第266話 え、パパが勇者!? 300年の国交断絶、その理由は誰も知らない!?
亮「あ……あの、国王様。一つだけお伺いしてもよろしいでしょうか?」
国王「む? 何だ、人間よ。申してみよ」
玉座に深く腰掛けたドワーフ国王に、亮は少し緊張した面持ちで尋ねた。
亮「人間国とドワーフ国は、約三百年もの間、一切の交流がないとお聞きしました」
国王「うむ。その通りだ」
亮「それが、すごく不思議なんですよね。ここに来るまでに出会ったドワーフのみなさんは、本当に気さくで温かい人ばかりでしたし。鍛冶場のおっちゃんたちも、すごく親切にしてくれましたから」
あんな「そうそう! 街の人たちも全然トゲトゲしてなくて、むしろ歓迎してくれてる感じだったよね。敵対して突っかかってくるような雰囲気なんて、微塵もなかったし」
みゆ「同感です。パパの特殊スキル『おっさんホイホイ』の異常な引きつけ効果を考慮に入れても、街全体の空気感として人間に対する強い嫌悪感や途惑いは見受けられませんでした」
ベアトリス「ええ、みなさま実に情にあふれた素晴らしい方々ばかりですわ! わたくしも、この国の温かさに感動していたところでございますわ!」
もっふる「ピィー♪」
国王は豊かな髭を太い手でさすりながら、重々しい声で話す。
国王「ふむ……我々ドワーフ族は、もとより無益な争いを好む種族ではないからな。だが……国の古い教えにはこうある。『人間は危険であり、断じて心を許してはならぬ敵である』とな」
亮「え?」
あんな「危険で、敵……ですか? そんなはっきりした教えが残ってるんですか?」
亮「どうしてそんな強い言葉が教えとして残っているんでしょう。三百年前に、一体何があったんですか?」
国王「……その理由については、我々にもさっぱり分からん」
あんな「ええっ!? 理由が分からないって……じゃあ、三百年前に何があったのか、誰も知らないってことですか」
国王「うむ。理由は歴史の闇に消えて失われた。だが『人間を警戒せよ』という結論の言葉だけが、なぜか厳然と語り継がれておるのだ」
みゆ「理由という前提条件を欠いたまま、警戒という結果のみが継承されている……極めて不可解な現象です」
あんな「でもそれって、人間国も獣人国も同じだよ。両国も理由は分からないと言っていた」
みゆ「確かにそうです。三国が理由も分からないし文献も残っていない。これは偶然とは思えません」
国王「言われてみれば確かにおかしな話だ。とは言え調べようがないのも事実だ」
謁見の間に静寂が広がる。
亮「でも……その割には、俺たちって全然警戒されてないですよね?門番もいなかったし」
あんな「私もそれはずっと思ってた!ドワーフ国に入る時だって、本当に警戒されてるなら、もっとこう、厳重な取り調べとかあるんじゃないの?」
ベアトリス「そうですわ!」
もっふる「ピィー!」
神崎家の面々が口々に疑問を口にすると、国王は豪快に笑い出した。
国王「ハハハ……甘いな、異国の者たちよ」
亮「え?」
国王「警戒していなかったわけではない」
国王が不敵な笑みを浮かべたまま、パン、と一度だけ力強く手を打ち鳴らした。
次の瞬間だった。
タッ、タタタッ……!
王座の背後、左右に立ち並ぶ太い石柱の影、果ては天井を支える巨大な木製の梁の上から、気配を一切殺していた影たちが、一斉に軽やかな音を立てて跳び下りてきた!
「「「…………っ!!」」」
漆黒の革鎧を身に纏い、両刃斧を構えた、小柄で頑丈なドワーフの精鋭暗部たちである。
その数、ざっと三十以上。
彼らは一瞬にして神崎家を寸分の隙もなく隙間なく取り囲み、鋭い眼光を注ぎ込んできた。
亮「うわぁぁっ!ほ、本当だ!めちゃくちゃ囲まれてるー」
あんな「キャッ。ちょっと何これ、いつからそこにいたの。全然気配なかったんだけど」
みゆ「……驚愕です。心拍数の増加も足音の発生もほぼ皆無。徹底的に訓練された、精鋭中の精鋭による完全包囲網です」
ベアトリス「見事な身のこなしと無駄のない配置。 流石はドワーフ国が誇る影の精鋭ですわ!」
もっふる「ピィー!?」
静まり返る謁見の間。
神崎家の動揺を見届けた国王が、静かに右手を一振ろした。
すると、暗部たちは申し合わせたかのように同時に姿を消し、まるで最初から誰もいなかったかのように、サッと元の影の中へと溶け込んでいった。
国王「お主達が我が国の城門をくぐる前から、常に我が精鋭が全動向を完璧に監視しておったのだ。もし少しでも街で暴れるなど怪しい挙動を見せれば、即座にその場で拘束する手はずであった」
亮「あの、城門の前とかの違和感の正体はもしかして」
国王「なんと、気づいていたのか。まだまだ鍛えないといかんな!」
亮「気づくというほどではありません。今だって全く気が付いていませんでした」
あんな「そうです。これだけしっかり裏で警戒されているなんて夢にも思いませんでした」
みゆ「ですが、なぜ最初から敵意をむき出しにして襲いかかってこなかったのでしょうか? 警戒しているのであれば、即座に捕縛する選択肢もあったはずです」
国王「三百年も交流がない相手だ。いくら教えがあろうと、実際に人間と接した者が誰ひとりおらんのだからな。それに、お主達から害意を感じ取れなかったのも事実だ」
あんな「だから、街の人たちも普通に接してくれたんだね」
みゆ「国家としての厳重な警戒態勢と、個々の住民の日常的な態度が切り離されて運用されているのですね。非常に合理的です」
ベアトリス「疑いつつも相手の立ち振る舞いをしっかりと見極める……ドワーフの皆様の器の大きさと理知深さを感じますわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「なるほどなぁ……。それにしても、三百年前に一体何があって国交が途絶えちゃったんだろうな」
国王「……それだけは、城の奥深くに眠るどれほど古い文書や記録を調べ直しても、明確な答えが出てこんのだ」
みゆ「三国とも、肝心の理由を知らないまま、ただ断絶という事実だけが三百年続いていく……」
あんな「うーん、なんだか理由が分からないだけに、すごく不気味だよね……」
答えの出ない歴史の謎と、時折足元を揺らす不穏な地震の振動。
目に見えない静かな違和感が、重厚な王宮の空気をじわじわと包み込んでいくのだった。
こうして――
ドワーフ王との謁見を果たした神崎家だったが、三百年続く断絶の謎は深まるばかりなのだった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
未知なる歴史の闇へと一歩を踏み出す。
――そして、その空のさらに熱き地平。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……あの勇者たちは、本当にどこへ行っても変わらないのですね。
山をまるごとくり抜いた鉄と炎の国を訪れても、恐ろしい面構えの職人たちや頑固な親方までもを一瞬で魅了してしまうのですから。
豪快な大食い勝負を家族で楽しみ、暴走する炎やデータ解析の奇跡で名剣を生み出してしまう娘たち。
そして、テレビで見ただけの雑学で伝統ある鍛冶場の歴史を揺るがしながらも、当の勇者本人は『ただ見学に来ただけ』と笑っている。
三百年もの間、互いに理由すら知らぬまま閉ざされていた国交の壁。
どれほど精鋭の暗部が身を潜め、厳重な警戒網を敷いていようとも、彼らの前では何の意味もなしません。
使命感ではなく、純粋な気持ちで……ただ幸せを分かち合い歩む彼らの姿。
『強いから』『脅威だから』ではなく、気さくな挨拶と温かな言葉で互いを認め合う。
最強の力を持ちながら、誰かを打ち負かすことよりも家族で囲む食卓を愛でるその純粋な想いこそが、固く閉ざされた人々の心を解きほぐし、世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれませんね。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
大地を揺らす不穏な地震の影と、歴史の闇に眠る謎の解明へ向けて。
あの家族なら、どんな深い暗雲さえも賑やかな笑顔で吹き飛ばしてしまうのでしょうね。
光が揺れ、風がそっと鍛冶場の火口を撫でる。
その微笑みは、炎の温もりよりも暖かく優しかった。
【第三十一章「鍛冶編」を終えて】
山をくり抜いた鉄と炎の都市ドワーフ国にて、パパのTV雑学や娘たちの暴走(?)で鍛冶場は大騒ぎ。
無事に国王との謁見も果たし、300年続く国交断絶の謎と不穏な地震の真相へ向け、神崎家のドタバタなスローライフはさらに熱く加速していきます。
亮「みんなの応援のおかげで無事に鍛冶編も完結だ! この調子なら勇者ポイントも一気に溜まっちゃう気がするぞー!」
あんな「ちょっとパパ、調子に乗らないの! でも……ここまで読んでくれた皆さんには本当に感謝だね。これからも一緒に歩んでくれたら嬉しいな」
みゆ「はい。読者様の観測データが我が家のやらかし予防に直結します。フラグ炸裂を防止するためにも、評価(★)やブックマークという名の観測支援をお願いします」
ベアトリス「わたくしたち三姉妹の活躍、これからも見守ってくださると嬉しいですわ!」
もっふる「ピィー♪」




