第297話 え、パパが勇者!? 娘たちの声も届かない!? 漆黒の闇に呑み込まれたパパの暴走!?
亮「……壊してやる」
ドゴォンッ!
激しい衝撃音とともに、巨大イモムシの巨体が宙を舞い、地面を削りながら吹き飛んでいく。
周囲に残る無数の不気味な気配を感じ取りながら、迫る魔物をただ機械的に、冷酷に破壊して前へ進む。
亮の歩みは止まらない。
亮「邪魔だ!」
ズドォンッ!
拳が振り抜かれた瞬間、あんなの身体がグラリとふらついた。
みゆ「お姉ちゃん……!」
あんな「……大丈夫」
二人とも限界だった。
それでも、二人の瞳は亮から離れない。
ベアトリス「……このままでは……パパが……」
立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
もっふる「ピィー……」
重い拳が振り抜かれ、巨大な身体が潰れて地面を転がった。
だが、亮は倒した敵を一瞥することもなく、すぐに次の巨大イモムシへと向かう。
その暴走する背中を、あんなは見つめていた。
膝が震えて足に力が入らない。
呼吸も深く乱れている。
それでも、あんなは必死に訴えた。
あんな「……パパ……」
声はかすれ、風にかき消されそうになる。
亮は振り向かない。
みゆも倒れそうになる身体をどうにか支え、震える脚で立ち上がった。
みゆ「……聞こえて……ますか……」
亮は答えない。
亮「……次はお前だ」
冷ややかな殺気を孕んだ声とともに、亮がグラファイトへ向かって踏み出す。
グラファイト「……」
横から巨大イモムシが地面を這って来るが、亮の拳がその身体を容赦なく吹き飛ばす。
倒れた魔物を見下ろすこともなく、また次へ。
ドス……
ドス……
亮の重い足音が響く。
先ほどとは違う足音。
亮「……」
猛烈な激怒の叫びは、もう亮の口からは出なくなった。
代わりに溢れ出しているのは、周囲の空気すら凍りつかせる無感情で不気味な静寂だった。
目の前に立ち塞がる巨大イモムシに対し、亮は拳を振りかざすことすらしなくなった。
ただ前へ歩む。
その身体から漏れ出す重圧だけで、巨大イモムシの皮膚がミシリと歪み、弾き飛ばされるように地面を転がった。
感情に任せて殴り倒していた先ほどまでとは、明らかに違う。
魔物を破壊するたび、亮の胸を満たしていた怒りの熱は完全に冷め切り、深く冷たい暗黒の衝動へと質を変えていた。
家族へ注がれていた温かな感情が、足元からじわじわと黒い影に侵食されるように塗りつぶされていく。
ドクン。
ドクン。
不吉な鼓動が響くたびに、亮の視界から色彩が完全に消え失せていった。
あんな「……パパ……っ」
いつもの温もりなど微塵も残っていない姿を、あんなは直視し続けていた。
足元の沈み込むような恐怖に押し潰されそうになる。
あんな「……お願い……パパ……っ」
伸ばした指先が、空を虚しく切る。
震える膝はもう限界を迎え、崩れ落ちそうになりながらも、あんなは暗闇へと消えていきそうな父親の背中へ必死に声を絞り出した。
みゆ「……聞こえて……いません……完全に……っ」
言葉にならない悲痛な呻きが漏れる。
二人とも限界だった。
声を出すことすら困難なほどに追い詰められている。
ベアトリス「……今のパパの顔……見たくありませんわ……」
立ち上がろうとするが膝が崩れる。
もっふる「ピィー……っ!」
誰も、亮のところまで走っていくことすらできない。
それでもあんなとみゆは、声にならない掠れた息を吐き出しながら、必死に手を伸ばした。
亮はグラファイトへ向かって、機械のように歩み続ける。
亮「……娘たちを傷つけた」
その声には、もう怒りはない。
ただ死を告げる機械のような冷たさだけがあった。
そして次の瞬間、亮の理性が完全に暗闇の底へと没入し、心が漆黒の闇に完全支配された。
ドバゴォォォンッ!!!
拳を振るうまでもなく、亮を中心にして抑えきれなくなった禍々しい闇の力が、全方位へ爆発的に解き放たれる。
大地が大きく隆起し、群がっていた巨大イモムシの群れが一斉に空中に跳ね上げられ、激しい爆風の渦に巻き込まれて遥か彼方へと一瞬で吹き飛んでいく。
あんな「……あっ……!?」
みゆ「っ……!?」
ベアトリス「……」
暴風と禍々しい威圧感に、三人は言葉を失い、ただ顔を覆う。
恐怖と混乱の限界の中で、それでも三人の視線は、完全に闇へと落ちてしまった父親に向いていた。
グラファイト「……ここまでとはな。激怒の熱すら消え去り、正気を失って闇に呑まれてなお……これほどの威力を引き出すとは」
少し離れた場所にいたグラファイトの顔に、初めて明確な戦慄が走る。
???「これも作戦のうちなのでしょうかねー?」
グラファイト「……」
亮の手が、静かに持ち上がる。
もうその瞳には、あんなの姿も、みゆの姿も映っていない。
娘たちの悲痛な眼差しも届かぬまま、溢れ出る不吉な気圧が盆地の空気を重く塗りつぶしていく。
こうして――
娘たちの届かぬ叫びを置き去りにしたまま、亮の心は深淵なる闇の中へと没入していく。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)に、
逃げ場のない異様な光景が漂っていた。
漆黒の闇に呑み込まれたパパの足元で、ただ踏み潰されていく大量の巨大イモムシ……。
絶体絶命の闇からパパを引き戻したのは、絶叫を越えて限界突破した娘たちの魂の叫びと絆の力。
まさかの『お米の祝福』覚醒で超回復を果たした神崎家が、圧倒的な一致団結で反撃の狼煙を上げる。
次回、第298話 え、パパが勇者!? 娘たちの叫びが奇跡を起こす!? 超回復で総力反撃開始!?




