第280話 え、パパが勇者!? 迷子確率112%のFランクパパ!? 緊張感ゼロでスルーされる!?
広大な地下都市の路地を抜け、一行は隊長のグルムを先頭に、昨日亮たちが足を踏み入れた坑道エリアへと向かっていた。
グルム「地下の坑道は見た目以上に道が入り組んでいる。案内なしで進めば、ベテランでも二度と戻れなくなることがあるからな。逸れることはないと思うが、勝手な単独行動は絶対に慎んでくれ」
あんな「パパ、聞いた? 分かった?」
みゆ「パパ、くれぐれも気を付けてくださいね」
亮「え? なんで二人とも俺ばっかり見るんだ……?」
あんな「だってパパ、どこでも迷子になってるでしょ」
亮「いやいや、迷子にはなってないぞ? ちょっと散歩の範囲を広げていただけだ」
みゆ「客観的な計算では、112%の確率で迷子になっていました」
ベアトリス「どこへ行っても素敵な景色ばかりで、とっても楽しかったですわ!」
グルム「……よくそんな状態で今まで無事だったな……」
グルムが心底驚いたといった表情を浮かべる。
ボルグ「特に古い坑道は注意が必要だ。昔の採掘跡が無造作に残っている場所も多い」
あんな「あ、確かに昨日通った道にもありました」
ボルグ「そういう場所は地盤が脆く、いつ崩れてもおかしくない。足元には細心の注意を払うんだ」
亮「なるほどなぁ」
あんな「なるほどじゃないよパパ! 私たち、昨日相当危険なことをしてたみたいだよ!」
亮「まあまあ、結果的に全員無事だったんだから良かったじゃないか」
みゆ「まさに『知らぬが仏』というやつです」
グルム「今回の目的はあくまで封印の確認だ」
みゆ「はい。今回の目的を整理すれば、封印の状態を確認し、異常がなければ速やかに引き返す。それだけです」
グルム「その通りだ。深追いは一切不要だ」
ノルク「私も、扉に到着したらすぐに術式と魔力の記録を取りますね」
みゆ「ええ。残留魔力も一緒に分析しましょう」
ノルク「はいっ!」
二人が専門的な打ち合わせをする横で、ベアトリスが物珍しそうに周囲を見回しながら歩いていた。
ベアトリス「それにしても、地下都市というのは不思議な場所ですわ!」
あんな「うん。地上とは空気も景色も全然違うよね」
亮「最初はちょっと息苦しいかなと思ったけど、案外快適だよな」
もっふる「ピィー♪」
昨日、この先にある重々しい扉の前で感じた、あの振動。
ただの古い地下坑道ではない。
何か不穏なものが眠っていると思わせる気配が、確かに漂っていたのだ。
亮「よし……それじゃあ行こうか!」
あんな「うん!」
みゆ「調査開始です」
ベアトリス「今度は、きちんと確かめますわ!」
もっふる「ピィー」
そんな賑やかな掛け合いを交わしながら、薄暗い坑道をしばらく進んでいく。
やがて、後方から聞こえていた街のざわめきが完全に途絶え、周囲から人の気配が消えていった。
静寂の中、響くのは自分たちの足音だけになる。
ボルグ「……ここから先だな」
亮「昨日も、ここから急に雰囲気が変わったんだよな」
グルム「昨日の報告によれば、この奥に巨大な扉があるんだったな」
亮「ああ。岩壁に埋まるみたいにして建っていたんだ」
グルム「よし。周囲の地盤にも注意しながら進むぞ」
ボルグ「分かった」
一行は慎重に足を前へと出す。
壁面にそっと手を添えながら、ボルグが丹念に周囲の岩肌を確認していく。
ボルグ「今のところ、岩盤の亀裂や落石の兆候はないな」
グルム「崩れている場所もなさそうだな」
ノルク「魔力の反応も、まだ特段の異常値は見られません!」
みゆ「封印の至近距離まで近づけば、詳しい数値が判明するかもしれませんね」
さらに暗がりの中を奥へ奥へと進む。
昨日通った薄暗い一本道を抜け、次第に誰も言葉を交わさなくなった。
先へ進めば進むほど、肌を刺すような冷たい空気が張り詰めていく。
あんな「……すごく静かだね」
みゆ「そうですね。空気の密度が変わってきた気がします」
ベアトリス「風の音すら……何も聞こえませんわ!」
亮「こういうシーンとしたところって、なんだか無駄に緊張するな」
グルム「全員、気を抜くなよ」
亮「そこまで緊張しなくてもいいのでは?」
ボルグ「確かにな。扉の確認をしにきただけだ」
グルム「いかなる時も用心に越したことはない」
亮「グルムさんは真面目だなー」
あんな「パパも少しは見習ってよ」
亮「パパはいつだって真面目だぞ」
あんな「……」
みゆ「……」
亮「おーい!お二人さーん!完全にスルーしないでー」
重苦しい空気になりかけた通路に、神崎家らしい笑い声が軽やかに響いた。
やがて、前方に立ち塞がる巨大な黒い岩壁が見えてくる。
その中央。
壁面に埋め込まれた巨大な二枚建ての扉が、威容を誇っていた。
昨日、神崎家が偶然発見した古の封印の扉だ。
亮「……あった」
あんな「ここだね」
グルム「間違いない、これか……」
ボルグ「近くまで行ってみるぞ」
一行は息を殺し、ゆっくりと扉へ近づいていく。
間近で見ると、その大きさは圧巻だった。
分厚い特殊な金属と岩石で作られ、長い年月を経ていることが一目で分かる。
だが、経年による風化で脆くなっている様子はない。
ただそこにあるだけで、周囲の空気を押し潰すような重厚感を放っている。
ノルク「これが……古の封印の扉……」
みゆ「そうです」
グルム「ではノルク、計測を頼む」
ノルク「はい、まずは封印の状態を確認します!」
みゆ「私もサポートします」
二人が扉へ一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。
みゆ「……え?」
みゆが足を止めた。
亮「どうした、みゆ?」
みゆ「昨日と……違います」
亮「何がだ?」
みゆは無言で、まっすぐに扉の方向を指差した。
みゆ「扉が……」
全員の視線が、暗がりの中に佇む巨大な扉へと一斉に集まった。
昨日。
確かに扉は固く閉ざされていた。
だが。
グルム「……な、なんだこれは……!?」
ボルグ「おい……嘘だろ……」
ノルク「……あ……」
みゆ「封印の扉が……」
かつて何者をも寄せ付けなかった巨大な扉は、もはや固く閉ざされてはいなかった。
扉の中央にわずかな隙間が空いている。
その開いた扉は、まるで誰かを招き入れるかのように暗闇の奥へと続いていた。
亮「……開いてる……」
もっふる「ピィー!」
誰も、すぐには動くことができなかった。
ただ封印の状態を確認し、異常がないかを確かめるために来た。
それだけのはずだった。
なのに、目の前にあるのは、昨日まで確かに閉ざされていたはずの扉。
その開かれた暗闇の先から、冷ややかな風がそっと吹き抜けていた。
こうして――
安全なはずだった調査は、予想だにしない異変によって一瞬にして変わる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)の前に、
謎めいた暗闇が静かに口を開けていた。
絶対に開けてはならない古代の封印が、何者かの手によって完全に崩壊!?
引き返すどころか、真新しい侵入者の痕跡を追ってパパの「トラブルホイホイ」が絶好調に大暴走。
次回、第281話 え、パパが勇者!? 破られた古代の封印と謎の侵入者!? パパの『トラブルホイホイ』が発動!?




