第295話 え、パパが勇者!? 神崎家完全崩壊!? 絶体絶命の戦場で静かに覚醒する最強パパ!?
荒れ狂っていた爆炎と凄まじい熱気が、少しずつ収まり始めていく。
だが、黒煙が立ち込める戦場に残っている巨大イモムシの数は、どれほど焼き尽くしてもほとんど変わっていなかった。
焼けた草の向こうから、次々と白い巨体が這い出してくる。
あんな「いや……っ」
大剣を両手で強く握りしめたまま、あんなの身体がカタカタと激しく震える。
視界の全てを埋め尽くす巨大な姿。
あんな「来ないで……お願いだから……」
あんなの声が掠れ、か細く震える。
それでも、容赦なく巨大なイモムシが距離を詰めてくる。
あんな「来ないでぇっ!大地斬っ!」
悲鳴とともに強引に剣を振り抜く。
地を這う衝撃波が炸裂し、一匹が吹き飛ぶ。
だが、そのすぐ後ろから次の一匹がぬっと迫ってくる。
あんな「いやっ……!」
再び剣を構えようとする。
けれど、蛇に睨まれたかのように足がすくみ、一歩も動かない。
あんな「……っ、嫌……もう無理……」
みゆも全く同じだった。
みゆ「いや……嫌です……」
魔力を練り上げようと必死に手を掲げる。
しかし、指先がガクガクと震えて止まらない。
みゆ「来ないで……近寄らないでください……」
かろうじて掌に小さな炎が生まれる。
だが、その炎を見つめても、みゆの表情から絶望と恐怖が消えることはなかった。
みゆ「もう……嫌……っ!インフェルノ……バースト……っ!」
必死の想いで魔法を放つ。
炎が着弾し、一匹が倒れる。
それでも、煙の奥から次の影が這い寄ってくる。
みゆ「いやあああっ!」
魔力の制御が乱れ、不発の炎が虚しく空中へ散っていく。
亮「みゆ!」
亮が即座に娘たちの元へ駆け寄ろうとする。
だが、その進路を塞ぐように、巨大イモムシが横から割り込んできた。
亮「くっ!」
亮が無造作に拳を振り抜く。
バゴォンッ!
重い音を立てて、三メートルの巨体が横へ吹き飛んでいく。
その僅かな隙に、亮は後ろの娘たちに視線を送った。
あんなは剣を固く握ったまま、膝を折りそうなほど身体を震わせている。
みゆは魔法を使おうとしてはいるが、顔色を失い、まともに狙いすら定められない。
亮「二人とも……!」
一刻も早く二人のところへ行き、抱きしめてやりたい。
だが、行けない。
目の前のイモムシを何匹退けても、その向こうから次々と群れが迫ってくる。
亮「くそっ……!」
亮は二人を守るために、さらに前へ踏み出さざるを得なかった。
押し寄せる一匹を力任せにぶん殴り、もう一匹を蹴り飛ばして弾き飛ばす。
その間にも、別のイモムシが死角から迫ってくる。
亮「娘たちに近づくな!」
亮が力づくで身体をねじ込み、娘たちとの間を壁となって塞ぐ。
あんな「パパ……っ」
みゆ「パパ……」
背後から届いた痛々しい声に、亮がハッと振り返る。
二人とも、もう戦える状態ではなかった。
あんな「怖いよ……パパ……」
みゆ「もう……無理……限界です……」
亮「……大丈夫だ。俺がついてる」
そう言って安心させてやるしかなかった。
その直後、横からぬちゃりと気味の悪い音を立てて巨大イモムシが迫る。
亮「来るなと言っているだろ!」
亮が正面から力任せに受け止め、強引に押し返す。
しかし、その激しい攻防の弾みで、背後の三人から少し距離が開いてしまった。
ベアトリス「パパ!」
ベアトリスが飛び出し、気迫で炎を放つ。
ベアトリス「火炎剣ですわ!」
迫っていたイモムシが激しく炎を纏って吹き飛ぶ。
だが、ベアトリスの肩もすでに激しく上下していた。
ベアトリス「はぁ……はぁ……っ!」
剣を握り直そうとするが、指に力が入らない。
ベアトリス「……まだ、わたくしは……戦えますわ……!」
意地で一歩踏み出そうとする。
しかし、膝がガクリと折れ、足が止まった。
ベアトリス「……っ!」
どれほど強い意志があろうとも、心身ともに疲弊しきった身体はそれ以上動かなかった。
亮「ベアトリス……!」
ベアトリス「……申し訳……ありませんわ……お二人をお守りするはずが……っ」
もっふる「ピィー!」
ベアトリスが悔しそうに地面に膝をつく。
あんなも力が抜け、大剣の先を地面に落とした。
みゆもこれ以上魔法を放つことができない。
神崎家の誇る戦力が、ついに全員戦場から脱落したのだった。
亮「……」
亮は三人の前に、どっしりと立ち塞がった。
もう獲物を攻撃するためではない。
愛する三人を死守するために、そこに仁王立ちするしかなかった。
巨大イモムシの群れが、じりじりと近づいてくる。
亮は拳を固く握り締める。
一匹を叩き伏せ、向かってくるもう一匹を吹き飛ばす。
そのたびに、亮は絶対に三人の前から一歩も動かない。
だが、数があまりにも多すぎる。
いくら規格外の力を持つとはいえ、四方八方から押し寄せる全てを完全に止めきることはできなかった。
そのときだった。
グラファイト「……十分でしょう」
冷ややかな声が響き、亮が素早く顔を上げる。
薄れゆく炎と煙の向こう。
グラファイトが悠然と立っていた。
その隣には、不気味な気配を纏った男。
二人は、完全に陣形が崩れ去った神崎家を静かに見下ろしていた。
グラファイト「娘たちは、もう戦えないでしょう」
???「ええ。完全に牙を折られましたね」
グラファイトが、ゆっくりと亮に冷視を向ける。
グラファイト「そろそろ、あの娘三人も限界です」
???「哀れですね。我々が、とどめをさして差し上げましょうか」
亮「…………」
あんなはもう動けない。
みゆも立ち上がることすらできない。
ベアトリスもその場に崩れ落ちている。
亮の背後にいる、傷つき、恐怖に怯える三人。
その痛々しい姿を、亮は静かに見つめた。
あんな「……パパ……」
みゆ「……パパ……」
ベアトリス「……パパ……」
声にならない娘たちのかすれた声を聞いた瞬間、亮の固く握られた拳が、微かに、そして激しく震えた。
グラファイト「終わりです」
亮「……」
グラファイト「これ以上、苦しませる必要もないでしょう」
亮の胸の奥で、ドクリと何かが脈打ち、巨大な熱塊となって膨れ上がっていく。
娘たちを、ここまで追い詰めた。
娘たちに、こんな恐ろしい思いをさせた。
恐怖に震えるあんな。
錯乱したまま動けなくなったみゆ。
戦う力を失ったベアトリス。
亮「…………」
握り締めた拳に、メキメキと尋常ではない力が宿っていく。
亮「……娘たちを」
その声は、地の底から響くように低く、冷たかった。
亮「……娘たちを、こんな目に……遭わせやがって……!」
静かだが圧倒的な怒りが、亮の全身を満たしていく。
いつも家族に向ける温かな眼差しは消え去り、その胸の中には、愛する娘たちを踏みにじった敵に対する絶対の怒りだけが渦巻いていた。
こうして――
崩壊した神崎家を前に、かつてない怒りを爆発させる亮。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)で、
言葉を失った娘たちの前で、亮の握りしめた拳が静かに動きを止めた。
娘たちの惨状を目にしたパパの怒りが、ついに臨界点を突破!
迫り来る巨体を拳一つで打ち砕き、まさかの「お米の祝福」すらも自らの殺気で強引に打ち消し完全暴走。
冷酷な一人の戦鬼と化したパパの、あまりに容赦なさすぎる破壊行が始まる……。
次回、第296話 え、パパが勇者!? 娘たちの危機で大噴火!? 温かな加護も弾け飛び暴走開始!?




