第292話 え, パパが勇者!? 盆地を覆う白い大群!? 限界突破した姉妹の悲鳴!?
地面にそっと下ろした、美しい蝶の死骸。
その周囲の草むらが、一斉に不穏な音を立てて揺れ始めた。
――ザザザザザッ!
亮「……今の何だ?」
あんな「パパ……」
みゆ「嫌な予感しかありません。周囲から何かが接近しています」
ベアトリス「また、虫ですの?」
もっふる「ピィー!」
もっふるが毛を逆立て、小さく身を縮める。
神崎家一行は即座に武器を握り直し身構える。
すると、盆地の端にある鬱蒼とした草むらから、何かがゆっくり姿を現した。
白く、丸々とした身体。
そして体長三メートルほどもある巨大なイモムシ。
一度は完全に殲滅させたはずのイモムシが、また現れた。
あんな「……」
みゆ「……」
それを見た瞬間、あんなとみゆの動作が完全に固まった。
二人の瞳から、すうっと生気が失われていく。
巨大イモムシは神崎家には見向きもせず、中央に置かれた蝶へ向かうようにゆっくりと這っている。
ベアトリス「またですわ! また出てきましたわ!」
亮「一匹だけなら、倒すのもそんなに大変じゃないけど……」
――ザザッ。
別の草むらが激しく揺れた。
亮「……そんな訳ないか」
二匹目が草をかき分けて姿を現す。
その巨大イモムシも、一心不乱に中央へ向かって這ってくる。
さらに――ザザザッ。
三匹。四匹。五匹。
次々と、同じ姿をした巨大イモムシが姿を現していく。
あんな「……」
みゆ「……」
亮「ちょっと待て」
盆地のあちこちで草が揺れている。
そこから、次々と巨大な白い身体が湧き出すように姿を現す。
一匹。二匹。十匹。
それだけではない。
さらに奥からも、巨大イモムシが這い出てくる。
そのすべてが、中央に置かれた蝶の周囲へと集まっていく。
亮「……多すぎないか!?」
ベアトリス「まだ増えていますわ! どこからこんなに湧いてくるのですの!」
巨大イモムシたちは、神崎家に攻撃を仕掛けるような特別な動きを見せるわけではない。
ただ、地面を這っている。
三メートルもある巨体を揺らし、ゆっくりと中央へ向かって進んでいく。
地面を埋め尽くす白い波。
中央に置かれた蝶の周囲は、あっという間に巨大イモムシで埋め尽くされていった。
亮「……やっぱり俺たちを敵だと思って襲ってきたわけじゃなくて、あの蝶のところへ集まって来ているのでは……」
みゆ「そんなことはどうでもいいです。虫です。この世から滅ぼす対象です」
あんな「みゆの言う通り……」
あんなの手が、ガチガチと小刻みに震えている。
剣を握る指先に力が入らず、爪が白く変色していた。
亮「いや、でもこいつら自身には罪はないというか……」
みゆ「無理です……理屈じゃ、ありません…… 」
あんな「…………」
中央に置かれた蝶。
その周囲を蠢きながら埋め尽くしていく、巨大なイモムシの群れ。
そのひとつひとつが、あんなとみゆの精神を削り落としていく。
あんな「……みゆ」
みゆ「……はい」
あんな「これ……」
みゆ「……はい」
あんな「いっぱい、いるよね?」
みゆ「……います。私の……視覚データと心理的許容量を……大幅にオーバーしています…… 」
また一匹。
その向こうの草むらから、さらに一匹。
そして、その奥からも。
見渡す限り、白い巨大イモムシが盆地を覆い尽くしている。
退路も、逃げ場もない。
どこを見ても、蠢く巨大な虫の肌が視界に入ってくる。
あんな「…………」
みゆ「…………」
青ざめた二人の額から、冷や汗がポロポロとこぼれ落ちる。
膝がガクガクと震え、立っていることすら危うい。
亮「二人とも、大丈夫か?」
返事がない。
亮「……あんな? みゆ?」
あんな「……もう……無理」
みゆ「……私も……限界です…… 」
亮「え?」
あんな「こんなの……っ」
みゆ「無理です……生理的に不可能です……」
二人の顔から、いつも見せる頼もしい余裕が完全に消え去っていた。
普段なら、どれほど凶悪な超級の魔物が現れようとも、冷静に剣を振るい、魔法で一蹴してみせる二人だ。
だが目の前に広がるのは、三メートルもある巨大なイモムシの海。
一匹や二匹ではない。
何十匹、いや、百匹を超えているかもしれない。
そして、その数は今この瞬間も、不気味な地鳴りとともに増え続けているのだ。
呼吸すら浅くなり、過呼吸気味に胸を上下させる姉妹。
あんな「……いや……もう見たくない……嫌だ……っ!」
みゆ「……見たくありません……視界を遮断したいです……」
亮「二人とも……っ」
ベアトリス「お姉さま方、しっかり気をお持ちくださいですわ!」
もっふる「ピィー!」
そのとき。
中央の蝶の周囲で、さらに草むらが地鳴りのような音を立てて大きく揺れた。
――ザザザザザッ!
さらに新しく、巨体を揺らした巨大イモムシが何匹も姿を現す。
あんな「……もう嫌ぁぁぁぁぁっ!」
みゆ「無理ですぅぅぅぅっ!」
なりふり構わぬ二人の悲鳴が、山々に切なく響き渡った。
こうして――
中央の蝶に集まり続ける大量の巨大イモムシを前に、神崎家の誇る二大戦力は戦意を完全に喪失してしまった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
絶望的なパニックと共に続いていくのだった。
生理的拒絶1000%の白い巨大イモムシが無限に湧き出す大惨事。
パニックで正気を投げ打ったみゆの超絶爆炎『インフェルノ・エクスプロージョン』と、あんなの連続『大地斬』が盆地ごと全てを焼き尽くす。
パパの必死の制止も虚しく、絶叫と殺気が渦巻く戦場で無限増殖する悪夢を撃ち払え。
次回、第293話 え、パパが勇者!? 虫嫌い姉妹、限界突破!? 業火と大地斬で巨大イモムシを焼き尽くせ!?




