第264話 え、パパが勇者!? ドワーフの親方登場!? パパ、なぜか鍛冶場で大人気!?
騒然とする鍛冶場の奥から現れた老ドワーフの親方。
ドワーフ「親方!」
一人の老ドワーフが、鍛冶場の奥から歩み出てきた。
長年鉄を叩き続けてきたことが一目で分かる、巨大な腕と白い髭。
その親方が鍛え上げられた一本の剣の前に静かに佇んでいた。
親方「ほう、お前さんたちが噂の客か」
亮「あ、はい。見学させてもらっています」
親方「ほう。この透き通るような波紋……。おい、これを作ったのはお前たちか?」
職人「はい。親方!そこのお嬢ちゃんたちが火加減と装置を調整して……!」
ベアトリス「わたくしとみゆお姉さまの合作ですわ!」
みゆ「正確には、設備パラメータの偶発的な最適化です」
親方「長年鉄を叩いてきたドワーフの熟練者でも不可能と言われた『神の領域』の精錬……」
信じられないといった様子で蒼白の光を放つ剣を見つめ、それから呆然と立つ亮たちへと視線を向ける。
親方「……お前さんたち、ただの家族じゃなさそうだな。ちょっと奥の作業場まで来てもらおうか」
亮「大丈夫かな。なんか怒らせたとか」
あんな「あり得ます。工房は壊すし、勝手に剣を作るし」
みゆ「説明すれば分かってくれます」
亮「本当か?」
ベアトリス「大丈夫ですわ!」
親方「何をぼそぼそと話している。さっさと来ないか」
亮「はい。分かりました……」
親方に促され、神崎家は鍛冶場のさらに深い奥へと案内されていく。
扉を抜けると、そこには親方専用の静かな作業場が広がっていた。
亮「すみませんでした」
親方「ん?何を謝っているのだ」
亮「いや、色々とご迷惑をおかけしたと思いまして」
親方「気にするな!いちいち細かいことはどうでもいいわ」
豪快に笑い飛ばす。
親方「わしは長年、強固で折れない刀剣を追い求めてきた。……にいちゃん、お前さんたち家族は鍛冶の知識があるのか?」
亮「え?いやいや、滅相もないです」
親方「そうか……」
残念そうにする親方。
落胆する頑固親方の姿を見た亮は、昔テレビの番組で観た内容をふと思い出した。
亮「あ、でも日本の……ええと、俺の郷里のほうで刀鍛冶が有名で、昔から技術を受け継いできた場所があるのだけど」
親方「昔から?」
亮「何百年も続いていたんじゃないかな」
親方「何百年……」
亮「詳しいことは知らないけどね」
親方「それでも構わん! 興味深い話だ」
亮「そう?」
親方「技術を何百年も受け継いで来たのだろ」
亮「そうだと思う」
亮は近くにあった金属を見る。
亮「日本刀って、硬ければいいってものでもないらしいんだ」
親方「ほう?」
亮「硬すぎると折れやすいし、柔らかすぎても駄目だから……」
亮は頭の中にある記憶を思い起こす。
亮「硬さと粘り、その両方を考えて作っていたって聞いたことがある」
「……」
それまで周囲で聞き耳を立てていた職人たちまでもが静かになる。
親方「硬さと……粘り。そういう考え方か」
亮「まあ、俺も詳しいことは知らないんだけど」
親方「いや」
親方が亮を見る。
親方「その発想はなかった」
亮「え?」
親方「俺たちは、どうしても強くて硬いものを作ろうとする。だが、硬さだけじゃねえ」
亮「そういうことなんじゃないかな」
親方「なるほどな……」
亮「日本刀は、折れず、曲がらず、切れる、と、矛盾する要素を成立させるために、意図的に「しなり(柔軟性)」を持たせる構造で作られていると聞いています」
親方の目が光る。
親方「ほう、それはどんな技なんだ?是非とも教えてくれ」
亮「俺は専門家じゃないので……ええと、たしか『折り返し鍛錬』とか言ってたかな?」
親方「折り返し……鍛錬だと」
亮「そうそう。熱した鉄を何度も何度も叩いて伸ばして、半分に折って、また叩いて……を繰り返すんだよ。そうすると不純物が抜けて、鋼がどんどん鍛えられるらしくてさ」
親方「鉄を……折って叩く!?そんなことをしたら、接合面から脆くなるんじゃないのか!?」
亮「あ、でも叩くときに『藁の灰』とか『泥』をかけるんだって。それが接着剤みたいな役割になるらしくて……」
親方「な……なんだと……!? 異物を挟んで、融合させるだと……!?」
亮「あと、硬い鉄と柔らかい鉄を組み合わせるんだよ。『甲伏せ』だったかな? 芯には柔らかい鉄を入れて、外側を硬い鉄で包むの。そうすると『折れず、曲がらず、よく切れる』んだってさ」
「「「………………」」」
鍛冶場全体が、しーんと静まり返った。
ドワーフたちが一斉に息を飲み、顔を見合わせる。
親方「硬い鉄で……柔らかい芯を包む……!? 硬さと粘りの両立を、構造そのもので解決しているというのか……!?」
亮「日本刀は『反り(そり)』が大事なんだって」
親方「なんだ!その反りというのは」
ドワーフA「親方! それなら俺たちがずっと悩んでた『衝撃による折損』が解決するんじゃ……!」
ドワーフB「にいちゃん! その『技法』がある場所はどれほどの聖地なんだ!?」
亮「いやいや! 刀だけじゃなくて、包丁でも有名な街だからね!? 爪切り作ってる職人さんのVTRも見たよ!?」
ドワーフC「爪を……切るための刀だと……!? なんという技術の無駄遣い……いや、それほど生活に根付いた神技の領域か!?」
亮「いや、ただの日用品だってば!」
あんな「……また始まった」
みゆ「はい。パパが雑学を披露して、周囲が勝手に深読みする現象です」
ベアトリス「流石ですわ! 世界の理を熟知していらっしゃいますわ!」
もっふる「ピィー♪」
ドワーフたちが目を輝かせ、亮の周りに押し寄せてくる。
「にいちゃん! その『折り返し』の回数は何回だ!?」
「芯に入れる鉄の炭素量はどれくらいなんだ!?」
亮「知らないですよーっ! 俺は専門家ではないんだぞー」
親方「照れるなにいちゃん! 知っていることだけでいい、もっと教えてくれ!」
亮「だから本当にこれ以上は知らないって!ここには見学に来ただけなんだからー」
知識ゼロのTV雑学だけでドワーフたちの歴史を激震させてしまうのだった。
こうして――
パパの無自覚なテレビ雑学により、ドワーフの鍛冶場は大騒ぎの渦に巻き込まれるのだった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
また騒がしく続いていく。
おっさんホイホイ発動から一転、ついにドワーフ国の核心・王宮へと乗り込んだ神崎家。
国を揺るがす連続地震の真相と調査隊への同行を打診された瞬間、パパの無自覚な「即答」が発動する。
そして真剣な眼差しでパパが口にした、謁見の間を静まり返らせる「ある質問」とは。
次回、第265話 え、パパが勇者!? ドワーフ王と謁見!いつもの即答!?




