第279話 え、パパが勇者!? 封印の力が弱まって現場は緊迫!? 予防線を張る暇もなくパパの自己紹介暴走!?
王宮へと向かった神崎家の一行は、応接の間へと通された。
扉が開くと、立派な髭を蓄えたドワーフ王が重々しい面持ちで待っていた。
王「来たか」
亮「王様、おはようございます!」
あんな&みゆ「おはようございます」
ベアトリス「おはようございますわ!」
もっふる「ピィー♪」
王「昨日の今日で申し訳ないな。実は、例の地下の件なのだ」
亮「ぜんぜん気にしませんよ! いやぁ、本当に良かったなー」
あんな「本当に良かったね、パパ」
みゆ「ええ。無礼討ちだけは免れました」
ベアトリス「ほっといたしましたわ!」
王「ん? どうしたのだ? 何かあったのか?」
亮「いえいえ! なんでもありませんよー!」
首を振る亮たちを不思議そうに見つめたあと、王は神崎家を見渡すように視線を向けた。
王「昨夜、改めて古い記録を調べさせたのだ」
王の前に置かれた机には、何冊もの古い書物が並べられている。
王「お前たちが見つけた、あの地下の扉についてだ」
みゆ「……あの封印の扉、ですね」
王「そうだ」
王は分厚い記録を一枚、ゆっくりとめくった。
王「詳しい経緯までは書かれていなかった。だが、あの場所が何らかの重大な封印に関わる領域であることは間違いない」
あんな「理由も何も書かれていないのですか?」
王「そうだ。何のために封印を施したのか、扉の向こうがどうなっているのか、一切の記録がない」
亮「じゃあ、昨日俺たちが地下で感じたあの謎の振動も……」
王「それが扉に関係していたかは分からん」
王の表情から、いつもの豪快で穏やかな空気が少し消えた。
王「そして最悪なことに……記録に残されている封印の力が、今も正常に保たれているかも定かではないのだ」
みゆ「……つまり、封印の力が弱まっている可能性がある、ということですか?」
王「そうだ」
その一言で、室内の空気が一気に張り詰めた。
あんな「それなら、早急に現地で状態を確認したほうがいいですね」
王「そうだ。地震の調査も急務だったが、その扉のほうがどうにも胸騒ぎがしてな」
王は部屋の奥へと視線を向けた。
そこには、装備を整えた三人のドワーフが控えていた。
王「そこで今回の調査には、この三人を同行させることにした」
王の呼びかけに応じ、三人が一歩前へ躍り出る。
王「グルム。今回の調査隊の隊長だ。地下坑道を知り尽くしたベテランだ」
グルム「グルムだ。地下のことなら何でも任せてもらおう」
亮「よろしくお願いします!」
王「次に、ボルグ。坑道技師だ。地質や構造の状態を専門的に確認させる」
ボルグ「ボルグだ。地下の安全確認なら私に任せてくれ」
みゆ「よろしくお願いします」
王「そしてノルク。術士だ。封印や、その周辺に残る残留魔力の状態を計測する」
ノルク「ノルクです! 全力で頑張ります! よろしくお願いします!」
あんな「よろしくお願いします」
ノルク「はいっ!」
王「この三人と神崎家で、あの扉の封印状態を確認してきてほしいのだ」
亮「分かりました! それじゃあ、こちらも改めて自己紹介といきましょうか!」
あんな「……パパ、普通の自己紹介でいいからね。本当に普通のでお願いね」
亮「いつも普通の自己紹介だぞ」
あんな「……(すごく嫌な予感)」
みゆ「……(予防線を張る間もありませんでしたね)」
亮「では改めまして! こちらの三人は娘のあんなとみゆ、ベアトリス! うちが誇る世界一の美人三姉妹だ! そしてこっちのがもっふる! 俺は神崎亮!お米の国からやってきた男だ!」
あんな「しまった……! 呆気に取られてる間に全部言われた……! あ、あんなです……」
みゆ「お姉ちゃんの制止ミスですね……みゆです」
ベアトリス「美人三姉妹のベアトリスですわ!」
もっふる「ピィー♪」
王「ハハハ! さすがは神崎家、相変わらず賑やかで素晴らしいな!」
王は豪快に胸を叩いて笑い飛ばす。
グルム「ふっ、これは道中楽しくなりそうだな」
王「では改めて今回の目的を説明する。あの扉の封印に異常がないか確認してくれ。もし異変があれば、深追いせず直ちに報告すること。神崎家のみなには、この三人の護衛も頼みたい」
あんな「ドワーフの皆さんは、てっきり全員お強いのかと思っていました」
王「ハハハ、皆が皆、鍛え上げられた戦士というわけではないぞ。この三人は専門の技師や術士であって、戦闘訓練を受けているわけではないからな」
亮「分かりました。俺たちに任せてください!」
王は力強く頷いた。
王「くれぐれも扉を開ける必要はない。封印に異常がないか、それだけを確認するのだ」
グルム「承知いたしました」
ボルグ「坑道の強度確認も並行して行います」
ノルク「準備完璧です!」
王「それから、昨日見つかった新しい鉱脈については別の調査隊を向かわせる。お前たちは封印の扉だけに集中してくれ」
亮「了解です!」
王「無理に先へ進む必要もない。少しでも危険を感じたら即座に引き返せ」
グルム「私が現場で適切に判断します」
王「頼んだぞ」
王宮を出ると、広場にはすでに調査に必要な道具類が一式揃えられていた。
グルムは背の荷物を念入りに確認し、ボルグは専用の工具を一つずつ手に取って叩き、状態を確かめている。
ノルクはその横で、道具を慎重にまとめていた。
亮「おっ、準備万端だな!」
ノルク「はい! なんといっても大事な地下調査ですから!」
あんな「調査か……なんだか王都のエドガーさんとセシルさんを思い出させられるね」
亮「そうだなあー。みんな元気かなー」
グルム「ん? どれだその二人は?」
亮「王都の記録員の人たちですよ」
あんな「記録にかける情熱がとにかくすごかったよね」
みゆ「はい。まさに命を懸けて記録を取っていましたから」
ベアトリス「どのような細かい出来事も、決して見逃さずに詳細に記しておられましたわ!」
あんな「うんうん。……パパのくだらないギャグまで全部ね」
あんなは太陽のような笑顔で、さらりと言ってのける。
亮「ちょっと待ったー、最高のギャグだったろ!?」
みゆ「客観的なデータに基づけば、ただのおやじギャグです」
亮「……はい」
グルム「ハハハ! お前たちはいつもこんな感じなのか?」
亮「どういうこと?」
グルム「いや、毎日が本当に楽しそうだなと思ってな」
ボルグ「違いない。見ていて飽きないな」
あんな「いえっ! 私たちはちっとも楽しくありません!」
みゆ「どちらかと言いますと被害者です」
もっふる「ピィー♪」
あんなとみゆの素早い否定に、その場にいた全員の笑い声が賑やかに響き渡った。
グルム「よし、改めて準備は整ったぞ」
ボルグ「器具の動作も問題なしだ」
ノルク「いつでも出発できます!」
亮「よし、それじゃあ行こうか!」
昨日は途中で引き返した、あの不気味で静まり返った場所へ。
今度は、正式な調査隊として。
だが、このときの誰もまだ知らなかった。
このあと、目の前に立ち塞がるあの古き扉に起きる変化が、今回の調査を大きく揺るがすことになるということを。
そして、その扉の向こう側に何が眠っているのかを、知る者はまだ誰一人としていなかった。
こうして――
地下深く眠る古の封印を巡り、神崎家と調査隊の新たな探索が始まる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
不穏な気配とともに加速していく。
プロ専門家でも命を落とす迷宮都市で、驚異の「迷子率112%」を叩き出すパパの緊張感ゼロな暴走劇。
娘たちの呆れたスルーをよそに突き進む一行を待っていたのは……。
次回、第280話 え、パパが勇者!? 迷子確率112%のFランクパパ!? 緊張感ゼロでスルーされる!?




