俺の指示を、ちゃんと実行できる実力がネモにあるんだよ。誇っていい」


「いえ……そんな。結界、張ってただけですし……」


「その張ってただけの結界がすごいんだって」


ラース先輩は、小さく笑った。


「やっぱり、フェンリルに認められるだけはある。……鍛え甲斐があるよねー」


「お、恐れ入ります……」


あまり褒められ慣れていないせいで、どう返していいかわからず、妙な返事になってしまう。


――と、そのとき。


「ラース」


(ヨシュア先生――?)


先生が眉を寄せながら、ラース先輩を呼んだ。

その空気に、胸がざわつく。


「さっき、まったく指示を出していなかったな。フィリアスに対して、何か補助魔法を使ったんじゃないだろうな?」


「まさか。第五学年は第一学年への補助魔法、ならびに手助けとなる魔法の使用は禁止ですよね?

俺が使ったのは、相手に指示が聞こえないよう、直接脳内に言葉を伝える“念話”です。補助魔法とは別枠のものなので、ルール違反ではないはずですが」


しれっと言い切るラース先輩に、思わず息を呑む。


もし――これで失格になったら。


不安なままヨシュア先生の答えを待つ。

そして、先生は少し考えた素振りを見せたあと、小さく頷きを返した。


「……ラースの言う通りだ。ルール違反ではない。

だが、その魔法には興味がある。今日の授業終わり、私のところへ来なさい」


「はい、了解です」


――はあ。


張り詰めていた緊張が、一気に抜けた。


どうやらルールの範囲内でいいようだ。


(よかった……

というか、さっきの、先生ですら知らない魔法だったんだ……)


ラース先輩はチート先輩の名に恥じないチートだということを、改めて理解した。


魔法バカのドレイクは「念話の魔法って何ですか!?」とすっかり興奮してしまい、ペアのクーゲル先輩そっちのけでラース先輩に絡みにいっている。


(……相変わらずだなぁ)


こうして、私とラース先輩のペアは、無事、初戦を勝ち抜いたのだった。


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