第296話 え、パパが勇者!? 娘たちの危機で大噴火!? 温かな加護も弾け飛び暴走開始!?
亮「……」
目の前には、完全に崩れ落ち、動けなくなった娘たちの姿があった。
あんなは剣を握りしめたまま膝を折り、身体をガタガタと震わせている。
みゆも魔法を放つことができず、血の気を失った顔で立ち上がることすらできない。
ベアトリスも息を荒らげ、これ以上戦う力を残していない。
その痛々しい姿を目に焼き付けた瞬間、亮の胸の奥で、どくどくと凶暴な塊が膨らんでいく。
亮「……なんでだ……」
巨大イモムシの群れが、不快な音を立てて再びこちらへ向かって這ってくる。
だが、亮はそれを見ても一歩も動かなかった。
いま頭の中に浮かんでいるのは、目の前の魔物の存在ではない。
恐怖に顔を歪めて怯えるあんな。
錯乱したまま動けなくなったみゆ。
そして、泥を被りながら限界まで戦い続けたベアトリス。
亮「……娘たちを……」
握り締めた拳に、メキメキと威圧的な力が入る。
亮「よくもこんな目に……遭わせやがって……!」
普段の亮なら、何よりもまず家族の安全を最優先に考える。
どうすれば三人を守れるのか。
どうすれば全員で笑ってこの場を切り抜けられるのか。
どんな局面でも、その温かな思考が真っ先に働くはずだった。
だが、いまの亮の頭には、そんな穏やかな考えは一切浮かんでいなかった。
満たしているのは、純粋で獰猛な「怒り」だけだった。
巨大イモムシが目と鼻の先まで迫る。
亮「……邪魔だ」
ドゴォンッ!
次の瞬間、亮の振るった拳が巨大イモムシを遥か後方へ吹き飛ばした。
巨体は地面を激しく転がり、岩肌を砕いて静まり返る。
別の巨大イモムシが、死角である横から迫る。
亮「邪魔だっ!」
ズドォンッ!
容赦なく拳が振り抜かれる。
一体。
二体。
三体。
次々と巨大イモムシが、玩具のように空中へ吹き飛んで砕け散っていく。
亮は止まらない。
娘たちを守るという穏やかな意識すら、いつの間にか怒りの不気味な闇に呑まれて薄れていた。
亮「……許さない……」
その冷ややかな視線が、蠢く巨大イモムシの群れの向こうへまっすぐ向く。
そこに立ち尽くすグラファイト。
そして、気味の悪い笑みを浮かべた男。
亮「お前らが……」
ドス……と、亮が一歩前へ進む。
その足取りには、いつもの呑気で軽い気配など一切なかった。
亮「娘たちを……」
さらに一歩。
亮「こんな目に……遭わせた……」
握り締めた拳が、怒りのあまり小刻みに震える。
亮「絶対に……許さない……!」
その瞬間だった。
亮の身体を、ふっと温かな優しい光と力が包み込んだ。
「『お米の祝福』発動!」
家族を支え、温かに守るために、これまで亮を助けてきた穏やかな加護。
その温かな波動が、身体の隅々へ流れ込んでいく。
亮「……」
だが、いまの亮の怒りは、その優しい光を受け入れなかった。
家族を温かく守るための力。
誰かを穏やかに救うための力。
そんな生ぬるいものでは、到底足りない。
いまの亮が求めているのは、ただ一つ。
娘たちを傷つけ、恐怖に陥れた相手を完膚なきまでに打ち倒すこと。
亮「……違う」
身体を包んでいた温かな光が、ゆらゆらと歪み始める。
亮「俺が欲しいのは……」
胸の奥の怒りが、さらに禍々しく膨れ上がる。
亮「こんな力なんかじゃない……!」
温かな「お米の祝福」が、亮の激しい殺気によって内側から強引に押し潰されていく。
亮「こいつらを……」
亮の拳が、骨が鳴るほど強く握り締められる。
亮「叩き潰す力だ……!」
ブツンッ……
温かな光の輪が完全に弾けて消えた。
その瞬間。
亮の顔から、いつもの柔らかな笑顔が完全に消え去った。
家族を温かく見守る父親の顔でもない。
娘たちを安心させようと包み込む父親の顔でもない。
ただ、目の前にいる敵を打ち砕くことだけを捉えた、冷酷な一人の男の顔があった。
亮「……」
巨大イモムシが正面から迫る。 亮は後ろの娘たちを振り返りもしない。
瞬く間に踏み込み、距離を詰める。
バゴォンッ!
拳が振り抜かれ、巨体が木っ端微塵に弾け飛ぶ。
その勢いのまま、さらに前へ前へと足を進める。
亮「次だ……」
もう周囲の状況など見ていない。
巨大イモムシはどこから来るのか。
その先に誰がいるのか。自分の後ろに誰がいるのか。
何も考えていない。
ただ、目の前にある障害を全て破壊する。
それだけだった。
グラファイト「……!」
???「……これは……」
二人が思わず足を踏み鳴らし、深く身構える。
亮は、その二人へ向かって迷いなく歩いていく。
亮「……娘たちを傷つけた……」
一歩。
亮「許さない……」
さらに一歩。
亮「全部……」
その固く握られた拳が、静かに持ち上がる。
亮「壊してやる」
もう、誰にもその歩みを止めることはできなかった。
こうして――
娘たちを傷つけられた怒りで「お米の祝福」さえも打ち消した亮の暴走が始まった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
静かな狂気を孕んだまま加速する。
無感情な静寂とともに解き放たれた禍々しい闇の力が盆地を激震させる。
娘たちの必死で悲痛な叫びすら届かず、理性を完全に失ったパパが闇の底へと没入!? 敵すら戦慄する完全暴走の果てに、神崎家に待ち受ける衝撃の未来とは?
次回、第297話 え、パパが勇者!? 娘たちの声も届かない!? 漆黒の闇に呑み込まれたパパの暴走!?




