第85話 え、パパが勇者!? 権利放棄したのに国家案件!?温泉まんじゅうを夢見るパパの裏で世界が動き始める落差ー!?
第九章、始まります!
亮が偶然掘り当てたその温泉は、あろうことか国家予算級の価値を持つ「戦略資源」だった!?
無欲すぎるパパが権利をあっさり放り出す裏で、事態は村の自立を揺るがし、王都の貴族までをも動かす国際問題へと発展してしまいます。
近代化の波と、守りたい日常。
「良かれと思って」やったことが招いた過去最大の危機(?)に、神崎家はどう立ち向かうのか。
姉妹の冷静な分析と、新家族ベアトリスの躍動、そしてマイペースすぎるパパの「無自覚な一言」が事態を思わぬ方向へ導く――?
「自分たちで選ぶ未来」を見つめる、ちょっぴりシリアス(?)でやっぱりおかしな新章も、ぜひ楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
始まりは、商業都市グラーディオの酒場だった。
使い古された木の中卓を囲み、顔の赤い旅商人たちが声を潜めて語り合う。
「聞いたか? 怪我が一晩で治る温泉だとよ」
「疲労が消える湯らしいぞ」
「本当なら、とんでもない利益だ」
机を囲む商人たちの視線が、同じ一点に集まる。
「独占できれば莫大な利益だ」
低い声が落ちる。
誰も笑わない。
冗談ではないからだ。
商人の一人が、懐から一枚の報告書を取り出す。
そこには、ミルナ村で提供されている温泉の効能と、それを管理しているという『得体の知れない家族』の噂が記されていた。
欲に聡い彼らの目は、すでにその村を「守るべき故郷」ではなく、「莫大な利益を生む資源」として捉え始めていた。
その噂の波は、王都へと流れ着く。
王城の一角、書類の山に囲まれた執務室で、一人の男が報告書を指で叩いた。
クラウス・ヴァルハイム伯爵。
徹底した合理主義者として知られる彼は、冷徹な瞳を細める。
「……ミルナ村か。放置するには、少々価値が上がりすぎたようだな」
そんな外の世界の騒がしさを、当の神崎家はまだ知らない。
ミルナ村。
湯気がやわらかく立ちのぼり、山の空気と混ざり合う。
だが、広場の空気はどこか落ち着かない。
亮「おお、今日も人が多いなぁ。賑やかだね」
あんな「……ちょっと、急にお客さん増えたね」
みゆ「流れが変わっています」
ベアトリス「賑やかなことは良いことですわ」
亮「お猿さんがいなくなって安心したからだよ」
あんな「パパ! のん気なこと言ってる場合じゃないよ。これ、絶対に面倒なことに繋がる流れなんだから!」
みゆ「原因は明確。温泉の効能が広まったため」
亮「どちらにしても、俺らには関係ない話だよ。温泉の権利を拒否しているのだからね。温泉でスローライフだよ!」
あんな「スローライフ?」
みゆ「……現在の状況下において、その概念の維持は論理的に不可能」
もっふる「ピィー!」
村の入口には荷馬車が並び、見慣れない顔が増えている。
宿の前では、順番待ちの列ができていた。
年配の村人が笑う。
年配者A「ありがたいことだ。村が潤うぞ」
若者A「もっと広げられるだろ!」
若者B「宿を増やせば王都からも来る!」
その輪から少し離れた場所で、村の青年リオが広場を眺めている。
リオ「……ここ最近で倍か。これからどうなっていくのだろう?いや、どうしていくべきかだな」
誰にも聞こえない声。
リオは空を見上げる。
湯気がゆらりと風に流れていく。
年配者が声をかける。
年配者B「ありがたいことだな」
リオは空を見上げる。
リオ「ありがたい……だけで済むかな」
不安ではない。
焦りでもない。
ただ、理解が早い。
視線の先。
山の木々の間に、猿の姿が見える。
木の実を分け合っている。
争わず、静かに。
リオはしばらく見つめる。
リオ「奪わないから、続くのか……」
広場では、笑い声が響く。
亮「いやー、繁盛繁盛! これで温泉まんじゅうとか作れないかな?」
あんな「パパ……」
みゆ「商品開発は後にしてください」
ベアトリス「温泉まんじゅう……それは少し気になりますわ」
空気は明るいが、どこか熱を帯びているようだった。
遠く、街道を進む一台の馬車。
紋章の入った車体が、王都の方角へと走っていく。
車輪の音が、風に混ざる。
湯気は今日も立ちのぼる。
静かに、しかし確かに。
空気は変わり始めていた。
こうして――
温泉の湯気はいつもと変わらず立ちのぼりながら、
湯気はいつも通りなのに、村の空気だけがどこか違っていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
商人来訪、甘い未来の提案が待っている――。
急激な近代化の波がミルナ村を襲う! 提示された甘い蜜は、村の平穏を壊す劇薬か、それとも希望の光か!?
神崎家の「巻き込まれ体質」が、ついに国家規模の利権争いを引き寄せる!?
次回、第86話 え、パパが勇者!? 掘った温泉が国家予算級!? 爆速の近代化計画と大切な場所を守るためー!?
この静寂を守り抜けるのか、それとも激変の渦に飲み込まれるのか!?




