第294話 え、パパが勇者!? 対神崎家の切り札!? 巨大イモムシの罠に娘絶叫でパパの静かな怒りが爆発!?
激しく燃え盛っていた炎が、少しずつ勢いを弱めていく。
空を覆い尽くしていた巨大な炎の渦が崩れ落ち、熱気とともに赤く染まっていた盆地全体に、黒煙が広がっていた。
凄まじい熱気が立ち込める中、ゆっくりと視界が戻っていく。
黒く焦げた地面を、なおも無数の巨大な身体がゆっくりと這っていた。
亮「……嘘だろ、まだいるのかよ……」
あれだけの爆炎と斬撃を叩き込んだというのに、イモムシたちはまだ這っている。
あんな「いやぁぁぁぁっ!」
みゆ「来ないでぇぇぇっ!」
二人の悲鳴が、黒煙の上がる盆地に虚しく響き渡る。
あんな「嫌! 嫌! 嫌ぁっ!」
みゆ「こっちに来ないで! 近づかないでぇっ!」
二人はなりふり構わず後ろへ下がりながら、必死の手つきで手にした武器や魔法を振り回す。
あんな「近づかないでよぉっ!」
みゆ「燃えて! 一粒残らず全部燃えてっ!」
恐怖のあまり、みゆの体内から過剰な魔力が再び爆発的に膨れ上がっていく。
亮「みゆ! 待て、それ以上は身体が保たないぞ!」
だが、パニックに陥ったみゆの耳には、亮の切実な声すら届かない。
みゆ「嫌なの! 虫なんて嫌なのぉぉっ!」
ドカンッと炎が弾ける。
あんな「来るなぁぁぁっ!」
ズバァンッ!!
大地が砕け散る。
迫り寄る巨大イモムシが空へ吹き飛んでいく。
だが、その攻撃には普段のような精密な狙いや冷静な計算など一切なかった。
ただただ、近くへ寄ってくる不快な虫を撃ち払うためだけに振るわれる、暴走した力。
それだけだった。
ベアトリス「お姉さま方、わたくしも……火炎剣!」
あんな「無理ぃぃっ! 近寄らないでぇっ!」
みゆ「嫌ぁぁぁっ! 虫は全部消えてぇっ!」
もっふる「ピィー!」
亮「二人とも、一旦落ち着けって!」
それでも二人のパニックは止まらない。
黒煙の向こうから、巨大イモムシが一匹、また一匹と無情にも這い出てくる。
その群れの向こうに風が吹き、立ち込めていた煙がふっと薄れていく。
そこに、二つの人影が佇んでいた。
亮「……!」
一人は、見覚えのある長身の男、グラファイト。
そして、その隣。
亮の全く知らない、底知れぬ雰囲気を纏った男が静かに立っていた。
男は、黒く燃え残った地面と蠢く虫たちを悠々と眺めながら、不気味に唇を歪めた。
???「随分と派手にやってくれましたね」
亮「……お前たち……」
二人の足元を、なおも巨大なイモムシが這っていく。
あんな「いやぁぁぁっ!」
みゆ「来るなぁっ!」
二人の無軌道な攻撃が、再びあらぬ方向へ飛んでいく。
謎の男は、その凄惨とも言えるパニックの光景を面白そうに眺めた。
???「なるほど。これが『対神崎家』の切り札ですか」
グラファイト「……そうだ」
男が足元を這う巨大イモムシへ冷ややかな目を向ける。
???「まあ、これだけの数を用意するのも、なかなか骨の折れる作業でしたがね」
亮「……お前たちが、これを仕組んだのか……?」
グラファイト「……」
亮「答えろ!」
グラファイト「……お前に答える必要はない」
亮「いつもいつもコソコソと……一体何者なんだ、お前たちは!」
グラファイト「……」
???「くっくっ……随分と威勢のいい、うるさい男ですね」
亮「なんだと……!」
亮の表情が一気に険しくなる。
娘たちを追い詰めた元凶を前に、静かな怒りが胸の奥で渦巻いていく。
???「そんなに肩肘張って警戒しなくてもいいでしょう」
亮「警戒するに決まってるだろ! 娘たちをこんな目にあわせて!」
???「そうですか。随分と慎重ですね」
亮「お前は誰だ! 名乗れ!」
???「まあ、名前ぐらいは教えて差し上げましょう。ですが、名前を聞く前に、娘さんたちを心配した方が良いのでは?」
底意地の悪い笑みを浮かべる。
亮が思わず振り返って娘たちを見る。
あんな「来ないで! こっち来ないでぇっ!」
みゆ「いやぁぁぁっ!全部燃やします! 視界に入るの全部です!」
みゆの周囲で、制御を失った炎が再び激しく膨れ上がる。
ベアトリス「あのお二人がこのような姿に……! もう、あの素晴らしい剣技も美しい魔法もいつもとは違いますわ……!」
あんな「いやぁぁぁーっ!」
ベアトリス「わたくしがもっとしっかりしてお二人をお守りしなければいけませんわ! 行きますわ! 火炎剣!!火炎剣ですわ!! 」
ベアトリスも必死に剣を振り回している。
その横で、あんなとみゆはまだ半狂乱のまま叫び続けていた。
目の前の地獄絵図に、亮の血が引いていく。
亮「……娘たちを、こんな目に遭わせるために……あの綺麗な蝶まで殺して使って……罪のないイモムシたちまでも……! 許せんぞ、お前たち……!」
亮の拳が、血が滲むほど強く握り締められる。
その混乱のさなか、グラファイトが静かに口を開いた。
グラファイト「……あいつの立てた作戦は、予定通りだ」
???「そのようですね……こういうことに関しては……」
亮「……あいつ? あいつとは誰のことだ!」
グラファイトはそれ以上、何も言おうとしない。
亮は目の前の二人を交互に睨みつける。
グラファイト。
そして、新しく現れたもう一人。
亮「……」
これまでに出会った者たち。
目の前にいる男たち。
そして、まだ姿すら見せていない「あいつ」。
亮の中に、確かな不気味さと一つの疑念が生まれる。
こいつらは決して単独で動いているわけではない。
組織的に、神崎家を狙って仕掛けてきている。
一体、敵は何人いるんだ!
ザザザ……。
巨大イモムシがまた一匹、一匹と地面を這ってきた。
あんな「いやぁぁぁっ!」
みゆ「来ないでぇぇぇっ!」
二人の暴走した魔力と剣技が、再び戦場を狂乱の渦へと叩き落としていく。
爆炎と斬撃、そして悲鳴が交錯する中で、盆地の戦況はさらなる混乱へと突入していった。
こうして――
現れたグラファイトともう一人。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は
未曾有のパニックに包まれたまま、次なる局面に巻き込まれていくのだった。
いくら撃破しても湧き出る無限イモムシの群れに、あんな・みゆ・ベアトリスが完全沈黙。
神崎家の誇る最強戦力がことごとく倒れ、かつてない絶体絶命の危機が襲いかかる……。
しかし、愛する娘たちを恐怖に陥れた敵を前に、パパの静かな怒りがついに一線を超える。
次回、第295話 え、パパが勇者!? 神崎家完全崩壊!? 絶体絶命の戦場で静かに覚醒する最強パパ!?




