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再会した先輩は心が壊れていました。~執着が止まらないなんて聞いてません~  作者: piyo
第二章 彼の事情編

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17.念願だった異学年交流授業を受けます。(1)

(――今日が休日でよかった)


昨日、結局寮に着くまで、先輩と手を繋いで歩いた。


こんなときに限ってクロもおとなしく、私もどうしたらいいかわからなくて、ずっと無言のままだった。

先輩も特に口を開くことはなく、寮の前に着いたときに「おやすみ」と一言だけ告げて、男子寮へと去っていった。


「なんだったんだろ、あれ」


ベッドにゴロンと寝転がりながら、独りつぶやきを漏らす。


ふと、手のひらを見る。

先輩の体温、手のひらの感触、大きさ、握られている強さ――

まだ、ちゃんと覚えていたし、思い出したら心の中がざわめいた。


「おやおや、悩みごとかい~?」


独り言を聞いたらしいカタリナが、二段ベッドの上から、ひょっこりと顔を覗かせる。


「ねえ、カタリナ。急に異性と手を繋ぐ、その心理ってなんだと思う?」

「へ!? ちょ、朝から何を悩んでるのかと思ったら……」


昨日の夜はカタリナとお互いにタイミングが合わず、話をすることもなく寝てしまった。


(消化不良のままだったから、ちょうどいいや)


朝っぱらから申し訳ないけど、これ幸いと相談に乗ってもらうことにした。


カタリナはよいしょと梯子を降りて、私のベッドの縁に腰かける。


「私、そういう経験ゼロだからなぁ。寮の先輩の誰かに聞いてみる?」

「そんなことしたら最後、根掘り葉掘り聞かれて丸裸にされたあげく、噂が一人歩きしちゃうよ」

「だね」


女子寮の先輩は中等部からの持ち上がりも多く、まるで本当のお姉さんのような関係を築いている。


……だからこそ、遠慮がない。


間違いなく誰かを特定されるだろうし、そこからガンガン詰問が始まる。人が群がる中で洗いざらい話さないといけなくなるのは、さながら公開処刑だ。

――学習面や友人関係の悩み相談ならまだしも、彼女たちに恋バナをするべきじゃない。


「じゃあ、参考になるかわからないけど、私の意見でも聞く?」

「ぜひお願いします!」


この際、なんでもいい。

客観的な意見が欲しかった。姿勢を正し、カタリナの話に耳を傾ける。


「まずね、私が異性と手を繋ぐのは、恋人か、それかちょっとでもいいなぁって思う人だけ!

それ以外の男子なら、まあ子供はOKかな。でも、ある程度の年齢以上だと、命の危険でもない限り無理~。

許せてフォークダンスとか、どうしても必要なときくらい?」


「な、なるほど……命の危険か。確かに、手を繋がないと崖から落ちるとかなら、迷わず繋ぐもんね……」


「でしょ? ……まあ、ネモが誰のこと言ってるか、だいたいわかってるけどさ。

ネモから繋いでみたの?」


「それが……向こうから。だからこそ、よくわかんなくて」


「へ!? うそ、マジ!?

ネモとエンデ先輩って、そんなに進んでたの!?」


せっかく名前を伏せていたのに、あっさり言い当てられてしまった。


「いやいや、そんなわけじゃないから、よくわかんないんだよ」

「そんなわけじゃないって、それはネモがそう思ってるだけじゃないの?」

「ううん、だって――会うときはいつも、先輩がクロをモフモフして、私は隣で課題やっててって感じで。

そこにラブなんて、一切なかったのに」


一度溜めて、続きを話す。


「昨日の帰りさ……私遅かったじゃん?

あれ、ちょっとしたアクシデントで日が暮れちゃったんだけど……その帰り道に、何も言わずに手を繋がれて。

でも、会話は一切なし。わけわかんないでしょ?」


全部言うつもりはなかったのに、結局話してしまった。

だって、そうでもしないと、この戸惑いを説明できそうにない。


本当に――前触れがなかったからこそ、余計に困惑しているのだから。


「ううん……それまでの温度とか雰囲気がわかんないから、なんとも言えないけど……。

でも間違いなく、ネモに心は許してると思っていいんじゃない?」

「え。そう、なのかな」

「うん。だってネモも嫌じゃなかったんでしょ?」

「それは……そうだね。なんか、どうしていいかわからなかったし……。

……とにかく、ドキドキした」


異性と手を繋ぐなんて、これまであったっけ。

小さい頃に親兄弟と繋いだことはあるかもしれないけど――家族はノーカウントだろう。


「いいね……甘酸っぱい~! 私もトキメキ欲しい! 魔法薬科にラブはない!」

「いや、魔法薬科にもあるでしょ。それに、別に同じ学科じゃなくてもいいじゃん」

「出会いが皆無なんだよ~。魔法学科にガールフレンド募集してる子、いない?」

「私が言うのもなんだけど、魔法学科の子はやめた方がいいよ。

常に課題に追われてるし、週末も出かけられないこと多いし……魔法バカが多いし」

「あ、それはちょっと無理かも……たぶん、話合わないや」

「でしょ?」


グダグダと午前中を過ごし、午後は課題や予習、復習。

翌日の休みも同じように過ごして――なんの変哲もない休日が終わっていった。



「今週、というか明日だな。

第五学年との異学年交流授業を実施する。

今からペアを発表するから、ちゃんと先輩の名前を覚えておくように」


週明け、魔法実践学の授業で、ヨシュア先生から唐突に告げられた。

先輩たち第五学年は先週の時点で知らされていたというのに、あまりにも急すぎる。


「ネモのペア、エンデ先輩だったらいいね」


キアラが後ろを振り向き、小声でささやく。


「うん……そうだったらいいなぁ」


ペアだったら、飛び上がるくらい嬉しい。だって、二年越しの夢が叶うんだから。


しかも、次にヨシュア先生が続けた言葉に、胸の鼓動が一気に速くなる。


「ペアは成績のバランスを見て、こちらで決めた。落ちこぼれ同士が組むことはないから安心したまえ」


なかなかに辛辣な言葉に、教室中がどっとざわめく。


「俺は優秀だから、先輩を引っ張ってやらねぇとだぜ!」

「いや、いくら成績悪くても、第五学年だぞ?

俺はグイグイ来てくれる先輩がいいなぁ」


みんな誰と組むのか想像して、興奮気味に話し合っている。


(これは……エンデ先輩とのペア、あるな)


なにせ、落ちこぼれ代表の私と、優秀と名高いエンデ先輩だ。

救済措置として考えれば、組まされる可能性は高い。


先生が、次々に名前を呼んでいく。


そして――


「ネモフィラ・フィリアス」


「はい!」


元気よく返事をする。緊張のし過ぎで、心臓が飛び出そうだ。


先生の口から告げられた名前は――


「シャノン・ラース」


……ゴツン。


予想外すぎる名前に、私は机に思い切り頭をぶつけた。


「マジか! おまえ、チート先輩とペア!? うらやましい~」

「ネモ、今年の運、全部使い果たしたんじゃね?」


「よかったな」と次々に声をかけられるけれど、私としてはガッカリのほうが大きい。


(ああ、忘れてた……。

空間転移を使う、わけのわからないチート――ラース先輩という伏兵がいたことを……)


ちなみに、エンデ先輩は私と同じくらい成績がよろしくないクラスメートとペアになっていた。


なんとも羨ましい。


「残念だったね」

「言わないで。地味に凹んでるから」


期待していた分、がっかりが胸に重くのしかかる。


(ああ、エンデ先輩。ペア、組めませんでした――)


先輩は、私とペアになんて、最初から望んでいなかっただろうけれど。


「明日の授業は、第五学年は指示を明確に出すこと、第一学年はそれを的確にこなすことが目的だ。

たとえ先輩の指示が拙くても、逆らわず忠実に実行しなさい。できれば加点を与える」


さすが魔法実践学の授業だ。

軍に入ったときのシミュレーションも兼ねているのだろう。


(私、ラース先輩の指示なんて、ちゃんとこなせるのかな……突飛なこと言われてあたふたしちゃいそう……)


「はぁ……」


思わずため息がこぼれ、窓の外をぼんやりと見つめる。


(今日は、先輩……クロに会いに来るかな……)


先週のことは少し気まずい気もしたけど、ペアになれなかった残念な気持ちは、やっぱり伝えたかった。


――だけど。


私のささやかな期待もむなしく、その日、エンデ先輩からの呼び出しはなかった。



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