第272話 え、パパが勇者!? 誰よりも大騒ぎで一番ノリノリ!? あきれる娘たちを置いて大爆走!?
戦いは、とっくに終わっている。
それなのに、ドワーフたちは武器を収めるなり、街のあちこちを忙しなく走り回っていた。
「よーし、今からが本番だー!」
「よっしゃー!」
「さっさと準備しろよー!」
あちこちから、ドワーフたちの威勢のいい叫び声が響き渡る。
あんな「何が始まるの……」
亮「……えっと、魔物はもう倒したんだよな?」
あんな「そうだよね。さっきまで戦ってたのは魔物だったよね?」
みゆ「はい。戦闘は完全に終了しています」
ベアトリス「それなのに、皆さん何をそんなに急いでいらっしゃいますの?」
もっふる「ピィー!」
神崎家の疑問をよそに、街のあちこちから人がぞくぞくと集まり、手際よく長机が並べられていった。
さらに巨大な大鍋や、香ばしい肉の焼ける匂いとともに、次々と豪華な料理が運ばれていく。
ドワーフA「決まってるだろ! 宴会だ!」
亮「……宴会?」
その言葉を合図にしたかのように、巨大な木の樽に並々と注がれた酒まで、次々と広場へ並べられていった。
亮「いやいやいや! 魔物を倒しただけだろ!?」
ドワーフA「そうだ!」
亮「それで宴会なの!?」
ドワーフB「そうだ!」
あまりにも迷いのない、力強い即答だった。
あんな「……すごいね」
みゆ「魔物を退治しただけで宴会……」
ドワーフA「魔物を倒したんだぞ!」
ドワーフC「当然宴会だろ!」
亮「当然なんだ……」
みゆ「なるほど。つまり、魔物の撃退そのものが宴会を開催するための正当な口実になるわけです」
ドワーフA「もちろんだ!大仕事が片付いても宴会!客が来ても宴会!魔物を撃退しても宴会!」
ドワーフB「何かあったら、とりあえず宴会だー!」
亮「何かにつけて宴会するんだな……」
あんな「ドワーフの人たちって、すごい文化だね」
大量の酒樽が運び込まれる光景を、亮はしばらく呆然と見つめていた。
亮「だから宴会なんだな!」
ドワーフA「そうだ!」
亮「いいじゃないか! 最高だーッ!」
さっきまで困惑していた亮の表情が一気に弾け、自ら率先して袖を豪快にまくり上げた。
亮「おいおいおい! 宴会と聞いて黙っていられるかー! 俺も混ぜろーっ!」
あんな「ええっ!? ちょっとパパ、入っていくの早すぎ!」
亮はドワーフたちの輪の中へ弾丸のように突撃していった。
ドワーフA「おお、威勢のいい兄ちゃんだな! 飲め飲め!」
亮「おう! 遠慮なくいただくぞーっ!」
巨大な木のグラスを両手で受け取る亮。
亮「よし、ドワーフ国の平和に! 乾杯だーっ!」
ドワーフたち「乾杯――っ!」
ガツン!
重厚なグラス同士が猛烈な勢いでぶつかり合い、泡が派手に飛び散る。
亮「うっはぁぁぁーっ! うまい! 染み渡るーっ!」
ドワーフB「ガハハハ! 最高の飲みっぷりじゃねえか!」
亮「だろ!? 魔物を追い払った後の酒が美味くないわけないだろーっ!」
ドワーフC「その通りだ! 分かってるじゃねえか兄ちゃん!」
ドワーフたち「うおおおおお――っ!」
亮の無駄に高いテンションに引っ張られ、広場全体のボルテージが最高潮まで跳ね上がる。
あんな「ちょっとパパ! 一杯目から飛ばしすぎだってば!」
亮「大丈夫だよー。まだ酔ってないぞー!」
そう叫んだ直後。
亮「おいおかわりだー! 樽ごと持ってこーい!」
あんな「全然大丈夫じゃないと思うのだけど……」
みゆ「飲み干すまでのタイム、わずか3秒です。胃袋の許容量を無視したペースですね」
ベアトリス「とても楽しそうで輝いていらっしゃいますわ!」
その時だった。
ドワーフA「おい兄ちゃん!」
亮「おう!」
ドワーフA「宴会といえば歌だろ!」
ドワーフたち「おおおおおーっ!」
亮「歌かーっ!」
あんな「嫌な予感しかしない……」
みゆ「同感です」
ドワーフB「まずは俺からだ!」
ドワーフたち「うおおおおーっ!」
「待ってましたー」
「歌え歌えーっ!」
ドワーフB「掘って掘ってまた掘ってー! 酒飲みゃ疲れも吹き飛ぶぞー!」
ドワーフが豪快な鉱山労働歌を歌い上げる。
ドワーフたち「うおおおおーっ!」
亮「よし! 次は俺だーっ!」
あんな「出た!」
みゆ「予想通りです」
亮「ドワーフ国最高ー!酒も肉も最高ー!飲んで食べて騒ごうぜーっ!」
ドワーフたち「うおおおおおおーっ!!」
ベアトリス「大盛り上がりですわ!」
みゆ「音程より勢いで押し切りました」
あんな「歌っていうより応援団なんだけど……」
ドワーフA「優勝だー!」
ドワーフB「異論なし!」
亮「やったーっ!」
あんな「こうなったパパはドワーフの人に任せて、私たちも食べよっか」
みゆ「そうですね。料理も美味しそうです」
ベアトリス「わたくしも、食べて飲みますわ!」
もっふる「ピィー♪」
ドワーフA「お嬢ちゃんたちも遠慮するなよ」
ドワーフB「そうだぞ。ガンガン食べろー」
あんな「よーし、食べるぞー」
ベアトリス「食べましょうですわ!」
ドワーフA「おい! あっちの肉も焼き上がったぞ!」
亮「なにぃー!? 肉かーっ! 今行くぞーっ! 宴会だ宴会だーっ!」
ドワーフB「おおお! 飲んで食って歌えー!」
亮「よっしゃー! ドワーフ万歳ーッ!」
気づけば亮の周りには人山ができ、ドワーフたちが肩を組んで大はしゃぎしていた。
亮「今日は無礼講だー! 朝まで歌って踊るぞーっ!」
ドワーフたち「おおおおお――っ!」
広場を揺るがすほどの大歓声が巻き起こる。
あんな「……ねえ、パパが誰よりも大騒ぎしてない?」
みゆ「完全なる狂乱の中心点となっています」
ベアトリス「ドワーフの方々を完全に圧倒していらっしゃいますわ!」
もっふる「ピィー♪」
もっふるも亮の頭の上に飛び乗り、一緒になって歓声をあげるように翼をパタパタと振った。
亮「よーし! ドワーフ国最高ーっ! もう一杯だーっ!」
ドワーフたち「おおおおお――っ!」
こうして――
魔物撃退を祝う宴会は、始まったばかりだというのに。
なぜか亮が誰よりも大騒ぎし、ドワーフたちを巻き込んで祭りの中心になっていくのだった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)の
賑やかな夜は、まだまだ明ける気配がない。
平穏な朝を切り裂く、足元からの不気味すぎる大揺れ。
現地住民すら「慣れ」で見過ごす異変の影に、神崎家が覚悟を決めて立ち上がる。
次回、第273話 え、パパが勇者!? 地震はいつものこと!? ドワーフ国に広がる異変の影!?




