第302話 え、パパが勇者!? 穏やかな待ち時間で束の間の休息!? 思い出した言葉が次の波乱を呼ぶ!?
第三十五章、始まります。
無事に激闘を乗り越えた神崎家ともっふるですが、今回足を踏み入れたのは、周囲を険しい山々に囲まれた不気味なほど静まり返る謎の空間。
「今度こそ静かな観光を」……なんて願う間もなく、足元から伝わってくる不穏な大地の揺れと、思いがけない巨大な気配に巻き込まれていきます。
圧倒的なスケールの謎や、家族の絆が試される新たな試練が待ち受ける中、果たして神崎家はこの大騒動をどう切り抜けるのか?
相変わらず娘たちのツッコミと愛情が響き渡る、熱く温かな安寧編、いよいよ開幕です!
神崎家のドタバタ異世界スローライフ(?)
新章もぜひ楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
亮「さあー、帰るかー」
静まり返った盆地。
亮は青空に向かって大きく腕を伸ばし、晴れやかな笑顔で宣言した。
あんな「帰るのはいいけど、来た道は塞がってるよ」
亮「そうだったな。でもグルムさんたちが復旧してくれてるんじゃないか?」
あんな「復旧って、あの状況を?」
亮「ほら、ドワーフの人たちって土木作業のプロだしさ」
みゆ「時間的にも無理があります」
亮「そうか?ドワーフたちなら何とかしてくれてないかなー」
みゆ「あの崩れ方です。土砂の総量と密度、並びに岩石の硬度を計算しても、すぐにドワーフたちが来たとしても復旧には相当な時間を要します」
亮「今日中に帰れないということか」
みゆ「可能性としては十分に考えられます」
亮「じゃあ、ここで待つか」
あんな「それしかないね。下手に掘って崩れたら危ないし」
みゆ「それが一番安全です。二次災害を防ぐ観点からも、崩落現場への迂闊な接近は推奨されません」
ベアトリス「それがよろしいと思いますわ! わたくしが周囲の警戒を固め、お守りいたしますわ!」
ベアトリスが腰の剣に手を当て、力強く胸を張る。
亮「よし!ここで休憩だ―」
もっふる「ピィー♪」
亮は石の上に腰を下ろし、周りを見渡した。
戦いが終わった場所には、先ほどまでの激闘、巨大なイモムシとの戦闘の跡が色濃く残っている。
崩れた岩。
えぐり取られるように削られた地面。
魔法の余波で焦げ付いた草むら。
あちこちに生々しく残る戦いの痕跡。
それでも、先ほどまでの激しい戦闘が嘘のように、今の盆地は静まり返っていた。
亮「また、イモムシが出てくる事はないよな」
あんな「ちょっと、もう勘弁してよ! あんな大きいの、一匹でもお腹いっぱいだから!」
みゆ「変なフラグを立てないでください。確率計算上の怪異遭遇率が跳ね上がります」
ベアトリス「ご安心くださいですわ! 次はわたくしが、完璧にお守りしますわ!」
もっふる「ピィー」
あんな「頼もしいのは嬉しいけど、なんかイモムシが出てくる前提の話になってない?」
みゆ「次こそは塵も残さず燃やします」
あんな「その前に出てきて欲しくないのだけど」
もっふる「ピィー♪」
亮「ところでさちょっと気になっていたのだけど」
あんな「何?また変なフラグ立てないでよ」
亮「そうではなくて……蝶はどうなったのかなと思って」
櫓のあった方を見た。
あんな「もう櫓もないよね」
みゆ「今回の戦闘で燃やされたと思われます」
亮「そうだよな……」
亮の言葉に、少しだけしんみりとした空気が流れる。
あんな「利用されて殺されたのは可哀想だけどパパの責任ではないよ」
みゆ「そうです。あの二人が仕組んだことです」
ベアトリス「そうですわ!パパが気に病むことではありませんわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「そうだよな、気に病んでいても仕方ないよなー」
盆地に穏やかな風が吹き抜ける。
心地よい静けさの中、亮は足元の小さな石ころをぽんぽんと軽く蹴り飛ばし、落ち着かない様子で遠くの通路を見つめた。
亮「まだ来ないなー」
あんな「まだ三十分もたってないよ。パパ、気が早すぎ」
みゆ「開通作業には手順があります。安全確認と補強を並行して行うため、迅速な作業であっても一定の時間を要します」
ベアトリス「焦りは禁物ですわ!武人たる者、どのような待ち時間であっても心を静かに保つべしですわ!」
亮「じゃーお昼寝だー」
言うや否や、亮はゴロンと地面に横になり、腕枕を作った。
あんな「呑気だよねー。こんな不気味な場所でよくすぐ寝ようと思えるよ」
みゆ「それがパパです。どのような環境下においても一秒で副交感神経を優位に切り替える特殊技能の持ち主です」
あんな「技能っていうか、ただの図太さでしょ……」
もっふる「ピィー♪」
もっふるは亮のお腹の上にピョンと飛び乗り、丸くなって目を閉じた。
神崎家は、ドワーフたちが通路を復旧してくれるのを待ち続けた。
風が頬をなで、遠くで鳥の鳴き声がかすかに響く。
のどかな時間が流れていく。
その時だった。
微かに足元から、微細な振動が伝わってきた。
亮「……ん?」
横になっていた亮が、ゆっくりと目を開ける。
あんな「今、揺れた?」
あんなが立ち上がり、周囲を見回す。
みゆ「……揺れました」
ベアトリス「また地震ですわ! お気をつけくださいですわ!」
ベアトリスが素早く剣の柄に手をかけ、周囲を警戒する。
もっふる「ピィー……」
もっふるがお腹の上で立ち上がり、小さな耳をピンと立てた。
その静けさのなかで、亮がゆっくりと体を起こした。
ポン、と手を叩くような動作とともに、爽やかな顔でつぶやく。
亮「思い出したー」
静かになった盆地に、亮の声が響き渡った。
こうして――
不穏な揺れが足元を突き上げる中、パパの思い出しという新たな一波乱を前にする。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
嵐の予感とともに静かに波打ち始めるのだった。
激闘を終えてまさかの「本来の目的」を今さら思い出すパパ。
トラブル引き寄せ体質100%の呑気なやり取りも束の間、足元直下から直撃する巨大地震!? 大地の奥深底から響く、地響きに混じった不気味な重低音の唸り声……。
新たな未知の脅威が神崎家に迫る。
次回、第303話 え、パパが勇者!? すっかり忘れていた本来の目的!? 揺れる大地から未知の脅威!?




