第268話 え、パパが勇者!? 三次元迷宮で悲痛な叫び!? パパ、完全に迷子になる!?
大きな岩のアーチをくぐり、急な石階段を下っていく。
神崎家は、ドワーフの街の地下都市へと足を踏み入れていた。
亮「おお……!」
階段を下りきった先に広がっていたのは、地上とはまったく違う壮大な地下の世界だった。
切り立った巨大な岩壁を直にくり抜いて造られた建物。
壁沿いに整然と並ぶ無数の店や工房。 広々とした石畳のメイン通路の先からは、網の目のように幾つもの道が伸びている。
あんな「すごい……! 地下にもこんな大きな街があるなんて」
みゆ「単なる居住区だけではありません。工房や商店、物流の拠点らしき区画まで完璧に完備されています」
ベアトリス「地上の街が、そのまま山の中に引っ越したようですわ!」
亮「山全体が巨大なひとつの街になってるってことか」
感心して見上げていると、通りかかったドワーフの男性が足を止めた。
ドワーフ「そういうことだ」
亮「そうなんです! じゃあ、この奥にもまだまだ街が続いてるんですか?」
ドワーフ「おう、まだまだ先があるぞ。ここはまだ入り口にすぎんからな」
亮「マジで!? まだあるのか!」
あんな「パパったら本当に楽しそう」
亮「そりゃ楽しいだろ! こんな少年心をくすぐられる地下都市、初めて見んだから!」
期待に胸を膨らませ、神崎家は地下都市の中へと進んでいく。
少し歩くと、さっそく通路が三方向に分かれていた。
亮「おおっ、いきなり三つに分かれてるぞ!」
あんな「どっちに行ってみる?」
亮「ここは直感で右だな!」
右の道を選んでしばらく進むと、今度は左右に道が分かれる。
亮「お、今度は左右か! こっちの方がなんだか面白そうだ、左だー!」
あんな「ちょっとパパ、そんな適当で大丈夫? 迷子にならないよね?」
亮「大丈夫だよー!」
みゆ「パパの言う『大丈夫』は、確率計算上九九・八パーセントで迷子フラグに変換されます」
あんな「だよねぇ……」
ベアトリス「まるで巨大な地下迷宮のようで、胸が踊りますわ!」
もっふる「ピィー♪」
さらに進むと階段が現れる。
それを上がるとまた別の通路。
そしてその先にも当たり前のように新たな分岐があった。
亮「……」
亮は足を止めて周囲をキョロキョロと見回す。
亮「なあ……ここ、分かれ道多すぎないか?」
みゆ「非常に多いです。三次元的に交錯する立体構造となっています」
あんな「でも、ドワーフの人たちは普通に歩いてるよね。迷ったりしないのかな?」
みゆ「ここで生まれ育った住人であれば、構造パターンを生活として把握していると思われます」
あんな「そっか。自分の家や職場、よく行く店なら自然と覚えるもんね」
亮「なるほどなぁ……よし、俺も目印を覚えていくぞ!」
亮は気合いを入れ直し、歩きながら周囲を観察し始めた。
亮「よし、ここは大きな岩の柱があるな!」
あんな「目印?」
亮「そうそう! あの柱を曲がったって覚えればバッチリだ!」
みゆ「その先に上り階段があります」
亮「よし、あの階段もセットで記憶した!」
あんな「パパにしては、ちゃんと覚える気があるじゃない」
亮「当たり前だろ! 俺だっていつまでも子供じゃないんだからな」
あんな「……なぜか一抹の不安が拭えないのは、私だけかしら」
亮「なんでよー!」
もっふる「ピィ……♪」
賑やかに会話を交わしながらさらに進むと、突如として開けた巨大な中央広場に出た。
広場の中央には、見上げるほど太い岩のシンボル柱が鎮座し、その周囲を賑やかな露店や工房が取り囲んでいる。
亮「おおーっ! ここはすごく分かりやすいな!」
みゆ「地下都市の中央ハブ区画だと思われます」
あんな「職人さんたちが集まる作業場や、家族で暮らしてる居住区への入り口も集中してそうだね」
みゆ「はい。ただし、ハブ区画はここ一つだけではない可能性が高いです」
亮「……」
亮が広場の奥へ目をやると、そこにはさらに巨大な通路が幾筋も伸び、その左右にも無数の脇道が見えた。
亮「……本当に広いんだな」
みゆ「地下都市全体の正確な全貌と総面積は、現在地からでは計測不可能です」
ベアトリス「山の中すべてが丸ごと街になっているのですわ!」
亮「こりゃあ一日で全部見て回るのは無理だな」
あんな「うん、じっくり見て回ろうよ」
神崎家はペースを落とし、ゆっくりと地下都市を探索した。
珍しい金属細工が並ぶ店を覗き、火花が散る鍛冶工房を眺め、岩壁に直接彫り込まれた彫刻のような建物を見上げる。
その時、亮の視界の端に気になるものが飛び込んできた。
亮「あれ……? ちょっと見てくる!」
あんな「あっ、ちょっとパパ! すぐ近くだよね!?」
亮「すぐそこ、目と鼻の先!」
亮は小走りで脇道の先へ進んだ。
そこにあったのは、岩壁にひっそりと刻まれた古めかしい謎の彫刻だった。
亮「へえ……これ、何の彫刻だろう。亀……いや、ドワーフの神様か?」
興味深く彫刻をしばらく眺めた後、亮は満足して「さて」と家族の元へ戻ろうと振り返った。
亮「……あれ?」
目の前には、まったく同じ景色の二本の分岐路がある。
亮「どっちから入ってきたっけ……?」
腕を組み、少し考える。
亮「確か……右の通路だった気がする!」
自信満々に右の通路へ進む亮。
亮「……あれ? 違うな」
見たこともない謎のキノコを売る怪しげな店が並んでいた。
亮「ここじゃないや。引き返そう」
クルリと向きを変え、今度は左の通路へと進む。
亮「……あれれ?」
視界に入ってきたのは、先ほど自分が通ったはずの大きな岩柱だった。
亮「ここ……さっき通ったぞ? 一周して戻ってきた……?」
冷や汗をかきながら、亮はもう一度周囲をぐるりと見回す。
右。 左。 正面。
どこを見渡しても、どこまでも続く同じような岩壁と通路。
亮「……これ……思ったよりヤバいぞ……?」
その頃――。
あんな「……パパ、遅くない?」
みゆ「先ほどの分岐点には戻ってきていません」
あんなは深々とため息をついた。
あんな「はぁ……探しに行こう」
みゆ「了解しました。脳内マップの履歴から迷子捜索ルートを算出します」
三人と一匹は、呆れつつも捜索を開始した。
一方の亮は。
亮「落ち着け俺! 大丈夫だ、落ち着けば絶対に元の場所に戻れる!」
意を決して一つの通路を選び、早足で進む。
亮「……え?」
またしても目の前に三差路。
亮「うそだろ!?」
焦って選んだその先にも、さらに複雑な分岐。
汗をかきながら奥へ突き進むと、今度は見覚えのない急な下り階段が現れた。
亮「階段……!? え、さっき登ったやつか? それとも別のやつか!?」
少し戻ろうと振り返るが、すでにどの道から走ってきたのかすら分からない。
亮「……地下都市、広すぎるだろぉぉぉーーーっ!!」
亮の悲痛な叫びが、入り組んだ岩の通路の奥深くまでこだました。
あんな「あっ! 今、パパの叫び声が聞こえた!」
みゆ「音の反響から予測するに、あちらです!」
ベアトリス「行きますわ!」
もっふる「ピィーッ!」
ドワーフたちにとっては、生まれてからずっと慣れ親しんだ安心できる生活道路。
しかし、神崎家にとっては一つの角を曲がるたび、まったく新しい見知らぬ通路が現れる。
階段を上れば見知らぬ店舗街。
階段を下りれば見たこともない作業場。
この地下都市は、彼らの想像を遥かに超えて、広大で、そしてあまりにも複雑怪奇な巨大迷宮だったのだ。
亮「誰かぁぁぁーーーっ! 俺はいったい今どこにいるんだぁぁぁーーーっ!?」
自分から迷い込み、自分から孤立し、亮はついに地下都市の完璧な迷子となったのだった。
だが、そんな極限状態(?)にあっても、亮の鼻先を香ばしい匂いがかすめる。
亮「ん……? なんだこの美味そうな匂い……お、串焼き屋か!」
数分後――。
あんな「あーーーっ!! いた!! もう、どんだけ探したと思ってるの!?」
みゆ「予測通り、完璧に迷子になっていましたね」
ベアトリス「さすがみゆお姉様ですわ! 予測が完璧です!」
亮「もぐもぐ……お、みんな! 探したぞー!」
あんな「探したのは私たち!! パパ、迷子になって叫んでたくせに、なんでちゃっかり串焼き食べてるのよ!?」
みゆ「客観的な事実として、完全に開き直っています」
ベアトリス「さすがですわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「いやぁ、迷ったら動かないのが一番だと思ってさ。これ、すっごく美味いぞ? みんなも食べるか?」
あんな&みゆ「当然食べる!」
ベアトリス「いただきますわ!」
もっふる「ピィー♪」
みんなで熱々の串焼きを頬張り、賑やかな笑い声が地下の通路に響く。
亮「そういえば店主さん、この地下都市ってどこまで続いてるんですか?」
ドワーフ店主「おう、この先をさらに下っていくと、ドワーフ国の命とも言える『大鉱山』に繋がっててな。鉱石やら鉱物やらが山ほど採れるんだが……」
あんな「鉱山……! ドワーフの国といえば、やっぱり鉱山ですよね」
ドワーフ店主「まあな。だが最近、奥の坑道でちょっと珍しい鉱石が見つかったらしくてな。腕利きの鍛冶師たちが色めき立ってるのさ」
みゆ「珍しい鉱石……興味深いデータです」
亮「へえ、鉱山かぁ……面白そうだな」
亮は何気なくその方向、地下都市のさらに深く、未知の鉱脈へと続く暗がりの通路を見つめた。
こうして――
ドワーフ国の地下都市でも相変わらずやらかすパパと、それをしっかり回収する神崎家の賑やかな休日が続いていく。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
今日もまた賑やかに紡がれていくのだった。
地下都市の熱気冷めやらぬまま、神崎家が次に足を踏み入れたのはドワーフ国の命脈たる「大鉱山」
地鳴りのごとき振動の先で待ち受けていたのは、地上を置き去りにする異次元の大空間。
そんな職人たちの聖地で、みゆの理系探究心に突如として火がついた……。
ドワーフの熟練職人たちすら絶句させる、次女の規格外すぎる超分析が坑道を揺るがす。
次回、第269話 え、パパが勇者!? ドワーフ国の大鉱山へ! みゆの研究スイッチ発動!?




