第260話 え、パパが勇者!? 恐ろしいドワーフ集団を一瞬で虜に!? ふわもふ天使の膝上降臨ともっふる無双!?
食事に向かうため、神崎家は熱気に包まれた街の奥へと足を進めていた。
亮「やっぱり、すごい街だな」
あんな「武器のお店、本当に多いね」
みゆ「住民のほとんどが鍛冶を職業と思われるほど多いです。職人の街です」
ベアトリス「店が立ち並ぶだけでなく、街そのものが巨大な工房のようですわ!」
もっふる「ピィー♪」
もっふるの愛らしい声に、近くを歩いていた小柄で頑強な体つきのドワーフが足を止めて振り返った。
ドワーフA「……ん? なんだあいつらは……?」
別のドワーフも足を止める。
ドワーフB「おい、あれ……見ろよ」
ドワーフA「人間か……? えらい背が高いぞ」
ドワーフB「おいおい、人間が堂々と歩いてるぞ!」
ザワザワと、少しずつ周囲の視線が集まっていく。
亮「……ん?」
亮がふと違和感を覚えて周囲を見渡した。
ドワーフたちが、興味津々の様子でこちらを見つめている。
亮「なんだ? みんなでこっちを見てるぞ」
あんな「本当だ、みんなこっち見てるね。珍しいのかな」
みゆ「この三百年で人間が立ち入ったのは私たちが初めてかもしれません」
ベアトリス「歴史的な瞬間ですわ!」
亮「そっか、そうなるよな」
亮は親しみやすい笑みを浮かべ、近くにいたドワーフへ笑顔で声をかけた。
亮「こんにちは! いい街ですね」
ドワーフA「……お、おう。こんにちは……って、気さくか!」
ドワーフは拍子抜けしたように少し驚いた顔をした。
亮「本当、すごい街ですね」
ドワーフA「……そうか? 俺たちにしてみりゃ見慣れた景色だがな」
亮「はい。あちこちからカンカン音が聞こえて、鍛冶場もいっぱいですし」
ドワーフA「そりゃそうだ、なんたってドワーフの国だからな!」
亮「想像以上のスケールですよ。見ているだけでワクワクします」
その様子を見ていた腕組みをした別のドワーフが、じりじりと近づいてくる。
ドワーフC「お前、本当に人間か?」
亮「はい。正真正銘人間です」
ドワーフC「お前……こんなゴツいドワーフどもに大勢で囲まれて、ビビらねえのか?」
亮「え? なんでビビるんですか?」
ドワーフC「なんでって……俺たちのこの面構えと体格だぞ?」
亮「……?」
亮は不思議そうに首を傾げ、目の前のドワーフを見つめた。
亮「言っている意味がよく分からないのだけど……みなさん優しそうな顔をしてますよ。髭は立派ですし」
ドワーフC「……」
ドワーフたちが顔を見合わせ、 そして。
ドワーフC「ガハハハ! 面白い兄ちゃんだな!」
亮「あはは、よく言われます」
あんな「パパ、それ呆れられてるだけで絶対に褒められてないよ」
亮「え、そうなの?」
あんな「たぶんね」
みゆ「99.9%の確率で勘違いだと思います」
亮「そんなぁ……」
いつもの神崎家のやり取りに、ドワーフたちからドッと大きな笑い声が起こった。
ドワーフA「ははは! 息がぴったりだな!」
ドワーフB「愉快な奴だ! 人間というのは、良い奴じゃないか!」
ドワーフA「後ろにいるのは娘か?」
ドワーフB「三人とも人間か?」
亮「そうだ!神崎家の自慢の美人三姉妹だ!」
ドワーフA「そうか! 確かによく見りゃ器量良しの美人さんたちだ!」
亮「だろ? 俺の自慢の娘たちなんだよ」
あんな「パパ、ドワーフの国にきてまで親バカ全開なの恥ずかしすぎるんだけど!」
みゆ「どこに行ってもブレない、安定のパパです」
亮「いやー、ドワーフの人たちにも美人と分かってもらえて最高だなー」
ドワーフA「おうよ! 間違いなくお前さんの娘は美人三姉妹だ!」
通りに爽快な笑い声が響き渡る。
あんな「もう、こんな道の真ん中で恥ずかしいってば……」
みゆ「パパのせいで、どんどん人が集まっています」
ベアトリス「美人三姉妹! 注目の的ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
ドワーフ「……ん?」
今度はドワーフたちの視線が、一斉にあんなの足元にいるもっふるへ向いた。
ドワーフA「なんだ、あの生き物は……?」
ドワーフB「ウサギ……か?いや丸いな、丸すぎるぞ!」
ドワーフC「おい見ろ、背中に羽が生えてるぞ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「あ、この子はもっふるです」
ドワーフA「もっふる……?」
亮「はい、我が家の大切な家族です」
ドワーフA「ちょっと……触ってもいいか?」
亮「全然大丈夫ですよ。な、もっふる」
もっふる「ピィー♪」
ドワーフA「本当か!?」
強面なドワーフが、ゴツゴツとした大きな手を恐る恐る伸ばす。
もっふるは逃げる様子もなく、トコトコとご機嫌に歩いている。
ドワーフA「……」
触れた瞬間、ドワーフの顔がフワッと笑顔になった。
ドワーフA「うわぁ……モフモフだ……すげぇ柔らかい……」
もっふる「ピィ~♪」
強面なドワーフのゴツゴツとした手が、恐る恐るもっふるの背中を撫でる。
もっふるは気持ちよさそうにパタパタと尻尾を振ると、トコトコとドワーフの膝の上にちょこんと座った。
ドワーフA「うおっ!? の、乗ってきたぞ!?」
息をのむドワーフの目の前で、周囲のドワーフたちから羨望の視線が突き刺さる。
ドワーフB「おいコラ! お前ばっかりずるいぞ! 俺にも触らせろ!」
ドワーフC「押すな! 順番だ! うわっ、こっち見たぞ! 奇跡か!?」
周囲の若いドワーフたちが一斉に押し寄せ、通りがちょっとした騒ぎになりかけた、その時だった。
「おいおい、なんの騒ぎだ! 仕事サボって遊んでんじゃねえぞ! 」
ドスン、ドスンと重い足音を響かせて現れたのは、他のドワーフたちよりも一回り大きな体形をした、鍛冶場の親方だった。
深く刻まれた眉間のシワと、ドワーフの鋭い目つき。
その圧倒的な威圧感に、先ほどまで騒いでいたドワーフたちが一瞬で背筋を伸ばして静まり返る。
亮「(うわぁ……いかにも頑固そうな職人さんだなあ)」
あんな「(パパ、絶対余計なこと言っちゃダメよ。一発で殴り飛ばされそうな雰囲気なんだから……)」
みゆ「(ここの親方だと思われます)」
緊張感が漂う中、親方は腕組みをしたままドスドスとこちらへ歩み寄ってきた。
その時である。
ドワーフの膝から降りたもっふるが、親方の厳めしい雰囲気に臆する様子もなく、トコトコと前へ歩み出た。
そして、軽い身のこなしで跳躍すると、親方の肩を経由して、そのまま頭の上へチョコンと着地したのだ。
ドワーフたち「「「ヒッ……!!」」」
若手ドワーフたちの顔から一斉に血の気が引いた。
あの街一番の頑固者で、一度怒らせたら鉄槌が飛んでくると恐れられる親方の頭に乗るなど、危険きわまりない。
誰もが次の瞬間、親方が怒号を上げて引き剥がす姿を想像した。
親方は頭上の小さな温もりを感じ取ると、ゆっくりと視線だけを上に向けた。
眉間のシワがさらに深くなり、息をのむような静寂が場を包み込む。
しかし――。
親方「……おい」
ドワーフA「は、はいっ! すぐにお引き離しますんでっ……!」
親方「バカ野郎! 動くんじゃねえ!」
親方は低い声で一閃すると、仁王立ちの姿勢のまま、ピタリと動きを止めた。
親方「……今、俺がちょっとでも動いたら、このお方が落ちちまうだろうが。……全員、その場で静止しろ。息の音も立てるな」
ドワーフたち「えええぇぇぇ――っ!?」
顔は恐ろしい鬼の形相のままだが、頭上の体温を気にして微動だにできなくなっている。
頭の上では、もっふるが満足そうにパタパタと尻尾を揺らしていた。
もっふる「ピィー♪」
亮「あはは、親方さん、すごく優しい人だったんだねえ」
あんな「優しいっていうか、完全に固まってるじゃない! パパ、感心してないで早く降ろしてあげてよ!」
みゆ「データの修正を行います。頑固親方の危険度ランク、最高値から測定不能(無害)へと改定されました」
ベアトリス「流石はもっふるですわ! 鉄の国の猛者を一瞬で従えてしまいましたわ!」
こうして――
頑固で恐ろしい親方が置物のように固まる中、
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
また一歩賑やかさを増していくのだった。
ドワーフの国で立ち寄った大衆食堂で、出されたのは規格外すぎる山盛り料理。
さらに「若造」扱いされたパパと娘たちが大食い勝負に挑む中、背後には冷ややかな謎の影が忍び寄り。
次回、第261話 え、パパが勇者!? これがドワーフの食卓!? 娘たちも興味津々の食文化体験!?




