第88話 え, パパが勇者!? 掘った温泉が国家の戦略資源に指定!? 趣味の穴掘りが伯爵様を動かす国際問題に発展した落差ー!?
村の入り口に、数騎の騎兵を従えた、磨き上げられた黒塗りの馬車が止まった。
昨日までの商人の馬車とは違う。
それは「富」ではなく、「権力」の象徴だった。
馬車から降り立ったのは、鋭い知性を宿した瞳を持つ男、クラウス・ヴァルハイム伯爵。
彼は村の素朴な景色を一瞥し、塵ひとつ付いていない手袋を直しながら、集会所へと歩を進めた。
集会所には、再び村人たちが集められていた。
だが、昨日のような熱を帯びた議論はない。
部屋を支配しているのは、クラウス伯爵が放つ、氷のような静寂だった。
クラウス「突然の訪問を許してほしい」
穏やかな声。
村長が前に出る。
村長「王都の伯爵様が、こんな小さな村に」
クラウス「小さな村でも、価値ある場所はある。温泉という稀少な資源。それを、この無防備な村が抱え込もうとしているそうだな」
彼の声は低く、そして驚くほど明快だった。
マーレイ「伯爵様……。わしらはただ、先祖代々のこの静かな暮らしを……」
クラウス「『静かな暮らし』か。それは、他者が手を出さないという前提の上に成り立つ幻想だ。マーレイ村長、君はこの村に押し寄せる欲望から、村人を守り切る術を持っているのか?」
マーレイが言葉に詰まる。クラウス伯爵は容赦なく続けた。
クラウス「価値ある資源は、いずれ必ず奪われる。隣国、あるいは強欲な貴族。彼らが兵を差し向けた時、君たちは『静寂』を盾に戦うつもりか? 資源とは国家が管理してこそ、初めて安全に運用される。それが現実だ」
若者A「王都が守るなら……安全じゃないか?」
若者B「むしろチャンスかもしれない」
年配者たちは黙っている。
壁際でその様子を見守る神崎家。
亮は腕を組み、クラウス伯爵の言葉を静かに噛みしめていた。
あんな「守ってもらえるのは安心だけど……」
みゆ「守られるということは、管理されるということでもあります」
ベアトリス「王都の軍が入れば守りは強くなりますわ。でも……それは村の守りではなく、国家の守りになりますわ」
亮は黙って聞いている。
クラウス伯爵は神崎家を見る。
クラウス「あなた方が、例の旅人か」
亮「ただの温泉好きの家族ですよ」
クラウス「この温泉は奇跡ではない、資源だ」
村人たちが静かに息を飲む。
クラウス「村の自立は尊重する! だが問わせてほしい」
視線が村人に向く。
クラウス「守れるのか?」
短いが重い言葉。
誰もすぐには答えない。
リオは、拳を握りしめてクラウス伯爵を見つめていた。
ルイスの提案は「金」だった。だが、クラウス伯爵の提案は「生存」だ。
リオ「……俺たちが、自分たちで守る力をつけると言ったら?」
クラウス「ほう。若者よ。では問おう。君は、自分の愛する者の命と、この古臭い村の景色の、どちらを先に差し出す覚悟がある?」
その問いは、リオの心の最も柔らかい部分を正確に射抜いた。
亮は、苦しそうに視線を落とすリオの肩に、そっと手を置こうとして――止めた。
これは、彼が乗り越えなければならない壁だと感じたからだ。
亮「……守るって、本当に難しいねぇ」
亮の呟きは、重苦しい沈黙の中に溶けていった。
クラウス「急がなくていいが、長くは待てないぞ。選ぶのは、あなた方だ」
彼が去った後の集会所には、ただ、冷たい風が通り抜けたような虚無感だけが残った。
夜。
亮は、宿屋こもれびの窓から、遠くの街道を見つめていた。
そこには、王都へと急ぐ、一羽の伝書鳥の影。
月は雲に隠れ、村の灯りはひとつ、またひとつと、迷いを抱えたまま消えていった。
こうして――
圧倒的な「正論」という名の暴力が、村の絆を粉々に打ち砕こうとしていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
ついに守るとは何かを問う時!? 村の決断はどうなる!?
「国家の管理か、村の自律か」――究極の選択を前に、亮パパが導き出した答えとは!? 圧倒的な「正論」を突きつける伯爵を前に、一人の若者が未来を掴み取るための大きな決断を下す!
「奪わない強さ」を胸に、村を守るための旅路が今、静かに始まる!
次回、第89話 え、パパが勇者!? 旅立つリオへ贈る家族の合言葉!? 娘たちと見送る『奪わない強さ』への第一歩ー!?
別れは悲しみじゃない。また笑って会うための、希望の門出だ!




