第275話 え、パパが勇者!? 地下深くへ進め!知られざるドワーフの坑道!?
足を踏み入れると、ひんやりとした湿った空気が神崎家の一行を包み込んだ。
頭上の石造りの補強材は朽ちかけ、足元には砕けた岩片が散らばっている。
亮「ここ、昔は使われてたんだよな?」
みゆ「はい。坑道の形状および岩盤の加工状態から考えて、かなり古いものだと思います」
壁には、職人たちがノミやツルハシを振るったのであろう無数の粗い傷痕が、長い年月を感じさせる深さで残っていた。
足元には錆びついた鉄製の鉱車や、柄の折れた古い採掘道具が転がっている。
ベアトリス「もう誰も使っていないようですわ! 忘れ去られた抜け道のようですわ!」
亮「それにしても、ずいぶん奥まで続いてるな」
あんな「こんな場所があるなんて、ドワーフの人たちも知らなかったのかな」
みゆ「ドワーフの方々も、長大な地下歴史の中で作られたすべての坑道を把握しきれているわけではないのかもしれません」
もっふる「ピィ……」
暗く細い坑道をさらに奥へと進む。
やがて、すり鉢状に傾斜した通路を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。
亮「おお……!」
そこは、かつての巨大な採掘場だった。
まるでドーム状のホールのように天井が高く、見渡す限りの広大な空間が広がっている。
壁面には、いくつもの採掘痕が階段状に残されていた。
だが……。
あんな「……何か、おかしくない?」
みゆ「はい。不自然な点があります」
亮「ん?何かあったか?」
みゆ「採掘場として使われていたなら、あの奥の壁面にも継続した採掘跡があるはずです」
みゆが空間の最奥にある巨大な岩壁を指した。
みゆ「ですが、途中から採掘の痕跡がぷっつりと途切れています」
ベアトリス「途中で何らかの理由があって、採掘をやめたということですの?」
みゆ「その可能性があります」
亮「何かあったのかな……落盤事故とかさ」
その時だった。
バサッ。
暗闇に包まれた高い天井の影から、羽音がひとつ響いた。
亮「ん?」
次の瞬間――。
バサバサバサバサッ!
一匹、二匹、十匹……!
暗闇の奥から、黒い影の群れが爆発的な勢いで天井から舞い降りてきた。
あんな「うわっ、コウモリ!?」
ベアトリス「こんなに大量に……! 天井を埋め尽くしていますわ!」
みゆ「鑑定。ソニックバット。個体能力はD級以下の魔物です」
亮「なんだ、D級か。だったら大丈夫――」
次の瞬間、黒い群れが一斉に超音波を解き放った。
キィィィィィィィィィ――!
亮「うわあああああッ!?」
頭骨を直接打たれるような、鋭く甲高い超高周波が採掘場いっぱいに響き渡った。
両手で固く耳を塞いでも、音波は容赦なく鼓膜を通り抜け、脳の奥底を直接揺さぶってくる。
亮「なんだこれぇぇぇ! 頭が破裂しそうだーっ!」
あんな「パパ! しっかりして!」
みゆ「……くっ……!超音波攻撃です」
普段はどんな危機でも冷静なみゆが、頭を深く抱え込んだ。
みゆ「この音……脳波と平衡感覚に直接干渉してきます……っ!」
キィィィィィィィィィ――!
みゆ「……うるさい……! 思考が……まとまりません……!」
あんな「何この不快な音! 気分悪くなってきた……!」
みゆ「早く……止めないと……っ!」
ベアトリス「頭の中に直接響いてきますわ! 精神が揺さぶられますわ!」
超音波の乱反射により、普段なら瞬時に最適解を出すみゆが、あからさまに混乱を深めていた。
みゆ「このままでは……冷静な状況分析が……できません……!」
音波の衝撃に耐えかね、全員がその場に膝をつき、体を丸める。
隙を突くように、数百匹のコウモリの群れが一斉に頭上から襲いかかってきた。
バサバサバサッ!
キィィィー!
亮「うわーっ! 寄ってくるなー!」
あんな「キャーッ! 髪の毛引っ張らないでよー!」
みゆ「……まとめて……落とします……! 」
ベアトリス「ならば、わたくしも全力の炎で吹き飛ばしますわーッ!」
不快感と混乱のあまり、二人の魔力が急激に膨れ上がる。
あんな「待って! ここは古い採掘場だよ!?」
二人の過剰な魔力に気づいたあんなが、必死の叫び声を上げた。
あんな「そんな大きな魔法を使ったら、朽ちた天井や壁が全部崩れちゃうよ!」
ベアトリス「……あっ!」
みゆ「……そう、でした。二次災害の危険性を……見落としていました……」
みゆも頭を激しく振って不快感に耐えながら、なんとか魔法の発動を途中で踏みとどまる。
亮「俺は……もう……目が回って……無理……」
あんな「パパ!」
超音波の攻撃で亮が、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
あんな「大丈夫!?」
亮「頭がぐわんぐわんする……地球儀回されたみたいだ……」
あんな「はいはい、私につかまって!」
亮「……ああ、助かるよ……」
あんなは亮の大きな腕を自分の肩にしっかりと回し、必死に支え上げた。
あんな「もう少しだから! 刺激しないで、みんなで駆け抜けよう!」
ベアトリス「分かりましたわ!」
みゆ「……はい。音波の範囲外へ退避します」
……やがて。
キィィィ……。
背後から聞こえていた不快な超音波と羽音が、徐々に小さくなり、やがて完全に遠ざかっていった。
亮「……ふぅ……静かになった……」
あんな「パパ、大丈夫? 気分悪くない?」
亮「……おかげで助かったよ。ありがとうな」
みゆ「……ふぅ……」
みゆが深く息を吐きだし、乱れた息を整える。
みゆ「先ほどの超音波攻撃は、思考能力を著しく低下させる極めて厄介なものでした。反省です」
ベアトリス「次に出てきたら、今度こそ物理攻撃で一網打尽に――」
あんな「駄目だからね! 剣の衝撃波でも崩れるかもしれないんだから!」
ベアトリス「分かっていますわ!」
もっふる「ピィ……♪」
安堵したもっふるが、みんなの顔を覗き込むように翼を小さく振った。
その時――。
ズン……。
亮「……ん?」
足元から、重く低い振動が伝わってきた。
みゆ「……っ」
ズン……。
今度は、先ほどよりもはっきりと、石畳を通して靴底に振動が響く。
みゆ「……奥からです」
亮「奥?」
みゆ「はい。先ほど途切れていた採掘跡の、さらに向こう側からです」
ズン……。
古びた採掘場のさらに奥。
闇の向こう側から、ドワーフたちの街で感じたものとはどこか違う、規則的で不気味な足音でもない振動が、刻一刻とこちらへ近づいてきていた。
みゆ「……パパ」
亮「ああ。どうやら、ただの迷子で終わるわけにはいかなくなったみたいだな」
闇の奥から迫る何か。
巨大な何かの存在が、静かにその気配を示し始めていた。
こうして――
古い坑道の深部へと迷い込んだ神崎家は、ドワーフ国を揺らす異変の真実と、暗闇の奥で静かに遭遇しようとしていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)の
不気味な暗闇の向こうから、未知の波乱が確実に足音を立てて迫っていた。
コウモリの猛攻を乗り越えた先で神崎家を待ち受けていたのは、足元を直接揺らす不気味な鼓動。
ドワーフすら立ち入らない禁断の廃坑道で、まるで「生き物」のように脈打つ謎の振動の正体とは……。
嫌な予感をヒシヒシと感じつつも、パパの足は未知の闇へとずんずん進んでいく?
次回、第276話 え、パパが勇者!? 誰も入らない禁断の坑道で謎の重低音!? 地底から伝わる不気味な鼓動に踏み込む!?




