第298話 え、パパが勇者!? 娘たちの叫びが奇跡を起こす!? 超回復で総力反撃開始!?
亮の身体を包む禍々しい暗黒の気圧は、止まることなく濃度を増していく。
周囲に蠢いていた巨大イモムシの群れは、亮が繰り出す攻撃によってではなく、ただその足元から放射される漆黒の重圧に押し潰され、絶叫をあげる間もなく大地に叩き付けられて動かなくなっていった。
亮の目は、光を完全に失っている。
黒い濁流のような殺気だけを瞳の奥に宿し、その視線はただまっすぐに、群れの奥に佇むグラファイトだけを捉えていた。
グラファイト「……ふん。正気を失い、ただの破壊の化身と成り果てたか。どれほどの威力を誇ろうと、理性のない獣など恐るるに足らん」
グラファイトが嘲笑を浮かべながら指を鳴らすと、さらなる巨大イモムシの群れが這い出てきた。
そして亮の進路を塞ぐように壁を作った。
だが、亮の歩みは揺るがない。
ドス……ドス……
重く響く足音は、死のカウントダウンのように盆地全体を震わせる。
迫り来る巨体に対し、亮は拳を構えることすらしなかった。
ただ淡々と、機械的に前進を続ける。
その身体が巨体に接触した瞬間、圧縮された暗黒の衝撃波が爆発し、巨虫の肉塊が周囲へと派手に撒き散らされた。
血と泥が舞い散る惨劇の中を、亮は一滴の返り血も浴びることなく歩く。
身体を覆う不気味な影が、すべての汚れを弾き飛ばしていた。
亮「……お前だ」
冷ややかな殺気がグラファイトの肌を刺す。
グラファイトの顔から嘲笑が消え、わずかに頬が引きつった。
グラファイト「……なにを言っている……その状態で、まだ我らを認識しているというのか……!?」
???「さすがにこれは計算外のようですね」
亮は一歩、また一歩とグラファイトへ距離を詰めていく。
後ろに残された家族のことなど、いまの亮の頭には微塵も存在していない。
娘たちを守るという温かな動機すら、深淵なる闇の欲望へとすり替わっていた。
ただ目の前の元凶を叩き潰す。
その命令だけで動く悪魔のような存在と化していた。
暴走する背中を、あんなは絶望の渦中で見つめていた。
膝はガタガタと震え、呼吸をするたびに肺が焼き切れるような痛みが走る。
立ち上がるどころか、声を発することすら不可能なほどに精神も身体も追い詰められていた。
あんな「……パパ……」
今度も、ほとんど声になっていなかった。
喉の奥で掠れた空気が漏れただけだった。
それでも、グラファイトへ向かってまっすぐ振り上げられようとしていた亮の拳が、わずかに止まった。
ほんの一瞬だけ。
あんな「……!」
みゆ「……!」
ベアトリス「……っ!」
もっふる「ピィー……っ!」
誰も動けない。
亮も、その場に立ったまま動かなくなった。
拳を握りしめたまま、ただ前だけを見つめている。
漆黒の闇が、亮の全身を拘束するように蠢き、必死にその意識を深淵にとどめ置こうと狂い咲いていた。
だが、ほんのわずかに、亮の首が動いた。
軋むような音を立てて、亮の顔がゆっくりと後ろへ向けられる。
その視線の先にいたのは、限界まで追い詰められ、傷つきながらも、一心に自分を見つめている姿だった。
濁りきった亮の瞳に、倒れそうな娘たちの姿がかすかに映り込む。
だが、闇の侵食はまだ終わっていない。
亮の表情は固く冷たいままであり、その身体から発せられる不気味な圧力が消えることはなかった。
あんな「……パパ……」
あんなは、地面に爪を立てながら、必死に頭を持ち上げた。
視界が血と汗で滲む。
恐怖で全身の毛穴が開くような威圧感を前にしながらも、あんなは瞳をそらさなかった。
あんな「パパが……ずっと私たちを守ってくれた……」
みゆもまた冷たくなった指先を強く握りしめた。
みゆ「分析……するまでもありません……パパは、いつだって私たちを助けてくれました……」
生まれてからずっと、どんな危険な目に遭おうとも、いつだって亮の温かな手が神崎家を守ってきた。
呑気で、天然で、ツッコミどころ満載な父親が、その大きな背中で全てを受け止めてくれていた。
だが、いま命を叩きつけるように差し出されているのは、父親に守られるだけの存在からの脱却だった。
パパを助けたい。
自分たちの手で、大切なパパを闇から引き戻したいという、娘たちの魂の底からの叫びだった。
あんな「だから……今度は私たちが……パパを守るよ……!」
みゆ「パパを……そんな冷たい闇になんて渡しません……!」
ベアトリス「……パパ! わたくしたちのパパにお戻りになってくださいですわ……!」
もっふる「ピィーーーーー!!」
それは声と呼ぶにはあまりに小さく、儚い、けれど命を賭した魂の叫びだった。
その瞬間、亮の激怒によって弾け飛んでいたはずの『お米の祝福』が、娘たちの強い胸の内に呼応するように、再び脈動を始めた。
今までとは違う。
一方的に与えられていた加護ではない。
あんな、みゆ、ベアトリス、そしてもっふるの「守りたい」という強い想いが触媒となり、神崎家全員の絆が『お米の祝福』を本来の領域を超えた存在へと覚醒させたのだ。
あんなたちの胸の奥から、眩い黄金色の光となって祝福が溢れ出す。
その光は、まるで炊き立てのご飯から立ち上る湯気のように温かく、優しく、戦場の冷気を一瞬で塗り替えていった。
娘たちから解き放たれた光の波動が、まっすぐに亮の身体へと飛翔し、包み込んでいく。
亮「……ぐっ……!?」
亮の口から、苦悶の声が漏れた。
亮の心を覆っていた漆黒の影が、温かな光に触れた瞬間にミシミシと音を立てて分解されていく。
冷酷だった闇の衝動が、湯気のような温もりによって柔らかく解きほぐされ、綺麗に溶かされていった。
亮の視界に、少しずつ色彩が戻ってくる。
漆黒に染まっていた瞳の奥に、かつての温かな光が灯り始めた。
亮「……あんな……」
あんなの目が大きく開く。
亮「……みゆ……」
みゆが、涙で濡れた頬のまま、かすかに表情を和らげる。
亮「……ベアトリス……もっふる……」
父親としての温かな眼差しが、ゆっくりと、確実に亮の表情に戻っていった。
暗黒の侵食は完全に潰れ、亮を支配していた冷酷な狂気は影も形もなく消え去っていった。
亮「……みんな……すまない。心配かけたな」
亮のその一言とともに、覚醒を果たした『お米の祝福』の光が弾け飛ぶように全方位へと広がった。
その光は、あんな、みゆ、ベアトリス、もっふるを包み込み、身体の隅々へと染み渡っていく。
全身を駆け巡るじんわりとした熱気。
あんなたちの身体を痛めつけていた重い疲労と、激しい痛みが、嘘のようにすうっと引いていく。
力が入らなかった指先や体中に、再び力強いパワーが満ち溢れていくのがはっきりと分かった。
あんな「……まったく……バカパパ! 心配させないでよ……!」
溢れ出る涙を乱暴に手で拭いながら、あんながいつもの威勢のいい声を張り上げる。
みゆ「……『お米の祝福』の逆流、および家族の絆による限界突破(覚醒)を確認。細胞の活性化率100%。……パパ、もう大丈夫です。私たちは戦えます」
ベアトリス「……パパをお守りするのが、わたくしたちの使命ですわ! 疲労など吹き飛びましたわ!」
もっふる「ピィー♪」
グラファイト「なに……!? 闇の力を払いのけ……一瞬で体力を回復させただと……!? くだらん絆の力で、ここまで追い詰めたというのに……!?」
今まで見せたことがない感情。
驚愕と怒りで顔を歪めるグラファイト。
正気を取り戻した亮を中心に、あんな、みゆ、ベアトリス、もっふるが力強い足取りで一列に並び立つ。
その瞳には、もうどんな恐怖も、どんな迷いも残っていなかった。
こうして――
娘たちの強い想いによって『お米の祝福』は覚醒を果たし、父親の心と全員の体力を完璧に取り戻した。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)
その絆が真にひとつとなり、反撃の総力戦へと突き進んでいく。
覚醒した『お米の祝福』で奇跡の生還を果たした神崎家。
絶対の信頼でパパの背中を完璧に守る娘たちと、最後の一群へ一斉に突撃する怒濤の超連携プレイでイモムシ大群もついに壊滅寸前?
トラウマを乗り越えた最強三姉妹の無敵のコンビネーションで、最悪のパニック戦を完全撃破へ導け。
次回、第299話 え、パパが勇者!? 最強三姉妹の完璧迎撃!? パパの背中は私たちが守る!?




