第283話 え、パパが勇者!? 封印の先で魔物急襲!? あんなの覚醒新技『大地斬』炸裂!?
暗闇の奥から凶暴な咆哮をあげ、怒涛の勢いで雪崩込んでくる魔物の群れ。
あんな「来ます!」
亮「ドワーフのみんなは後ろに!」
グルム「頼んだ」
ボルグ「任せたぞ!」
ノルク「は、はいっ!」
亮の指示に従い、三人のドワーフがすぐさま後方へと下がる。
あんな「ここは私たちに任せて!」
みゆ「鑑定……ホールモール。Cランク、体長1〜1.5メートルほどの大型モグラです。目立った特殊能力はありませんが、爪と突進力に注意してください」
ベアトリス「お任せくださいですわ!」
亮「みんな、絶対に無理はするなよー!」
あんな「分かってるよ!任せて!」
先頭のホールモールが地面を強く蹴り、大きく跳び上がった。
ドン!
重い着地音とともに床へ叩きつけられた勢いのまま、弾丸のような速度で神崎家へ突っ込んでくる。
あんな「くっ、速い……!」
みゆ「来ます!」
ベアトリス「はぁぁっ! 火炎剣!」
鮮烈な炎を纏ったベアトリスの刃が暗闇を切り裂き、迫り来る魔物を一刀両断にした。
ベアトリス「ふぅ……そこまで強力な個体ではありませんわ!」
みゆ「……ファイア!」
みゆの手先から放たれた火球が、後続の魔物の足元へ直撃する。
不意を突かれた魔物が、大きく体勢を崩してよろめいた。
あんな「今だっ!」
あんなが速やかに地面を蹴って駆け出す。
両手で固く握りしめた剣を一直線に振るい、よろめいた魔物を速やかに斬り伏せた。
あんな「よし、大丈夫。十分対応できる!」
あんなが一度素早く後ろへ飛び退き、呼吸を整える。
だが、倒れた個体を飛び越えるようにして、別の魔物があんなへ向けて一直線に突進してきた。
亮「あんな!」
みゆ「お姉ちゃん!」
あんな「任せて!」
その瞬間、あんなの手元で剣を握る力が増した。
胸の奥深く、どこか懐かしい場所から不意に浮かんできた感覚。
これまで使ったことなんて一度もない。
誰かに教わったわけでも、練習したわけでもない。
あんな「……大地斬」
思考より早く叫ぶと同時に、吸い込まれるように剣を振り下ろしていた。
ズバァン!
地面を駆け抜けた衝撃波が突進してきたホールモールを捉え、一撃で弾き飛ばす。
あんな「今の……何……?」
叫んだあんな自身も、自らの手元を見つめて目を見開いていた。
みゆ「お姉ちゃん……?」
あんな「分かんない……でも、頭の中に『こう振る』ってイメージが……!」
そこへ、さらにもう1体の魔物が咆哮をあげて迫ってくる。
あんな「……これならいける!」
あんなが再び剣を上段に構え、踏み込んだ。
あんな「大地斬――っ!」
ズバァン!
全身の踏み込みを刃へと乗せ、一直線に振り下ろす。
剣先が空気を裂くと同時に、地面を走る不可視の衝撃波が一直線に伸びていく。
直撃を受けた魔物の足元が大きく揺らぎ、その巨体が力なく宙へと浮き上がった。
グシャッ!
豪快な衝撃音とともに床へ叩きつけられた魔物は、二度と動かなくなった。
亮「……」
あんな「……」
みゆ「……」
ベアトリス「……」
グルム「……今のは、一体……?」
ボルグ「刃の振り下ろしに合わせて……地面から衝撃波が走ったぞ……!?」
ノルク「魔力の放出……ではありませんね。魔法の領域とは根本的に術式が違います」
みゆ「はい。魔力の波形ではなく、物理的な振動の伝播に近い現象です」
あんなは呆然としたまま、自分の手の中にある剣を見つめていた。
あんな「私……こんな技、持ってたっけ……?」
亮「俺も聞いたことないぞ。いつの間に覚えたんだ?」
あんな「だよねぇ……」
みゆ「お姉ちゃんが、たった今初めて発動させた技です」
ベアトリス「ですが、初めてとは思えないほど無駄のない、見事でしたわ!」
あんな「自分でも本当に分からないの。ただ……頭の中に、急にやり方が浮かんできて」
亮「頭の中に?」
あんな「うん。『こう振り下ろせばいい』って……考える前に分かっちゃったの」
みゆ「技の理そのものを、脳がダイレクトに理解していたということですね」
あんな「たぶん……体が勝手に動いた感じ」
亮「うーん、不思議なこともあるもんだなぁ」
グルム「……」
険しい表情のグルムが、倒れたホールモールへゆっくりと近づく。
グルム「……何にせよ、確実に倒してはいる」
ボルグ「一撃だったな。大した威力だ」
ノルク「これほどの衝撃を剣技で生み出すなんて……」
みゆ「かなり強力ですね。『無拍剣』に続く、お姉ちゃんの新しい固有技と言えます」
あんな「そっか……」
あんなが自分の手のひらをそっと見つめながら、小さく呟く。
あんな「これ……狙ってまた使えるのかな」
みゆ「再現性については、一度使えたからといってすぐに断定はできません」
あんな「そうだよね……」
亮「大丈夫だって。あんななら必要なときにまたパッと使えるさ」
あんな「……うん」
グルム「それより、先へ進む前に一つ確認しておきたい」
亮「何をです?」
グルム「この魔物だ」
グルムが足元の魔物を靴の先で軽く突いた。
グルム「俺たちの知っている通常のホールモールとは、どこか気配が微妙に違う気がするのだ」
ノルク「この場所にいた理由も分かりません」
みゆ「……」
みゆがしゃがみ込み、魔物を分析する。
みゆ「最初に鑑定した通り、種族としてはホールモール。Cランクで個体としての特殊能力はありません」
しばらくの間、静かに観察を続けていたみゆが立ち上がった。
亮「じゃあ、ただの迷い込みか?」
みゆ「分かりません」
みゆは暗くどこまでも続く通路の奥へと向けた。
みゆ「ノルクさんの懸念通り、ここに魔物が存在すること自体が不自然です。封印の扉は、昨日まで閉ざされていました」
ベアトリス「そうですわ! 外部から侵入できるはずがありませんわ!」
みゆ「ええ。それなのに、こうして内部に魔物がいる」
グルム「つまり……この魔物がどこから湧いて出たのかすら判明していないということだ」
ボルグ「奥から……封印のさらに向こう側から流れてきたのかもしれんぞ」
亮「だったら、この先にまだ同じようなのがいる可能性も高いな」
全員の視線が、再び通路の奥へと集まった。
先ほど魔物の群れが飛び出してきた暗闇。
そこから先も、異様なほど整然とした直線通路が果てしなく続いている。
亮「……気を引き締めて進もうか」
あんな「うん」
みゆ「警戒度を一段階引き上げます」
ベアトリス「お任せくださいですわ!」
グルム「行くぞ」
一行は再び、静まり返った一本道の奥へと足を進め始めた。
あんなは歩きながら、柄にしっくりと馴染む自分の剣を、もう一度だけ強く握り直した。
こうして――
自分でも思いがけない新技『大地斬』を繰り出したあんなだったが、封印の先にはまだまだ多くの謎が眠っていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
古の回廊のさらなる謎へと足を踏み入れていくのだった。
一本道で畳みかける本来おとなしいはずの魔物の異常な連続強襲。
その不自然な牙の裏に潜むのは、何者かによる“見えない誘導”。
娘の冷徹な分析が、深淵に潜む黒幕の存在を鮮烈に炙り出す。
次回、第284話 え、パパが勇者!? おとなしい魔物が連続強襲!? 娘の鋭い考察で見えない黒幕発覚!?




