第285話 え、パパが勇者!? 暗闇から無数の足音!? 狂暴化した魔物の群れが押し寄せて大ピンチ!?
魔物が地を蹴り、荒い息を吐きながら直進してくる。
あんな「来るよっ!」
みゆ「お姉ちゃん、左へ!」
あんなが左側へと大きく身体を躍らせた。
直後、空気を切り裂く鋭い爪が、あんなの鼻先かすか数センチをかすめて通り過ぎていく。
あんな「危なっ……! ほんと、容赦ないんだから!」
あんなは着地と同時に素早く距離を取ったが、魔物は足を止める気配すら見せない。
強引に地面を踏み荒らして向きを変えると、ターゲットをあんなに絞ったまま、再び猛然と突っ込んできた。
あんな「しつこいってば!」
ベアトリス「お姉さま、一旦下がってくださいですわ! ここはわたくしが――火炎剣!」
ベアトリスが赤々と燃え上がる炎の剣を力任せに振り下ろした。
ガンッ!
甲高い金属音が響き渡る。
魔物は頑丈な爪でベアトリスの刃をガッチリと受け止めてみせた。
ベアトリス「くっ……! なかなかの腕力ですわ!」
押し潰されんばかりの力で押し返してくる相手に対し、ベアトリスはぐっと奥歯を噛み締めて踏みとどまり、そのまま強引に剣を横へ薙ぎ払う。
一瞬の隙を突かれ、魔物が後ろへと大きく跳び退いた。
みゆ「そこです! ファイア!」
みゆの掲げた杖の先から、真っ赤な火球が弾丸のような速度で放たれる。
しかし魔物は宙で奇妙に身をひねり、間一髪でその火撃を回避してみせた。
みゆ「……また避けられました。運動性能が通常個体を超越しています」
亮「うわ、あの巨体でかなり動くなぁ……!」
後ろで見守る亮が思わず感嘆の声を漏らす。
みゆ「お姉ちゃん、今です!」
あんな「了解!」
みゆの合図と同時に、あんなが一気に地面を蹴り上げた。
一瞬で魔物との距離が縮まる。
あんなは手にした剣の柄を強く握り直した。
胸の奥から湧き上がる、あの不思議な感覚。
大地斬。
あんな「……っ」
しっかりと深く踏み込む。
だが、あんなは途中でわずかに息を整え、技の発動を見送った。
まだこの能力を完全に掌握できているわけではない。
無闇に使って隙を晒すわけにはいかないのだ。
あんな「……焦っちゃダメ、まずは確実に!」
あんなは通常通りの綺麗な軌道で剣を振り下ろした。
ガキン!
硬質で重厚な手ごたえと共に、刃が魔物の側腹部を捉える。
衝撃で魔物が大きくよろめき、その脚元がガクガクと震えた。
あんな「今度こそ……決める!」
完全に体勢を崩した絶好の好機。
そこへ、炎を全身にまとわせたベアトリスが猛烈な勢いで躍り出た。
ベアトリス「全力全開ですわ――っ!」
燃え盛る炎の刃が、宙を裂いて魔物の胸元へ迫る。
魔物が必死に首を振り向けようとするが、もはや間に合わない。
ベアトリス「そこですわぁぁっ!」
ズバァン!
眩い火花とともに、炎の剣が魔物の巨体を鮮やかに斬り裂いた。
魔物は悲鳴をあげる暇もなく、豪快に後ろへと吹き飛ばされる。
ドン!
重い音を立てて床へ倒れこんだ魔物はやがて静まり返った。
あんな「……た、倒した……よね?」
みゆ「確認します」
みゆが静かに歩み寄り、杖の先で慎重に魔物の状態を観察する。
みゆ「心拍・魔力反応ともに途絶しました。倒れています」
ベアトリス「ふぅ……これでひとまずは安心ですわね!」
あんな「……ふぅ、冷や冷やしたよ」
あんなは肩の力を抜き、剣を鞘へと収めた。
亮「みんな、怪我はないか? すごい連携だったぞ!」
亮が声をかけながら近寄ってくると、娘たちはそれぞれ笑みを返した。
あんな「うん、大丈夫! パパこそ後ろで怖くなかった?」
ベアトリス「わたくしもかすり傷一つありませんわ!」
みゆ「問題ありません。……ですが」
亮「ん? どうしたみゆ?」
もっふる「ピィー♪」
みゆだけは真面目な表情を崩さず、倒れた魔物を見下ろしていた。
みゆ「やはり、異常です」
ボルグ「……さっきも言っていたな」
みゆ「このホールモールという個体は、本来であれば暗がりでおとなしく生息する性質を持っています。自発的に人間に襲いかかるような凶暴性は持ち合わせていません」
あんな「でも、猛スピードで突っ込んできたよ」
ベアトリス「こちらが構える前から凄まじい敵意を剥き出しにしていましたわ!」
ノルク「何らかの外因によって興奮状態に陥っているのでしょうか……?」
みゆ「その可能性も考えられます」
亮「何に興奮してるんだろ? 美味しいご飯の匂いでもしたのかな」
あんな「こんな地下の通路でご飯の匂いがするわけないでしょ、パパ!」
みゆ「魔物自体の生態や構造に変異が見られるわけではありません」
グルム「なら、興奮させている原因は『この場所』そのものにあるということか?」
みゆ「そう考えるのが最も合理的です」
ボルグ「この回廊に、何か特殊な罠か仕掛けでも施されているというのか……」
ノルク「あるいは……封印の扉が開かれた影響でしょうか」
亮「扉が開いたことで、中の魔物が暴れ出しちゃったのかな」
みゆ「十分あり得る仮説です」
あんな「うーん、じゃあやっぱり、この奥になにか恐ろしいものが隠されてるってことかな」
グルム「……」
グルムは腕を組み、重苦しい沈黙を保ったまま通路の先を睨み据えていた。
亮「グルムさん?」
グルム「……正直に言えば、俺たちドワーフもこの先に何が存在するのかは知らん」
ボルグ「ああ。古代の封印扉の奥に、これほど長い回廊が隠されていたことすら初耳だったからな」
ノルク「それなのに、本来おとなしいはずの魔物が徘徊し、狂暴化している……」
みゆ「そこに解き明かすべき鍵があります」
ベアトリス「原因を突き止めるためにも、進むしかありませんわ!」
グルム「……そうだな」
グルム「ここまで来て引き返す選択肢はない」
ボルグ「扉が開いていた理由も、調査を途中で投げ出しては分からんままだ」
ノルク「内部に何者かが侵入した痕跡も含め、確かめる必要があります」
亮「よし、じゃあみんなで気をつけながらもう少し先を調べてみようか」
あんな「うん!」
みゆ「各自、警戒レベルを最大に保ってください」
ベアトリス「お任せくださいですわ!」
一行は再び隊列を組み、ゆっくりと歩みを進め始めた。
横たわる魔物の横を通り抜け、深く暗い回廊の先へ。
しばらく歩を進めると、周囲の空気は不気味なほどの静寂を取り戻していた。
亮「……さっきまで騒がしかったのに、急に静かになったなー」
あんな「逆にしーんとしすぎてて気持ち悪いよ」
みゆ「静寂すぎることが、かえって危険信号となります」
ボルグ「いつ次の魔物が飛び出してきてもおかしくないからな」
亮「ボルグさん、そういう不吉なフラグみたいなこと言うと、本当に何か出てきちゃうぞー?」
ボルグ「ふ、フラグとは何だ!? 俺はただ経験上の事実を言っただけだぞ!」
ベアトリス「ですが、わたくしも少々嫌な胸騒ぎがいたしますわ……!」
もっふる「ピィー……!」
みゆ「……待ってください。何か……聞こえませんか?」
みゆの制止で、全員がピタリと足を止める。
亮「ん……? 何も聞こえないけど……」
亮が首をかしげるが、みゆの研ぎ澄まされた視線はまっすぐに闇の奥へ注がれていた。
みゆ「……足音です。気配が急速に近づいています」
グルム「俺たちは後ろに!」
指示に従い、ドワーフの三人が素早く後方へ退く。
前面にはあんな、みゆ、ベアトリスの三人が並び立った。
カツ……。
薄暗い闇の底から、硬い爪が地面を打ち鳴らす音が響いてくる。
一つ。
二つ。
……いや、それだけではない。
カツカツカツカツ……!
重なり合う無数の足音が、恐ろしい勢いで回廊を響かせて接近してくる。
あんな「……嘘でしょ、一匹どころじゃないよ!?」
みゆ「はい。複数……いえ、群れです!」
ベアトリス「かなりの数が来ますわ!」
ノルク「そんな、これほどの数が一度に動くなんて……!」
あんながキリッと表情を引き締め、剣を構え直す。
みゆの杖が魔力を帯び、ベアトリスの剣が燃え上がるような紅蓮の炎を纏った。
亮「みんな、焦らずにいこう! しっかり前を見て!」
暗闇の深淵から、うごめく影が幾重にも重なり合いながら姿を現した。
あんな「またホールモール……!?」
みゆ「こんな数が押し寄せてくるなんて……!」
ベアトリス「押し潰される前に迎え撃ちますわ!」
闇を打ち破り、赤く血走った目を輝かせた無数の魔物たちが、一斉に襲いかかってきた。
こうして――
狂気と化した魔物の群れが押し寄せる極限の事態。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)に、
封印の回廊が秘めた真の脅威が容赦なく牙を剥こうとしていた。
絶体絶命の魔物の大群を相手に、三姉妹の完璧すぎる連携&あんなの新技『大地斬』が完全覚醒。
パパが後ろで見守る(だけ!?)なか、死角をかばい互いに背中を託し合う絆が暗闇を切り裂く!?
次回、第286話 え、パパが勇者!? 大地斬が炸裂!? 三姉妹完璧連携と背中を託し合う絆!?




