第301話 え、パパが勇者!? 撤退間際の問答無用!? 逃げる敵へ決死のズレ!?
荒れ果てた黒い大地の向こうから、グラファイトがゆっくりと姿を現した。
その隣には、漆黒のコートを纏った一人の男が静かに並び立っている。
男は、嫌味な笑みを浮かべながら周囲の惨状を眺めていた。
グラファイト「……そうか」
???「これ以上は無駄でしょう。使えないゴミの始末なら、私の専門ですがね」
もう一人の男が、小さく馬鹿にしたような冷たい声で呟く。
失敗した存在も、証拠ごと容赦なく物理的に消し去ってきた男の、嫌味な口ぶりだった。
グラファイト「……ああ」
グラファイトは苦々しげに息を吐き、神崎家へと顔を向けた。
その表情から、先ほどまでの余裕や不敵な笑みは消えていた。
グラファイト「まさか、ここまでやられるとはな」
亮「……」
亮は何も答えない。
ただ静かに背後へ視線を送り、あんな、みゆ、ベアトリスの三人を確認する。
あんなも、みゆも、ベアトリスも、互いに身体を支え合いながらしっかりと立っていた。
傷つきながらも、誰一人として屈していない。
娘たちの無事と覚悟を確かめると、亮は再びグラファイトたちへ向き直った。
グラファイト「亮。やはり貴様という存在は危険だ」
亮「何が危険だ! 俺たちは家族で静かに暮らしたいだけなんだよ!」
あんな「そうよ! パパが危険なんてどういうことよ! 一番怪しくて迷惑なのはあんたらでしょ!」
あんなが剣を構え直し、怒りの声を張り上げる。
???「フフッ……相変わらず能天気な家族ですね。まあ、消去対象が威勢よく吠える姿というのも、一興ではありますが」
男が肩をすくめ、嫌味たっぷりに薄笑いを浮かべた。
みゆ「……不快な言動です。あなたのその発言、データとして記録しました」
グラファイト「フッ……だが、これで終わったと思わないことだ」
亮「なに……?」
グラファイト「今回は引き下がるが、次に会うときは今回のようにはいかない」
その言葉を残し、グラファイトの姿が周囲の空間へ溶け込むように薄くなり始めた。
???「次は、あなた方という『不祥事』を綺麗に消し去って差し上げますよ」
男も嘲笑を残し、影の中に溶け込んでいく。
亮「あ、待て! おい! お前、名前は何て言うんだ!?」
消えゆく間際に急に叫び出した亮に対し、あんなが目を丸くした。
あんな「ちょっとパパ!? そこ!? 逃げられそうなこの緊急事態に、最後に聞くのが名前なの!?」
みゆ「流石はパパです。緊張感を一瞬で破壊する能力だけは超一流です」
亮「だって気になるだろ! 名乗りもしないで消えられたら、なんかもやもやして夜も眠れなくなるじゃないか!」
あんな「子供みたいな理由で引き留めないでよ!」
二人のやり取りを聞いていた男が、消えゆく輪郭の向こうから、嫌味な含み笑いと共に声を返した。
???「……イレイサー。覚えておくといい、君たちを消去する男の名だ」
亮「……イレイサー、それがお前の名前なのか!」
影に向かって一歩を踏み出そうとした亮の胸元へ、あんなが素早く割り込み、手を広げて立ち塞がった。
あんな「パパ、待って!」
亮「……あんな?」
あんな「もういいよ。追わなくていい」
あんなは首を静かに横に振る。
みゆも亮の脇へ並び立ち、冷静なトーンで言葉を重ねた。
みゆ「お姉ちゃんの言う通りです。敵の戦力も不明な上、私たちの疲労度を考慮すれば、深追いは極めて危険です」
亮「……」
ふたりの真剣で、自分を案じてくれている眼差しを受け、亮は静かに踏み出しかけた足を引いた。
ベアトリス「そうですわ! パパをお守りできただけで、今のわたくしたちには十分な戦果ですわ!」
ベアトリスが安堵したように胸へ手を当てる。
もっふる「ピィー……」
もっふるも亮の足元に小さく擦り寄ると、心配そうに鳴き声を上げた。
亮「……そうだな。みんな、止めてくれてありがとう」
亮は気配の完全に消え去った空間を、じっと見つめた。
残されたのは、荒れ果てた戦場の跡と、静けさだけだった。
神崎家を追い詰める罠として放たれた、数千の巨大イモムシ群。
その激闘も、これでひとまずの終わりを迎えたのだった。
亮「……終わったんだな、本当に」
あんな「うん。なんとか、ね」
みゆ「はい。完全に戦闘状態は解除されました」
ベアトリス「ええ、神崎家の勝利ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮は愛おしそうに三人の娘たちと、もっふるを見つめ返した。
互いにボロボロになりながらも、全員が無事に笑顔を浮かべている。
亮「みんな、本当によく頑張ったな」
あんな「もう、急にしみじみしないでよ! 今回はパパもすっごく頑張ってくれたじゃない」
あんなが照れくさそうに笑いながら、亮の肘をポカポカと小突く。
みゆ「そうですね。たまにはパパにも、見せ場という名の活躍の場を設けてあげないと示しがつきません」
みゆはすました顔で、小さく息を吐いた。
ベアトリス「ですが! 今回のように危険に晒されるような展開は、もうお腹いっぱいですわ!」
亮「はは……それって、褒められてるのかな?」
あんな「半分は呆れられてると思うよ!」
みゆ「85%は呆れと心配の混ざった評価です」
亮「えー! 数字が上がってる!? 厳しすぎない!?」
もっふる「ピィー♪」
もっふるが楽しそうにくるりと一回転し、場を和ませるように明るい声を響かせた。
荒れ果てた激戦の地にも、いつもの賑やかで温かい神崎家の時間がゆっくりと戻り始めていた。
だが、本当の戦いが終わったわけではない。
あの嫌味な男イレイサーと、グラファイトたちの真の狙いは何なのか。
なぜこれほどまでに神崎家を執拗に狙い、排除しようとするのか。
数々の疑問は深まるばかりで、答えはまだ何ひとつ明かされていなかった。
亮「……さて、それじゃあ帰ろうか」
あんな「うん! 帰って、温かいごはん食べよ!」
みゆ「賛成です。現在の最優先事項は栄養補給と休息です」
ベアトリス「わたくしも、お料理を心待ちにしておりますわ!」
もっふる「ピィー!」
神崎家はゆっくりと足並みを揃え、足元に気をつけながら戦場を後にする。
その先にどんな試練や新たな謎が待ち受けていようとも、固い絆で結ばれた家族の足取りに迷いはなかった。
こうして――
仕組まれた激闘を乗り越え、神崎家は戦場を後にした。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
静かに次の波乱へ向かい始める。
――そして、その空のさらに遥か。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ふふ……あの勇者たち、本当に……予想を超えてくれますね」
巨大な漆黒の闇を纏った強大な災厄でさえ、あの家族の前では家族の絆を確かめ合うひと幕に過ぎなかったようです。
命を激しく散らし合う戦いの最中ですら、互いを信じ、手を携え、ただ「パパを守りたい」と願う純粋な想い。
最強の力を持ちながら、誰かを打ち負かすことではなく、ただ大切な家族と笑い合える時間を何よりも愛おしむ……。
使命感ではなく、純粋な気持ちで……ただ幸せを分かち合い歩む彼らの姿こそが、荒れ果てた激戦の地に宿る漆黒の狂気すらも綺麗に溶かす、世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれません。
知らぬうちに世界の平和を導き、どんな悪意や罠をも温かな光へと変えてしまうあの純粋な想いは、実に……興味深い存在ですね。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
忍び寄る不穏な影と深まる世界の謎の向こうで、あの家族はまた一つ、新しい奇跡を日常に変えてしまうのでしょうか。
……まだ、その時ではありませんものね。
光が揺れ、風がそっと戦場の黒煙を払い去る。
その微笑みは、静かで神聖な空気の中、どこまでも優しかった。
【第三十四章「絆結編〜家族の絆で乗り越えろ⁉~」を終えて】
地下通路を抜けた盆地で待っていたのは、限界突破の巨大イモムシ群。
娘たちの絶叫とパパの暴走で絶体絶命の神崎家でしたが、覚醒した『お米の祝福』と絆の力で見事大逆転を果たしました。
しかし立ち去る敵の影と女神様の視線が、新たな波乱を予感させます。
亮「みんなの叫びでパパ正気に戻れたよ! 家族の絆パワーでまた勇者ポイントが増えた気がするな!」
あんな「もう、急に暴走するから本気で心配したんだからね! でも……最後はパパと一緒に戦えてよかったよ。これからも皆さまと一緒に歩んでいこうね」
みゆ「今回のイモムシ群の観測データはトラウマ級でした……。ですが、神崎家の絆による『お米の祝福』覚醒データも取得完了です。今後のやらかし予防と安全確保のためにも、読者の皆様からのブックマークと評価(★)という補強データを要請します」
ベアトリス「わたくしたち三姉妹の連帯感もバッチリ深まりましたわ! パパをお守りできて光栄ですわ!」
もっふる「ピィー♪」




