第83話 え、パパが勇者!? 娘たちの超高度な水脈調整をスルー!? 結局『ただの温泉好き』で押し通す無自覚無双ー!?
夕暮れ時。
茜色に染まるミルナ村の入り口に、神崎家の一行がようやく辿り着いた。
村の通りは穏やかな静寂に包まれている。
亮「あれ……お猿さんの姿が一匹もいないぞ?」
あんな「本当だ。屋根の上にも井戸の周りにも、全然見当たらないね」
みゆ「……観測。猿の姿、ゼロ」
ベアトリス「本当ですわ。昨日まであんなにいたのに」
亮は少し残念そうに、静まり返った村の広場を見渡した。
亮「お猿さん、山に帰ったんだなぁ。ちょっと寂しいな。一緒にお酒飲めないのはなー」
あんな「……いや、寂しがってるのはパパだけだから! 村の人たちにとっては、やっと日常が戻ってきたって安堵の瞬間なの!」
みゆ「……特異体質」
ベアトリス「パパのお心は、海よりも、森よりも深うございますわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「よーし、とりあえず温泉入るかー! もっふる、一緒に行くぞ!」
もっふる「ピィー!」
宿に戻った亮は、さっそく自慢の温泉へと向かった。
湯船に浸かると、手足を思い切り伸ばしてふぅーっと大きな息を吐く。
その隣では、もっふるが小さく波を立てながらプカプカと浮いて、実に気持ちよさそうな顔をしていた。
亮「ふぅ〜……やっぱり温泉は最高だなぁ」
もっふる「ピィー♪」
その頃、女湯では――
あんな「不思議ね。山に温泉を作ったのに、こっちの湯量が全然変わらないなんて」
みゆ「……地下水脈の流量バランスを魔法で最適化。一方を立てれば一方が枯れるという短絡的構造を回避し、地下での完全循環システムを再構築済み」
あんな「そこまでしてたの?ただ穴を掘っただけじゃなかったんだ」
みゆ「争いはよくない。共存が最適解」
あんな「……パパがみんなが仲良くできるのが一番だって、いつも言ってるね」
ベアトリス「さすがですわ! 勉強になりますわ!」
翌朝。
一行は事の経緯を報告するため、マーレイ村長の家を訪ねた。
マーレイ「おおー! 亮さん、皆さん! よく来てくださいました! 見てください、あんなにいた猿が一匹残らずいなくなりました。ありがとうございます」
亮「いやー、猿たちも困ってたみたいでね。温泉が枯れちゃってたんだよ」
あんな「山の温泉を復活させてきました」
みゆ「地脈の調整済み。村の温泉への影響はゼロ」
ベアトリス「お猿さんたちも大喜びでしたわ!」
もっふる「ピィー!」
マーレイ「なんと……! そんなことまで……!」
あんな「パパがボス猿に担がれてたよね」
みゆ「……あれは完全に“王”の扱い」
ベアトリス「さすがパパですわ!」
マーレイ「はっはっは! 亮さんらしいですな!」
村長は感激のあまり、目を潤ませていた。
マーレイ「これは……宴を開かねばなるまい!!」
あんな「えっ、また?」
みゆ「……定番化」
ベアトリス「楽しみですわ!」
もっふる「ピィー!」
夕暮れ時、村の広場には大きなテーブルが並べられ、村人たちが次々と料理を運んでくる。
村人A「亮さん! 今回も助けてくれてありがとう!」
村人B「猿の被害がなくなって、本当に助かったよ!」
村人C「温泉も無事じゃし、これで観光客も安心じゃ!」
村人A「あの荒れ狂っていた猿の群れが、亮さんの一言で心を通わせてしまわれるとか」
村人D「いや、猿の王として君臨したらしいぞ!」
亮「いやー、そんな大したことはしてないよー」
もっふる「ピィー!」
噂は尾ひれをつけて広がり、気づけば村長宅の庭では、村を挙げた大宴会の準備が始まっていた。
村人たちは笑いながら、次々と料理を差し出してくる。
焼きたての肉、山菜の煮物、温泉卵、果物酒。
どれもミルナ村の恵みが詰まった温かい料理ばかりだ。
マーレイ「今日は村の救世主、神崎家を讃える宴です! 皆、存分に飲んで食べてくだされ!」
「「「おぉーーー!!」」」
マーレイ「亮さん、これもどうぞ!」
亮「おおー! ありがとう! うまいなー!」
あんな「パパ、飲みすぎないでよ?」
みゆ「……すでに危険域」
ベアトリス「パパ、ほどほどにですわ!」
もっふる「ピィー!」
村人たちの笑い声と、神崎家の賑やかな会話が広場に響き渡る。
あんな「……なんか、ここに来ると毎回宴だよね」
みゆ「……パパが原因」
ベアトリス「でも、楽しいですわ!」
亮「いやー、みんなで笑って食べて飲むのは最高だなー!」
もっふる「ピィー♪」
宴が最高潮に達した頃、亮は村人たちに囲まれて酒を酌み交わしていた。
「亮さん! 次はどんな奇跡を見せてくれるんですか?」
亮「え? 奇跡なんてそんな……。俺はただ、みんなでお風呂に入りたかっただけだよー」
「ははは! 謙遜を! 猿を従える勇者が、ただの温泉好きなんてわけがない!」
あんな「(……もう、否定するだけ無駄ね)」
あんなは、ジョッキを片手に笑い飛ばす亮を眺めながら、自分も鶏肉にかぶりついた。
確かに、村に平和が戻った。
猿たちも、自分たちの居場所で幸せにしているはずだ。
これこそが、神崎家の「スローライフ」なのだと、自分に言い聞かせる。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜も深まってきた頃。
亮「ふぅ、飲んだ飲んだ。そろそろ帰ろうか」
あんな「そうね。パパ、明日起きられなくても知らないからね」
みゆ「……撤退。睡眠時間の確保を優先」
ベアトリス「楽しい夜でしたわ。また明日からもよろしくお願いしますわね」
村人たちの温かい見送りを受けながら、千鳥足の亮をあんなが支え、一行は宿へと歩き出した。
月明かりが、静まり返った村の通りを優しく照らしている。
こうして――
猿との騒動は、誰も傷つくことなく、むしろ村の結束を深める結果となって幕を閉じた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
宿へ戻る一行の背中を、どこか誇らしげな夜風がそっと押していた。
湯煙の向こうに浮かぶのは、巨獣との熱い友情!?
なんと、亮とボス猿が遠く離れた岩の上と湯船で、言葉を超えた「無言の対話」を開始!
争いの火種を温かな湯気に変えたパパの背中を、闇に潜む「謎の馬車」がじっと見つめる……。
次回、第85話 え、パパが勇者!? 平和解決したのに監視されてる!? 街道を走る謎の馬車と、動き出した『欲』の気配ー!?
感動の完結かと思いきや、新たな波乱の予感!? 湯気の向こうから迫る影の正体とは




