第290話 え、パパが勇者!? 地獄の業火と大地斬!? 生理的拒絶で覚醒した最強姉妹!?
神崎家の一行は、静寂に包まれた盆地の中央を目指して足を進めていた。
全周を険しい切り立った山々に囲まれた、巨大なすり鉢状の平地。
その中央にあるという、みゆが捉えた謎の場所へ向かって、警戒しながら歩いていく。
亮「みゆ、まだ反応はあるか?」
みゆ「はい。中央付近から動いた気配はありません」
亮「よし、じゃあこのまま行ってみよう」
あんな「何が置いてあるんだろうね……」
みゆ「現状ではデータが不足しているため判断できません」
ベアトリス「近くまで進めば判明いたしますわ!」
もっふる「ピィー♪」
しばらく歩いた、そのときだった。
盆地の草が、一斉に大きく揺れた。
――ザザザザザッ!
あんな「……え?」
草の間から、白く丸々とした巨大な身体がぬっと姿を現す。
亮「うわっ!」
体長は三メートルほど。
節のついた丸々と膨らんだ白い身体。
側面でワサワサと蠢く無数の短い脚。
そして、ぬらぬらと光る大きな頭部。
それは、規格外に巨大なイモムシだった。
一匹
二匹。
それだけにとどまらず、草むらの至るところからガサゴソと音を立て、次から次へと近寄ってくる。
あんな「いやぁぁぁぁぁっ!」
みゆ「何でいるんですかぁぁぁっ!」
普段なら、どんな凄惨な魔物が現れても冷静に対応する二人が、なりふり構わず完全に取り乱して悲鳴を上げた。
あんな「虫! 虫です! パパ、虫ぃぃぃ!!」
みゆ「無理です!視界に入れることすら生理的に不可能です!」
亮「いや、イモムシだけど……」
あんな「だけどじゃないよ!」
みゆ「虫です。しかも三メートル級の肥大化した虫です!」
巨大イモムシが、ゆっくりとこちらへ向かって這い寄ってくる。
あんな「来ないでぇぇぇ!」
みゆ「近づかないでください!」
亮「二人とも落ち着けって――」
みゆ「この世の全てを吹き飛ばして灰にします」
みゆが前方にバッと手を伸ばす。
あんな「みゆ! やっちゃって!一匹残らず滅ぼして!」
みゆ「任せてください! 地獄の業火で焼け死になさい!」
みゆの頭上に、通常の魔法とは到底思えない、規格外すぎる巨大な火球が膨れ上がる。
亮「落ち着けって!威力がデカすぎる!」
みゆ「《インフェルノ・バースト》(地獄の業火) 」
ゴォォォッ!
暴風とともに吹き荒れた凄まじい炎が、巨大イモムシを一瞬で包み込む。
肉の焦げる匂いすら残さず、巨大イモムシは一瞬で灰へと変わった。
亮「ちょっとやりすぎでは……」
みゆ「そんなことはありません。正当防衛かつ完全なる害虫駆除です」
あんな「そうだよ! 虫に対する妥協は一切不要!」
亮「いや周りの自然が……まあ、仕方ないか……」
みゆの一撃により、周囲の一面は見る影もなく黒こげの焼け野原と化していた。
だが。
――ズズズズズ……。
あんな「え?」
焦げ付いた地面の先で、再び草むらが大きく動いた。
亮「まだいるのか?」
一匹、さらにもう一匹。
焼け焦げた煙の向こうから、巨大なイモムシが次々と這い出てくる。
あんな「いやぁぁぁぁぁ!」
みゆ「まだいるんですかぁぁぁ!」
亮「ちょっと待て!」
あんな「この世に存在してはいけないぃぃぃ!」
今度はあんながなりふり構わず剣を振り回す。
あんな「大地斬!!!!」
一閃のもとに大地が激しく引き裂かれ、凄まじい衝撃波が巨大イモムシを粉砕して吹き飛ばす。
みゆ「《インフェルノ・バースト》」
ゴォォォッ!
続いて放たれた灼熱の炎が、別の巨大イモムシを呑み込んで焼失させる。
さらにもう一匹。
あんな「いやぁぁぁ!大地斬!!」
みゆ「《インフェルノ・バースト》」
次々と巨大イモムシが倒れていく。
いや、倒れていくというレベルではなかった。
もはや消滅に近い。
亮「……」
ベアトリス「……」
あっという間の出来事だった。
数匹いたはずの巨大イモムシは、またしてもすべて灰になって消えていた。
あんな「……ハァ……ハァ……」
みゆ「……ふぅ……」
二人は荒い息を吐きながら、イモムシがいなくなったことでようやくいつもの冷静さを取り戻しつつあった。
亮「大丈夫か?」
あんな「……もう、二度と見たくない……」
みゆ「私もです……生理的拒絶反応が限界値を超えました……」
亮「でも、なんでこんなところにイモムシがいるんだ?」
みゆ「……」
みゆが即座に周囲を再確認する。
みゆ「おかしいです」
亮「何が?」
みゆ「先程まで、ここには生体反応が一切認められませんでした」
亮「ああ、さっきそう言ってたよな」
みゆ「それなのに、湧き出すように現れました」
あんな「……偶然?」
みゆ「その可能性もあります」
少し間を置いて、みゆが表情を引き締めながら続ける。
みゆ「ですが、私は偶然とは考えにくいと結論付けます」
あんな「……そうだよね。これは私たちに対する宣戦布告だよ」
亮「いや……そこまで大袈裟に考えなくても……」
あんな「全然大袈裟じゃないよ」
みゆ「そうです。虫は滅ぼす。それだけです」
亮は、今まで通ってきた暗い地下通路をゆっくりと振り返った。
通路の深奥までは見えない。
ただ、地下深くからずっと続いていた一本の通路。
そして、その先にぽっかりと広がっていたこの盆地。
亮「ここに誘い込まれたのか?」
あんな「……」
みゆ「……その可能性はあります」
ベアトリス「地下通路そのものが、わたくしたちをこの場所へ向かわせるための誘導路だった……ということですわ!」
もっふる「ピィー!」
亮は周囲を見回した。
全周を切り立った山に囲まれた脱出困難な盆地。
中央へ向かった途端に湧き出すように現れた、巨大イモムシ。
偶然にしては、あまりにも出来すぎている。
亮「……やばい予感がする」
その時、どこからともなく、低い声が響いた。
???「……間違いない」
亮「!」
あんな「今の声……?」
みゆ「どこからですか?」
ベアトリス「姿が見えませんわ!」
もっふる「ピィー!」
神崎家は一斉に武器を構え、周囲を激しく警戒する。
だが、どれだけ目を凝らしても、周囲には風に揺れる木々があるだけで誰の姿もない。
声の主が一体どこから語りかけているのかすら
察知できなかった。
亮「誰だ!」
返事はない。
ただそこには、不気味なほど静かな盆地だけが広がっていた。
こうして――
イモムシの群れを撃退した神崎家に届いたのは、姿なき不気味な声だった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
さらなる怪しさと波乱を孕んで続いていくのだった。
広大な盆地にぽつりと佇む、無惨に吊るされた巨大な美しい姿……。
命を弄ぶ惨い罠の真相に怒りを燃やす神崎家に、さらなる地響きと不穏なざわめきが襲いかかる。
悲しみと怒りが交錯する中、絶叫と覚醒を繰り返す最強姉妹は恐怖を乗り越え真の敵を討てるのか。
次回、第291話 え、パパが勇者!? 無惨に吊るされた美しき犠牲者!? 悲しみと怒りの神崎家!?




